今日紹介するのも一昨日に続いてイスラエル・ワイズマン研究所からの論文で、ホタテ貝の目についての研究で12月3日号のScienceに掲載された。タイトルは「The image forming mirror in the eye of the scallop(ホタテ貝の目に存在するイメージ形成のための鏡)」だ。一昨日紹介した、自閉症の匂いに対する反応の論文もそうだったが、イスラエルではトップの研究所でも研究者の自由な発想をいかした面白い研究が行われていることに感心する。
さて研究だが、素人の私はまずホタテ貝が200もの目を持っていることに驚いた。しかし言われてみると、確かにホタテ貝が移動するのをビデオで見たことがある。とすると、闇雲に移動するわけではなく、当然視覚があってもおかしくない。実際、私も神経の進化について説明するときは、いつもゴカイの幼生の視覚を例として使っている。とはいえ、ホタテも水の中からちゃんと周りを見ていることを知り驚く。
研究自体はホタテの目の構造を解明し、あとはこの構造が網膜上の像の結実をどう支えているのかシミュレーションしているだけだ。発生学もないし、分子生物学もない。しかし、これが可能になるためには、新しい技術が必要で、この研究では氷結したサンプルの微小構造を見るクライオ走査電子顕微鏡と、ミクロレベルの解析を行うCTが用いられている。そしてこれにより明らかになった構造には目を見張る。
まず驚くのが、ホタテの目が一般的な目の持つ角膜、レンズ、網膜のセットに加えて、後ろ側に多くの反射鏡を持っており、これを使って像を結実させている点だ。そして鏡は、2ミクロンほどのグアニンの結晶でできた反射板が敷き詰められている点だ。論文の写真を見せられないので残念だが、よくこんな結晶をうまく敷き詰めたと感心する。わかりやすく言えばキチンの結晶でできた蝶々の鱗粉のイメージだ。ただ、キチンと比べるとグアニンはあまりに脆い。この写真を撮るだけでも大変だったのだろうと思う。しかし、グアニン結晶を選ぶことで、青からグリーンにかけての波長だけが反射されることになり、水を通る光にしっかり適応している。
あとは構造から、鏡で反射された光がどこに結像するかをシミュレーションしている。ホタテの目の構造でもう一つ特徴的なことは、網膜が2枚あることだ。シミュレーションにより、ミラー層から近い側の網膜は、弱い光に反応する目的に使われ、一方遠い側の網膜は強い光に対応することも明らかにしている。すなわち、私たちの網膜の周辺にある桿体細胞と中心部にある錐体細胞の役割を果たしていることを示している。
だからどうなの?と批判めいた声もあるかもしれないが、素直に生命の多様性に驚けばいい。
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