バクテリアから人間まで、抗菌作用がある比較的短いペプチド(anti-microbial peptide :AMP)は、細菌感染の第一線、あるいは細菌同士の競合に関わることが明らかになっている。さらに、このような抗菌ペプチドを薬剤として使うための開発も進んでおり、すでに使われている AMP としては、ポリミキシンB、コリスチン、バンコマイシンなどが挙げられる。
今日紹介するペンシルバニア大学からの論文は、人間の腸管、口腔、皮膚、膣の細菌叢の全ゲノム解析データの中から AMP 候補を323種類見つけた研究で、8月19日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Mining human microbiomes reveals an untapped source of peptide antibiotics(ヒトの細菌叢を探索するとまだ知られていない抗菌ペプチドソースが明らかになった)」だ。
現在ヒトの様々な組織から分離した細菌の全ゲノム解析データベースが整備されているが、このデータから、まず50アミノ酸以下の44万種類のペプチドをリスト、その中から抗菌活性を予測する AI モデルを用いて、最終的に323種類の、AMP 候補をリストしている。
In silico で候補を323種類にまで絞れれば、あとは抗菌活性が本当にあるのかを調べるだけになる。まず、それぞれの AMP の由来を調べているが、これは簡単ではない。323種類のうち294種類については属レベルで由来が特定できるが、系統レベルまで特定するのは難しい。驚くことに、78種類がウイルス由来であることもわかった。また、細菌叢の mRNA 解析データと比較し、これら AMP が実際細菌で作られていることも確認している。
ここまで来ると、あとはペプチド一つ一つについて抗菌活性を調べる段階に入る。このため、抗菌活性予測値が高い78種類のペプチドを全て合成し、11種類のバクテリアを用いて抗菌活性を調べている。この結果、半分以上55種類の AMP が少なくとも一種類の細菌に対する抗菌活性があることがわかった。
また、十分臨床的にも用いられる広範囲の細菌に活性を持つ AMP を5種類選び、さらに詳しい解析を行っている。構造的には多様で、αヘリックスが多いが、βシート型のペプチドも存在する。そして、抗菌メカニズムは、膜の破壊で、細胞膜の電位が AMP により脱分極することが示されている。
最後に、マウスの皮膚膿瘍モデルを用いて抗菌活性を調べ、特に5種類の中の prevotella 由来の Prevotellin-2 がポリミキシンB に匹敵する抗菌活性を持っていることを示している。
以上、ペプチドに絞って探索すれば我々の身体からも有用抗生物質を特定できるという話になってしまうが、本当はもっと重要な内容も含んでいる。すなわち、AMP の細菌叢での役割と、細菌叢形成過程の理解だ。今回特定された AMP は様々な抗菌活性を持っている。例えば AMP 同士が協力して、その細菌叢には存在しない細菌を除去しているケースや、さらには同じ種類同士で作用し合ってニッチを巡る競争に関わる AMP もある。さらに、動物は常に大便からの感染が起こる習性を持つが、口内細菌の一つ fusobacterium 由来の AMP が直腸の細菌叢常在菌に高い活性を示すのも意味深だ。このように、細菌間の関係を AMP を通して整理することで、細菌叢の成立と機能をより深く理解できる様になると思う。