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12月26日:骨髄幹細胞の末梢への新しい動員方法(1月11日発行予定Cell掲載論文)

2017年12月26日
造血幹細胞移植による白血病の治療が始まった頃、幹細胞はまず100%ドナーの腸骨骨髄を全身麻酔下で吸引採取する方法で調整する骨髄移植 (BMT)だった。しかし2000年前後から、ほぼ同じ効果のある幹細胞を末梢血から得る方法が開発され、血縁者間の造血幹細胞移植では末梢血幹細胞を調整して移植する末梢血細胞移植(PBSCT)の方が主流になっている。全身麻酔を必要としないという点では確かに楽に見えるが、実際にはG-CSFを何回も投与し、4日目から2−3日続けてアフェレシスという方法で3−4時間かけて幹細胞を分離する。このため、拘束時間でいうと、PBSCTは長い時間かかるのが難点だ。これを改善するためには、骨髄から幹細胞を末梢に動員する新しい方法の開発が待たれていた。

今日紹介するハーバード大学からの論文はひょっとしたらPBSCTの方法を一変させる可能性を秘めた骨髄幹細胞動員方法の開発で1月11日号のCellに掲載される予定だ。タイトルは「Rapid mobilization reveals a highly engraftable hematopoietic stem cells(迅速動員法により移植効率の極めて高い血液幹細胞の存在が明らかになった)」だ。

このグループはもともと、G-CSFの代わりにCXCR2を刺激するケモカインGROβが利用できないか人間を用いた治験を行っていたようだが、期待したほどの効果を得ることができていなかった。そこで、G-CSFと合わせて使われるCXCR4阻害剤AMD3100とGROβのコンビならどうかと、マウスを用いる前臨床研究を行ったところ、同時に両方を投与することで、幹細胞の動員を3倍以上に促進すること、しかも一回投与で、15分後にはすでに動員がピークになることを発見する。すなわち、G-CSFによる幹細胞動員方法を、簡便さでも、採取できる幹細胞の量でもはるかに凌駕できる可能性が生まれた。

そこで、動物モデルや試験管内刺激実験ででメカニズムを完全に明らかにしようと様々な実験を行い、

1) GROβは好中球のマトリックス分解に関わるMMP9の発現分泌を誘導するが、CXCR4を阻害するとこの効果が高まる。
2) 同じことは、人の好中球でも確認できる。
3) 幹細胞の動員に関わるのはMMP9で、この活性が弱い系統ではこの方法の動員効果が落ちる。
4) この動員には骨髄中の血管透過性が上昇することも関与している。

などを明らかにしている。

これだけでも臨床応用の価値はあるが、ただ話はこれだけで終わらない。最大のハイライトは、この方法で得られた細胞の幹細胞としての能力がG-CSFを用いた方法と比べ2倍以上に高いことの発見だ。放射線で障害された骨髄を移植で再構成する実験で、幹細胞能力を詳しく調べる実験から、幹細胞の質が異なっていることが予想され、この差の原因を遺伝子発現を比べて検討した結果、新しい方法で動員された幹細胞が、なんと胎児肝臓造血細胞に近いことを突き止めている。

これ以上の分析はなされておらず、なぜ胎児肝造血細胞型に先祖返りするのかについての答えは出ていないが、短い時間で幹細胞が採取でき、しかもそれがこれまでの方法より高い能力を持つ幹細胞なら、臨床的には画期的な結果だと思う。おそらく、人間での治験研究も着々進んでいると予想できるので、この可能性が応用可能かどうかわかるのにそう時間はかからないだろう。なんとなく瓢箪から駒という気がする。
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