遺伝子治療についてはおいおい結果が出てくれると期待しているし、また漏れ聞こえるところでは、効果が示されているようだ。ただ、これらの治療が軌道に乗るまでは、対症療法で少しでも病気の進行を遅らせることが大事だ。この病気の進行を遅らせる可能性があるのが、プレドニンなどのステロイドホルモン治療で、デゥシャンヌがこの病気を記載した頃から既にその可能性が期待されていた。事実、我が国の厚労省のガイドラインにもステロイドホルモンが記載され、病気の進行を遅らせる目的で利用する医師も多い。しかし、ステロイドホルモンの長期投与は副作用が不可避なため、投与を受けない患者さんも多くおられるようだ。また、どの段階で、どのように利用するか明確でないのも問題だった。
今日紹介するカリフォルニア大学デービス校を中心に9カ国20施設の医師が共同で発表した論文は、2−28歳の患者さんを対象にステロイドホルモンの効果を確かめるために行われた、これまででは最も大きな治験がThe Lancetオンラン版に掲載された。タイトルは「Long-term effects of glucocorticoids on function, quality of life, and survival in patients with Duchenne muscular dystrophy: a prospective cohort study(ドゥシャンヌ型筋ジストロフィーの患者さんの筋肉機能、生活の質、そして生存に対するグルココルチコイドの長期効果):前向きコホート研究」だ。
時間とともに症状が進むため、リクルートした2−28歳の患者さんの症状はまちまちだ。そこで、寝た姿勢から起きあがれるか、起き上がるのに5秒以上、あるいは10秒以上かかるか、階段を4段上がれるか、歩けるかなどの下肢の運動機能、そして頭に手を持ち上げられるか、手を口まで持って来れるか、腕の機能は残っているか、など患者さんの進行度に合わせ細かく指標を選び、それぞれの機能が失われる年齢を比べて、ステージごとにステロイドホルモンの効果を調べている。
治験の詳細を説明するのは避けて、結果だけを説明すると、すべてのステージで、一年以上ステロイドホルモンを服用すると、運動機能の維持に大きな効果が得られている。例えば、足の機能で見ると2−4年機能の喪失を遅らせることがで、腕の機能では2.8-8.0年病気の進行を遅らせることができる。そして、ステージが進んだ後も死亡率も大きく改善する。素人の私が見ても、一目瞭然で効果がわかるほどの差が出ている。これらの結果から、ドゥシャンヌ型筋ジストロフィーは、少なくとも他の治療法が確立するまで、ステロイドホルモン治療が最も効果がある治療として推薦されるという結果だ。
根治という観点からはもちろん遺伝子治療や細胞移植に期待が集まる。しかし、今回のように当たり前の薬剤の効果をしっかり確かめ、標準医療の質を高めることも医学の役割で、ぜひ紹介したいと思った。
カテゴリ:論文ウォッチ