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12月28日:アジア人の起源と形成(12月8日Scienceオンライン掲載総説論文)

2017年12月28日
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アフリカでこれまで考えられていたよりはるかに古い時代のホモサピエンスの骨が出土し、またオーストラリアで6万年より古い人骨が見つかったことで、ホモサピエンスのルーツと広がりについての考えが大きく見直され始めており、この分野の進展はサイエンスの今年のブレークスルーにも選ばれた。

これまで、ホモサピエンスはアフリカで20万年前に誕生し、イスラエルを通って4−5万年前にヨーロッパに移動したと考えられてきた。しかし、今年のサイエンス10大ブレークスルーでも取り上げられたように、モロッコで30万年より前のホモサピエンスの化石が見つかったことから、ホモサピエンスはかなり早くからアフルカに広く分布し、この結果アジアへの移動がヨーロッパへの移動と同じ時期に起こったと考える必要がないことがわかってきた。

今日紹介するハワイホノルル大学とドイツ・イエナ・マックスプランク研究所から共同で出された総説は、アジアへのホモサピエンスの移動を、新しい事実に基づいて再構成した総説で、10大ニュースをさらに詳しく理解できるタイムリーでよくまとまった総説だと思う。タイトルは「On the origin of modern humans:Asian perspectives(現代人の起源:アジアからの視点)」だ。

この総説も、我々の先祖のアフリカからユーラシアへの移動がいつ、どのルートで起こったのかについての議論から始めている。実際この問題が最も重要なテーマだ。ヨーロッパへの移動についてはこれまで通り、6万年以降にイスラエル、東ヨーロッパを経由して西ヨーロッパに移動したと考えられる。我が国に渡った先祖も、このグループに属していると考えられるが、これは出土する最も古い人骨が、韓国で4−5万年前の骨、そして日本では沖縄山下町洞窟の人骨(3.8万年前)しか発見されていないためで、南のルートでもしもっと古い人骨が発見されると、話は変わるだろう。

ヨーロッパと異なり、北アフリカからアジア、オセアニアにかけて6万年以前の人骨が数多く発見されるようになっている。まずモロッコでは30万年以上前、エチオピアでは15−20万年前、UAEでは12万年前、北インドで9万年前、南中国では8−13万年前、ニューギニアで6.3-7.3万年前、そしてオーストラリア北部で6.5万年前の人骨が発見され、これをたどると10万年前後にアラビア半島を通って直接アジアに移動したルートが見えてくる。特に面白いのは、このグループがデニソーワ人との交雑が最もハッキリしているグループになる点だ。さらに期待されているのが、このルートでアジアに来た先祖は、ネアンデルタールやデニソーワだけでなく、当時アジアに住んでいた直立原人の末裔とも交雑した可能性がある点で、今後の解析からインドネシアで見つかった謎の多いもう一人の原人、ホモ・フロレンシスの実態解明に至る可能性すらある。そのために最も重要なのは、ゲノムを人骨に残る特徴と対応させることだ。これにより、ジャワの小人フロレンシスの謎も解かれる日が来るかも知れない。

移動時期とルートというハイライト以外にもいくつか面白ん問題が存在する。例えば、ホモサピエンスがこのように世界の隅々に移動できたのも、身体的な進化より、文化の伝播に因るところが大きい。この点についてもアジアは重要で、例えば現在より海面水位は低いとはいえ、4万年前に日本に渡った人類は船を使ったと思われる。さらに、先の陸地が見えなくとも、海に漕ぎ出す気持ちがどう生まれたのかも面白い問題だろう。

アジアでの移動ルートがこのように明らかになってくると、例えば7万年前に起こったジャワの火山の大噴火の影響もわかってくる。この火山の噴火は世界規模の気候変動をもたらし、ユーラシア北部のホモサピエンスの滅亡を招いたのではと想像されている。この前後の遺跡の分布は多くのことを教えてくれるはずだ。また、氷河期は海面が現在より100m低かったため、中国から南アジアの海岸に点在した遺跡は水中に没したと考えられる。おそらく、この発掘が可能になれば新しい発見がいくつもあると思われる。

もうこのぐらいにしておくが、論文で断片的に知識を仕入れるのと異なり、よくまとまって「アジアの人類進化学は面白い」ことがよくわかる。この面白さに対応して我が国にも優れた新しいタイプの人類学者が育つことを期待する。
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