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12月20日:抗炎症性サイトカインIL-10は脂肪細胞の熱発生を抑制しメタボリック症候群を促進する(1月11日発行予定Cell掲載論文)

2017年12月20日
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インシュリン抵抗性を伴ういわゆるメタボリック症候群は、免疫系が慢性的に活性化される一種の炎症だと考えるのが現在の主流になっている。この考えに従って、白色脂肪細胞を、熱発生型の褐色脂肪細胞へと変換するサイトカインが探索され、例えば運動でIL-4が好酸球から分泌されると、脂肪細胞の熱生成が高まることや、IL-33も同じ効果があることが見つかってきた。

この考えが正しいなら、炎症を抑えるサイトカインとして最も有名なIL-10にもメタボリックシンドローム(メタボ)を改善する効果があるのではと期待され、ノックアウトマウスの解析が行われたが、IL-10にメタボ防止効果があるという証拠は得られなかった。

今日紹介するUCLAからの論文は、これまで考えられてきたのとは逆にIL-10が脂肪細胞の熱生成を抑え、メタボを促進していることを明らかにした研究で1月11日発行予定のCell に掲載された。タイトルは「IL-10 signaling remodels adipose chromatin architecture to limit thermogenesis and energy expenditure(IL-10は脂肪細胞のクロマチン構造を再構成し、熱生成とエネルギー消費を制限する)」だ。

この研究の発端は、IL-10ノックアウトマウスが予想に反して、肥満にならず、インシュリン抵抗性がなく、白色脂肪組織が少ないことに気がついたことに始まっている。さらに組織学的に見ると、白色脂肪組織が、熱発生型の褐色脂肪組織に変わっている。すなわち、IL-10は白色脂肪組織が熱発生型の褐色脂肪組織になるのを抑えているという驚くべき結果だ。

この可能性を確かめるため、IL-10ノックアウトを一匹づつ飼育してエネルギー代謝を調べ、IL10が欠損するとエネルギー消費が高まり、それが脂肪組織の熱発生の結果であることを確認する。さらに脂肪細胞の培養系で、IL-10が直接脂肪細胞に働いて熱生成を促すこと、またこの効果は脂肪細胞がアドレナリンの刺激を受けてスイッチの入った熱生成を促進する結果であることを明らかにしている。

次にこの過程の分子メカニズムを探索し、骨髄由来の血液細胞が分泌するIL-10が直接脂肪細胞に働きかけ、脂肪の燃焼に関わる様々な遺伝子上流のクロマチン構造をオフ型に変換し、Ucp1やCideaなどの熱生成に関わる遺伝子の調節領域に転写因子が結合できなくする役割があることを明らかにしている。

話はこれだけだが、これまで抗炎症性サイトカインとだけ考えてきたIL-10の機能が、実際には脂肪細胞の熱発生の調節ではないかとすら思える研究だった。ただ、最初IL-10はメタボを促進する悪いサイトカインなのかと思って読み始めたが、よくよく考えると、いつも食うや食わずの生活を余儀なくされる野生動物で、せっかく貯めた脂肪が燃えてしまう方が問題で、IL-10は大事な脂肪を守って動物を助けている考えた方が良さそうだ。結局、メタボを抑える機構ばかりに注目する人間の方がはるかに異常な動物であることを実感した。
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