1、 Dupixent
RgeneronとSanofiが開発した、IL-4受容体に対する抗体で、重症の湿疹への治療効果が認められた。メカニズムから考えると当然の結果だが、1年に400万円近い金額がかかるのが難点。
2、 Ocrevus
多発性硬化症の中の15%程度に当たる、一次進行性多発性硬化症を対象にした抗体薬で、CD20陽性B細胞を標的にしており、ロッシュの子会社ジェネンテックにより開発された。同じ標的に対して、すでにリツキサンが存在するが、Ocrevusは完全にヒト化されている点で異なる。ただ、年700万円近いコストが問題。
3、 Kymriah
すでに私も何度も紹介したガン抗原に対するキメラT細胞受容体遺伝子を用いるCAR-T治療で、ノバルティスにより開発され、急性リンパ急性白血病の根治をもたらすのかもしれないと期待されている。ScienceやNatureのニュースの今年のニュースにも取り上げられているが、一回の細胞移植にかかるコストが5000万円近い。
4、Radicava
我が国から唯一選ばれた薬剤で、田辺三菱製薬により開発され20年ぶりにALSに効果があることがFDAにより認められた神経保護剤だ。治すことはできないが、進行を33%遅らせる効果がある。
5、 Ilaris
ノバルティスにより子供の全身性リュウマチに対する薬剤として利用されていたIL-1βに対する抗体薬だが、2017年、心臓発作の既往のある患者さんの再発を抑える効果があることが発表され注目されている。3ヶ月に一回、皮下投与だが、一回150万円程度の費用がかかる。
6、 Idhifa
Celegeneによって開発された、IDH2遺伝子の変異により増殖していることが確認される急性骨髄性の治療薬。IDH2に対する阻害剤としては最初の薬剤で、経口投与可能。2割近くの患者さんが、この治療で完全寛解する。治療には月300万円程度かかる。
7、 Imfinzi
非小細胞性肺ガンに対する抗体薬で、PD-1に結合するリガンドPD-L1を認識する。アストラゼネカによる開発された。ステージ3以上の患者さんに効くのは予想できるが、PD-1に対する抗体が普及している今、どのように利用されるのか予想できない。
8、 Heplisav-B
Dynavaxにより開発された大人に対してB型肝炎ウイルスの感染を予防するためのワクチン。何度も認可が拒否されたいわくつきのワクチンだ。ワクチンが認可されたのは喜ばしいが、小児への効果は低いらしいので、どのような状況で利用するのか?
以上は完全成功例だが、黄色信号、赤信号が灯った薬剤についても見出しを飾ったとして紹介している。CAR-TをAMLに使おうとCD123をがん抗原として用いたフランスCellctisの第1相治験で死亡事故があり、臨床治験が差し止められた。CAR-Tはパワフルな治療だけに、今後もこのような事故は予測できる。メルクの抗PD-1抗体薬だが、ミスマッチ修復変異を対象にするという今年の10大ニュースになったヒットを飛ばしたものの、頭頸部腫瘍に対する効果は初期効果を上げていない。最後が、AlnylamとSanofiが開発した血友病に対するRNA薬で、異常たんぱく質の産生を抑える目的で開発されたが、第2相治験中に死亡事故で、治験がやり直しになった。
治験がうまくいかなかった薬剤について紹介する気はないが、一つだけ残念なのが、メルクが開発していたアルツハイマー病に対するBACE阻害剤だ。実際、私のブログでもメルクのScience Translational Medicine論文を紹介したが、実際の治験になると効果がないことがわかていたとすると、論文を書くための論文を書いたということになる。
カテゴリ:論文ウォッチ