過去記事一覧
AASJホームページ > 2017年 > 12月 > 16日

12月16日:自閉症での小脳と大脳をつなぐネットワークの変化(Nature Neuroscience掲載論文)

2017年12月16日
SNSシェア
一般的に小脳と聞くと、もっぱら運動の制御や学習にかかわると思ってしまうが、実際には障害されると言語や性格障害が起こることが知られ、大脳皮質とネットワークを形成して大脳の高次認識機構を支えていると考えられている。このことが特に認識されるようになったのが、自閉症スペクトラムのMRI検査で小脳の体積の増加、皮質の灰白質の減少などが高い頻度で見られることが指摘されてから、自閉症スペクトラム諸症状における小脳、特に小脳皮質の関与が注目され始めた。これを裏付けるように、2012年Tsaiらは小脳のプルキンエ細胞でTsc1遺伝子をノックアウトしプルキンエ細胞の代謝が上昇するとマウスで社会性の低下や反復行動が見られるという驚くべき論文を発表した。

今日紹介するワシントンにあるAmerican Universityからの論文は、人間と上に述べたマウスモデルを行き来しながら自閉症スペクトラムへの小脳の関わりを調べた研究で12月号のNature Neuroscienceに掲載された。タイトルは「Altered cerebellar connectivity in autism and cerebellar medicated rescue of autism-related behaviors in mice(自閉症で見られる小脳の神経結合性の変化と、小脳を介するマウスの自閉症様治療)」だ。

研究ではまず、小脳皮質(CrusIと呼ばれる部位)と機能的に結合している脳領域を34人の正常人で調べ、皮質が様々な大脳皮質領域と結合するとともに、これまで自閉症との関わりが指摘されている神経ネットワークが含まれていることを確認する。特に先月紹介したdefault-mode-networkと呼ばれる何もしないでボーとしている時に活動しているIPLと呼ばれる回路との関連に注目している。

次に、右側の小脳皮質を頭蓋の外から電流を流す方法(anodal tDCSと呼ばれている)、小脳皮質と自閉症で変化が見られるIPLの結合性が低下することを見出し、この回路を将来電磁場で操作できることを示している。

次に実際小脳皮質のニューロン(プルキンエ細胞:PN)を操作した時、IPLの変化が起こるのか、マウスを用いて調べ、PNの投射がIPLを抑制的に支配していることを明らかにしている。実際、TsaiらのPNでTsc1をノックアウトした自閉症モデルマウスでは、PNの活動が上がり小脳皮質とIPLの結合が上昇している。また、自閉症の患者さんでも小脳皮質とIPLの結合が上昇している。

そこで、このマウスの神経細胞を直接操作しPNとIPLの結合を高めたり、低めたりする実験系を構築し、高めると自閉症様症状が現れ、一方自閉症モデルマウスで結合を抑えると反復行動は残るものの、社会性が戻ることを示している。

以上の結果は、右小脳皮質とIPLの結合性が高まることが自閉症の重要な変化で、これによりIPLが抑制され、その結果社会性の低下などが現れることを明らかにした。マウスを用いた実験では、この結合性を低下させることで自閉症症状を改善できる。幸い人間でもこの回路は、頭蓋の外側からの電流を流す方法で操作できることから、将来右小脳皮質への電磁場照射による自閉症の治療が可能かもしれない期待を持たせる。
カテゴリ:論文ウォッチ
2017年12月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031