8月14日 血管性認知症のメカニズム(8月7日米国アカデミー紀要掲載論文)
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8月14日 血管性認知症のメカニズム(8月7日米国アカデミー紀要掲載論文)

2023年8月14日
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認知症というとアルツハイマー病と考えられてしまうが、高血圧に伴う血管性認知症も全体の2割以上を占める深刻な問題で、軽度な症状で発見されても、血圧を下げる以外に全く治療法がない。

今日紹介するマンチェスター大学からの論文は、独自に作成した高血圧マウスを用いて高血圧で脳血流量が低下するメカニズムを調べた研究で、8月7日号米国アカデミー紀要に掲載された。タイトルは「Uncoupling of Ca 2+ sparks from BK channels in cerebral arteries underlies hypoperfusion in hypertension-induced vascular dementia(BKチャンネルから放出されるカルシウムスパークから切り離されることが高血圧による血管性認知症の血流量減少の背景にある)」だ。

この研究では独自に作成した、複数の遺伝子が関わって発症する高血圧モデルマウスを用い、人間の血管性認知症と同じように、不安症が強い記憶障害が起こっていることを確認する。また、このマウスでは脳血流量が15%減少して認知症の原因になっていることを示している。

この原因についてだが、これまでの研究で脳毛細血管のカリウムチャンネルが低下しており、これが原因の一つであることを突き止めていた。さらにこの研究では、より大きな小動脈の異常についても生理学的に調べ、小動脈が収縮しているためおおよそ10%の内径の減少が見られることを確認する。

この小動脈収縮の生理学的原因を調べ、小動脈周りの平滑筋が発現しているカルシウムにより活性化されるカリウムチャンネル(BKチャンネル)の活動が低下し、これが小動脈の持続的収縮の原因であることを突き止める。

原因となるチャンネルが特定されると、後は生理学的実験を重ねて、変化の原因を調べることになる。当然遺伝子変異ではないので分子の構造は変化していない。ここからは血管生理学というか、BKチャンネルの活性化機構についてのプロフェッショナルな研究で、少し説明がいる。

BKチャンネルを活性化させるのは、小胞体からリアノジン受容体を介して放出されたカルシウムで、そのためにはリアノジン受容体とBKチャンネルが近接して高いカルシウム濃度にBKを晒す必要がある。このため、BKチャンネル活性の低下は、小胞体からのカルシウム分泌の低下、あるいはBKチャンネルの発現低下などが考えられる。

ところがこのマウスでは、カルシウムの遊離及びBKチャンネルの密度などは全く変化がないことがわかった。しかしよく調べると、BKチャンネルとリアノジン受容体が高血圧マウスでは近接していないことがわかった。すなわち、カルシウムが遊離されていても、その場所にBKチャンネルが存在していないため、刺激できていないことがわかった。

結果は以上で、簡単に述べてしまったが、BKチャンネルとリアノジン受容体の分布異常については、微細組織学の粋を集めた実験で、是非自分で見て欲しい。

個人的にも、血管性認知症については、動脈硬化など血流量が減れば仕方がないで片付けていたが、血管の緊張異常として新しく示されると、納得した。ただ、これが原因だとすると、細胞内の構造の問題なので、治療法を考えるのは難しそうだ。

カテゴリ:論文ウォッチ