8月12日 迷走神経がハブとして働く腸脳相関(8月8日 Cell オンライン掲載論文)
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8月12日 迷走神経がハブとして働く腸脳相関(8月8日 Cell オンライン掲載論文)

2024年8月12日
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プロバイオやプレバイオで不安を和らげ、自閉症スペクトラムの社会性を回復できることを示した論文について一度まとめて紹介したことがあるが(https://aasj.jp/news/autism-science/11102)、このような相関関係は腸脳相関と呼ばれて盛んに研究されている。

腸脳相関は細菌叢が脳に働くと言うだけでなく、例えば迷走神経を刺激して細菌叢を変化させ腸のバリアーを高め、炎症性腸疾患の症状を改善できることを示した論文の様に、逆方向の関係を示した論文も多い。

今日紹介するマウントサイナイ医科大学とチュービンゲンマックスプランク研究所からの論文は、迷走神経刺激と細菌叢の相互作用について、特に十二指腸のブルンナー腺に注目して明らかにした研究で、8月8日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Stress-sensitive neural circuits change the gut microbiome via duodenal glands(ストレスに感受性の神経回路が十二指腸腺を介して腸内細菌叢を変化させる)」だ。

ブルンナー腺は十二指腸粘膜下にある粘液腺で、アルカリ性の粘液を分泌して胃酸を中和し、消化酵素の働きを助ける重要な腺で、粘液を作るという点では小腸以降の腺組織と同じでも、ペプシノーゲンの発現、Mucin6 の強い発現、EGF分泌などはブルンナー腺特異的で、独立した粘液組織と考えられる。

以上の特徴は、消化だけでなく、当然細菌叢にも影響があると考え、この研究ではまずコレシストキニンによりブルンナー腺を刺激したときの小腸細菌叢を調べ、特に乳酸菌の増殖が高まることを発見する。

コレシストキニンは消化管ホルモンなので、このブルンナー腺の特徴が腸脳相関にも関わることを示す目的で、ブルンナー腺の神経支配を光遺伝学的方法を用いて探索し、最終的に延髄の dorsal motor nucleus (DMV) 由来の迷走神経がブルンナー腺を支配していることを確認する。

この結果に基づいて、様々な方法で迷走神経を刺激したり、除去したりする実験を繰り返し、迷走神経刺激によりブルンナー腺が活性化され、粘液が分泌されることで乳酸菌の増殖が起こることを明らかにする。ただ、変化は細菌叢にとどまらず、例えば迷走神経刺激が伝わらなくすると、腸上皮バリアーが弱まり、感染が起こりやすくなり、腸内リンパ組織や脾臓の免疫反応低下にまで影響が及ぶことがわかった。その結果、病原菌感染によるマウスの死亡率は上昇する。

重要なことは、ブルンナー腺刺激、あるいは抑制の効果が、全て腸内細菌叢を介して起こっていることで、ブルンナー腺を除去したマウスでも、健康マウスの便移植、あるいは乳酸菌とビフィズス菌を会わせたプロバイオ投与で、バリアー機能や免疫機能を回復させることができる。

まさに文字通り、腸脳相関の系といえるが、研究ではさらに高次脳機能との関わりを調べるため、まず DMV 領域に投射する中枢神経を探索し、不安やストレスに関わる脳領域である扁桃体と DMV との結合を特定する。次に、扁桃体を刺激する実験を行い、扁桃体の興奮は、MDV を介してブルンナー腺を活性化し、乳酸菌の増殖を促す。一方、不安やストレスは、扁桃体神経の興奮を抑制し、その結果ブルンナー腺の活動が低下し、腸管の炎症や免疫異常を誘導することを明らかにする。

一方、マウスにストレスを与えた時に起こる細菌叢や腸内免疫系の変化は、迷走神経系刺激で回復できることを明らかにしている。

以上、脳高次機能、自律神経、消化管ホルモンサーキット、そして細菌叢の複雑な相関が明らかになった。いずれにせよ、ストレスが続いたときは迷走神経を刺激するか、プロバイオは効果がありそうだ。

カテゴリ:論文ウォッチ