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12月19日:CD19を標的にしたもう一つのCAR-T臨床研究(12月11日号The New England Journal of Medicine掲載論文)

2017年12月19日
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2014年10月The New England Journal of Medicineに掲載されたCAR-T治療の成績を見て、私は癌に対するキラー細胞の力に目を見張った。この時用いられたCAR-T とは癌の発現する抗原に対する抗体の抗原結合部位を細胞外に、CD3ζ細胞内シグナルドメインと補助シグナルとしてCD137の細胞内シグナルドメインを合体させたT細胞刺戟部位を細胞内に持つT細胞のことで、このキメラ遺伝子を末梢血から取り出した患者さんのT細胞に導入した後、もう一度患者さんに戻すことで、癌を殺す戦略の治療だ。この論文では、化学療法の効かなかった急性リンパ性白血病の患者さんが対象として選ばれ、なんと半分近くの患者さんで白血病が消失し、6ヶ月以上病気が進行しないという画期的な結果だった(http://aasj.jp/news/watch/2309)。そして、この治療法は今年の8月小児及び若年者のALL治療としてFDAの認可を得て、なんと治った患者さんだけに47.5万ドル成功報酬を請求するという、驚きのプライシングでノバルティス社から市場に登場した。

しかしCAR-T治療を開発している会社はNovartisだけではない。同じCD19を標的にして、CD3ζのシグナルドメインは同じだが、組み合わせる補助シグナル分子が違うという方法を、Novartis以外の少なくとも2社が開発を続けている。そのうちの一つKitePharma(現在はC型肝炎薬で有名なギリアドサイエンス社の傘下)のCD19を標的とするCAR-T治療の第2相治験が、テキサスMDアンダーソンガン研究所から12月11日号のThe New England Journal of Medicineに掲載された。タイトルは「Axicabtagene ciloleucel CAR-T therapy in refractory large B-cell lyphoma(化学療法に反応しない大細胞型B細胞リンパ腫に対するAxicabtagene ciloleuel CAR-T 治療)だ。

Novartisが販売しているKymriahと比べると、大きな違いは補助シグナルにCD28のシグナルドメインを用いていること、化学療法が効きにくく、生存率が平均6ヶ月と予後の悪い、成人に発症するびまん性大細胞型B細胞リンパ腫を標的にして治験を行っている。

NovartisのKymriahの成績から想像できるように、82%の患者さんで治療効果が見られ、完全に腫瘍を消失させる確率が54%と驚くべき結果だ。さらに、平均で15ヶ月追跡し、40%の患者さんが完全寛解を続けていることも示している。そしてほとんどの患者さんで、長期間CAR-Tが血中に認められることも示している。 もちろんこのCAR-Tでも貧血や神経症状を含む副作用は高率に見られる。特に問題になるのは、サイトカインが分泌されることによる症状で、心停止に至ることもある。詳細を省いて結論をまとめると、対象疾患は違っても、NovartisのKymriahの成績とほぼ同じで、CD19を発現している腫瘍に高い効果を示し、多くの人で効果が続く。しかし、副作用も必発で、経過を注意深く見る必要があると結論できる。

話はこれだけだが、気になるのは補助シグナルが違うとはいえ、ほとんど同じ治療法がどのように棲み分けるのかという点だ。同じ疾患を標的にした場合は、優劣はつかないような気がするが、医師はどう選べばいいのだろう。補助シグナルの違いで優劣が出るかもしれないが、どちらにせよガンの根治が可能なのかはさらに長期の追跡が必要だろう。また根治可能となった時、この治療法の価格設定も気になる。同じように成功報酬型で50万ドル近くのプライシングになるのだろうか。

折しもJAMA Pediatricsに脊髄性筋萎縮症の治療のため開発された、腰椎穿刺で注射する遺伝子治療薬Nusinersenが、最初の年に75万ドル、その後毎年37.5万ドルかかることに対する医師側の懸念が表明されていた(JAMA Pediatr. doi:10.1001/jamapediatrics.2017.4409)。

今誰もが、このような状況がそのまま続くはずはないと思っている。破綻するまでに立ち止まって新しい創薬開発のあり方を考える時が来ていると思う。
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