さて、このTADの中ではプロモーターとエンハンサーが相互作用して特定の遺伝子の転写が行われるが、この領域内で両者が相互作用するのは、エンハンサー分子と転写開始分子複合体が自然に集まるためかと思っていた。
今日紹介するこの分野の大御所Richard Youngの研究室(マサチューセッツ工科大学)からの論文は、プロモーターとエンハンサーが領域内で相互作用するためにはYY1が必要であることを示した研究で1月11日に発行予定のCellに掲載された。タイトルは「YY1 is a structural regulator of enhancer-promoter loops(YY1はエンハンサーとプロモーターのループ構造を調節する分子)」だ。
このYing Yang(陰陽)と名前の付いた分子は、転写の調節因子として長年研究されているが、遺伝子により発現を促進したり、抑えたりするので陰陽などという名前がついたのではと想像している。遺伝子の量が減ると脳の発達障害が起こるし、逆にガンでは増えることがわかっている。
この研究の本来の目的はYY1の機能解析ではなく、TAD内でそれぞれ離れているプロモーターとエンハンサーが集合する分子メカニズムを明らかにすることだ。両者を橋渡しする分子を探す目的で、エンハンサーの標識としてのアセチル化H3K27、プロモーターの標識としてのH3K4me3を用い、両者が集まったゲノム領域を免疫沈降させた時に一緒に沈降してくるタンパク質を特定している。こうして特定された26種類のタンパク質から、クリスパーを用いてノックアウトを行い、細胞生存に必須の分子を絞り込み、最終的にCTCFと共にYY1がエンハンサ−/プロモーター両方に結合している分子として特定している。
エンハンサー(E)とプロモーター(P)を集めてくる分子としてYY1が特定されたことで、この研究のほとんどは終わっている。あとは、様々な細胞で実際にE/PにYY1が結合していること、YY1結合配列を持つDNAに加えるとYY1が2量体を作ってE/Pを会合させることができること、YY1結合配列がないとE/Pが会合できないことを確認した後、ES細胞内でYY1を分解させて細胞分化への影響を調べている。
YY1が存在しないと、ES細胞内でE/Pのループが形成されないため全く分化が起こらない。最後に、YY1結合配列の突然変異をクリスパーで元に戻す実験系で、細胞内でのE/P結合にYY1結合配列が必須であること、そしてYY1を分解させたES細胞でもYY1遺伝子を発現させると、E/P結合が元に戻ることも示している。
多彩な方法を駆使した、さすがこの分野の大御所の研究室だと感心した。また、個々の遺伝子の転写についてではなく、全ゲノムレベルで調べて初めてYY1の機能が見えてくることもよくわかった。CTCFとCohesinにYY1が加わったことで、クロマチンの3D構造再構成により細胞の状態を予測するゴールにまた一歩近づいたと実感した。
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