8月19日 脊椎動物海から陸への上陸作戦を肺魚ゲノムに探る(8月14日 Nature オンライン掲載論文)
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8月19日 脊椎動物海から陸への上陸作戦を肺魚ゲノムに探る(8月14日 Nature オンライン掲載論文)

2024年8月19日
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進化の大きなエポックの一つは生物の海から陸への上陸作戦だ。植物や節足動物では4億5千年前前後に陸上進出を果たしたと考えられているが、脊椎動物となると、かなり遅れて3億7千万年前のデボン紀の肉鰭類や四足類の間に位置するアカントステガなどが知られているが、ゲノムを調べることは難しい。その代わりに、シーラカンスや肺魚など現存の肉鰭類のゲノムから、エラ呼吸から肺呼吸への転換、四肢の発生など上陸作戦の道程を調べる研究が進んでいる。

今日紹介するドイツビュルツブルグ大学とコンスタンツ大学からの論文は、アフリカ、南アメリカに生息する2種類の肺魚のゲノムを解析し、2021年に発表していたオーストラリア肺魚ゲノムと比較しながら、上陸への道程を調べた研究で、8月14日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「The genomes of all lungfish inform on genome expansion and tetrapod evolution(全ての肺魚のゲノムはゲノム拡大と四肢の進化の道程を教えてくれる)」だ。

肺魚は、4億年前に進化しているが、現存しているのは分布が異なる上に挙げた3種類で、この中で先祖に最も近いとされているオーストラリア肺魚(AL)については2021年の論文で、エラ呼吸から肺呼吸への進化、嗅覚の発生、鰭から足への進化などに必要な遺伝子に焦点を当てて詳述している。

この研究では、さらにジュラ紀(1億8千年前)にアフリカと南アメリカが分かれた際に分岐したアフリカ肺魚と南アメリカ肺魚のゲノムを、long read 可能なシークエンサーを使って解読し、染色体3次元トポロジー解析も合わせて、最終的にゲノム全体の構成を明らかにしている。すなわち、現存3種類全部の肺魚ゲノムを比べることで、さらに詳しく進化の道筋を探っている。

通常のゲノム解析とは異なる方法を用いる必要があったのは、肺魚はゲノムサイズが我々人間と比べてもはるかに大きく、繰り返し配列が多いためで、long read を繰り返す大変な作業だったと推察する。

そして新しく配列が決定されたアフリカ肺魚と、南アメリカ肺魚のゲノムサイズはそれぞれ 91G、40G で、アフリカ肺魚はなんと人間の30倍の大きさになっている。すでに報告されているオーストラリア肺魚は 40Gで、これまで知られている脊椎動物の中では肺魚のゲノムが一番大きい。一方で、機能的遺伝子の数は、どれも2万前後で、独立して2億年以上進化し、しかもゲノムのサイズが倍以上違うのに、遺伝子の構成は極めてよく保存されていることが明らかになった。遺伝子の大きくなったほとんどの原因はジャンクと呼ばれるトランスポゾンの数が増えた結果になるが、それにもかかわらず重要なゲノム構造は進化の過程で維持されている。

この研究のハイライトは、3種類の肺魚でトランスポゾンが現在も増大している原因を探り、トランスポゾンを不活性化するために使われる、PIWI と呼ばれる小さな non-coding RNA 量が、1/10程度に低下している結果であることを明らかにする。すなわち、現存の肺魚でもジャンク DNA は増大し続けていると考えられる。PIWI 合成が低下している原因については、合成システムが欠損しているのではなく、3種類それぞれに異なるメカニズムが働いていることを示している。

もちろん大きな形質の変化が必要な進化では、トランスポゾンであってもゲノムの多様性が重要になるが、人間の30倍というゲノムを複製するためには、細胞周期システムから、予想される DNA 損傷への対応など、多くの遺伝子が変化する必要があり、その一部はゲノム解析から推定できる。

他は、オーストラリア肺魚の論文で示されたことの追認だが、鰭から足への進化でまず失われる、鰭の複雑性を誘導するシステムは、古代型に近いオーストラリア肺魚では、鰭の遺伝子発生に必要なマスター遺伝子を導入することで、プログラム全体を再活性化できることを示し、今後さらに鰭から足への進化のメカニズムを追求できる可能性を示している。

2021年の論文とセットなので、是非両方読んでほしいが、上陸作戦の道程についていくつかのシナリオが示されたので、今後が楽しみになる論文だ。

カテゴリ:論文ウォッチ