ガンやウイルス感染でキラー細胞が誘導できても、細胞表面に抗原ペプチドを提示してくれる組織適合性抗原、キラー細胞の場合はクラス1MHC(MHCI)の発現がないと役に立たない。例えば、Covid-19感染後の免疫機能の主役であるキラー細胞のアタックを防ぐため、コロナウイルスもMHCIとβ2ミクログロブリンの結合を不安定化させる分子を持っていることが知られている。同じように、ガン細胞の免疫回避でもMHCIの発現を低下させることが重要なガン側の戦略になっている。
今日紹介するニューヨーク大学からの論文は、ガンの免疫回避メカニズムを探索する中で、MHCI とガン抗原ペプチドを細胞表面からリソゾームへ移行させて分解する仕組みを明らかにし、ガン免疫を維持する分子標的になる可能性を示した研究で、8月8日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「A membrane-associated MHC-I inhibitory axis for cancer immune evasion(ガンの免疫回避に関わる膜上に存在するMHCIを阻害軸)」だ。
研究ではキラー細胞が認識するペプチドを提示した MHCI の量を抗体ではかれる様にした細胞を用いて、CRISPR/Cas9網羅的遺伝子ノックアウトを行い、Ag/MHCI が上昇する変異、低下する変異をまずリストしている。これらの遺伝子はこれまで MHCI 発現や、抗原ペプチドのロードに関わる分子として知られている分子で、スクリーニング方法が機能していることが確認できる。
この中から、他の MHCI の細胞表面発現にも影響がある遺伝子をさらに探索し、欠損すると MHCI が表面上に持続する2分子、SUSD6 と TMEM127 を発見する。
後はこの2分子の機能を丹念に解析しており、詳細を省いて結論だけ述べると以下の様になる。
SUSD6は構造がにぎり寿司に似ていると名付けられたSushi domainを持つ膜蛋白質で、TMEM127も4回膜貫通型の蛋白質で、それぞれ細胞膜上で MHCI と結合する。これにより細胞内のユビキチンリガーゼが MHCI にリクルートされ、リソゾームへと移行して分解される。この結果、膜上での MHCI の発現量が低下する。逆に、ガン細胞から SUSD6 や TMEM127 をノックダウンすると、MCHI の膜上の発現が持続し、その結果移植したホストに拒絶されやすくなり、生存期間が延びる。
以上が結果で、MHCI と細胞膜上で直接結合し、MHCI をリソゾームで分解する分子が見つかったことで、個の分子との会合をうまく止めてやれば、MHCI の細胞膜上での寿命を長引かせて、結果ガン免疫を増強できる可能性がある。具体的にはどうすればいいのか、この会合に関わる分子機構の解明が必要だが、面白い治療標的だと思う。