今日紹介するジョンホプキンス大学からの論文は、肺がんのエピジェネティックな治療が成立するメカニズムを調べた論文で11月30日号のCellに掲載された。タイトルは「Epigenetic therapy ties myc depletion to reversing immune evasion and treating lung cancer(エピジェネティック治療によりmycの除去が免疫回避を元に戻し肺がんを治療が可能になる)」だ。
ガンのドライバーに対する化合物と比べると、エピジェネティック治療に用いられる化合物には特異性がないため、基本的にはゲノムの領域を問わずエピジェネティック制御が狂う。もしこの方法がガンに効くとすると、ガンでは正常細胞より強くエピジェネティックな機構に依存していることになる。この研究ではまずDNAメチル化阻害剤(AZa)とヒストン脱アセチル化阻害剤(HDACi)に感受性のある肺がんを探索し、rasをドライバーとする肺ガンの試験管内増殖や、免疫不全マウス内での増殖に効果を示すことを確認する。
次にこの治療で特に変化する遺伝子セットを探索し、細胞増殖に関わる遺伝子群に加えて、インターフェロンなどの免疫シグナルに関わる分子が増強することを見出す。
このメカニズムを探索して、DNAメチル化を抑えることで発ガンを促進するMyc遺伝子の発現が抑えられ、これがHDACiへの感受性を高める効果があり、ガンだけでなく周りの間質や免疫系もりプログラムすることでガン免疫が高まることが示唆された。最後に、このことをrasを発現させる発ガンモデルマウスを用いて確認している。
実際には詳細な実験が行われているが完全に省略している。要するにAzaとHDACiを組み合わせたエピジェネティック治療でガンの増殖だけでなく、ガンに対する免疫も増強することでガンを2方向から制御できるというシナリオだ。実際、これまでこの組み合わせにチェックポイント治療を組み合わせると、肺ガンをさらに制御できるということが以前に示されている。
この研究では、エピジェネティック治療の有効性のメカニズムの探索から、rasとMycの関係がクローズアップされたが、同じ号のCellに、rasとmycの発ガンへの影響を調べるケンブリッジ大学の研究が掲載されており、rasによる増殖がmycで増強されるだけでなく、mycによりCCL9,IL-23の発現が上昇し、顔の周りの間質が免疫を抑制するタイプに変化することを示している。一種の裏の実験が、マウスの発ガンモデルで確認されたことになる。
以上両方を合わせると、rasがドライバーでmycも発現している非小細胞性肺がんについては、エピジェネ治療はmycの発現抑制を通して、ガンの免疫を高める2重の効果があり、この治療の適用になることを示唆している。逆に、もしガン細胞でmycが強く発現している場合、周りの間質が免疫抑制的になっているため、チェックポイント治療が効かないことを意味している。今後、他のガンにも是非拡大して、ras,mycガンにはエピジェネ治療というプロトコルができれば素晴らしい。
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