明石北高校でのワークショップ(7/11)の紹介記事(ミニコミ明石7月号)
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明石北高校でのワークショップ(7/11)の紹介記事(ミニコミ明石7月号)

2014年7月25日

140725_ミニコミ明石7月号(明石北高)

(ミニコミ明石編集部から本記事の掲載許可取得済み)

カテゴリ:メディア情報新着情報

7月25日:統合失調症の早期診断(Natureオンライン版掲載論文)

2014年7月25日
不幸なことだが私が医学生だった頃、精神疾患は社会が造る病気だと主張して、遺伝性があることを公言すると攻撃するグループがいた。私の近くでも、当時ユングの読書会を主催していただいていた精神科の先生がタブーを破ってしまって学生から暴力を受けたことがあった。しかし、統合失調症で言えば一卵性双生児の一致率が50%に近い。間違いなく強い遺伝的傾向があることを示している。しかし逆から見ると、100%でないことは、遺伝子は同じでも他の介入によって病気を防ぐ可能性があると言うことになる。そして介入するためには早期診断を行う必要があるが、現在もなお疾患特異的マーカーは見つかっていない。今日紹介する論文は、遺伝子多型の組み合わせで統合失調症を診断できないか可能性を調べた研究で、我が国の藤田保健衛生大も加わった世界規模の共同研究で、Natureオンライン版に掲載された。また、朝日新聞も7月22日付けで鈴木記者がこの論文を紹介している。タイトルは「Biological insights from 108 schizophrenia-associated genetic loci(108個の統合失調症関連遺伝子座から得られる生物学的示唆)」だ。勿論統合失調症については多くのゲノム解析が行われて来た。ただ、多くの遺伝子が複雑に絡み合って病気が発症するため、候補になる遺伝子多型は多く発見されたが、なかなか理解が進まなかった。この問題に、ならば更に多い数の統合失調症の患者さんの遺伝子多型をしらべてみようという動機で約37000人と言う膨大な数の患者さんの全ゲノム領域をカバーする遺伝子多型を調べ、約11万人の対象と比べたのが今回の研究だ。この中には1235人の親が発症した親子が含まれており、より詳しい解析が出来るようになっている。では規模を上げることで何がわかったのか?先ず、統合失調症に関連すると確認できる多型が存在する新しい遺伝子座が83発見され、全体で108の遺伝子座が統合失調症と関連づけることが出来た。この108の中には元々統合失調症に使われる薬剤標的であるドーパミン受容体を初め、これまでは関連が認められなかった神経伝達に関わるカルシウムチャンネル遺伝子などの多型が含まれている。さらに、発見された多型の見られる遺伝子のほとんどは脳で発現しており、統合失調症に関わるための条件を満たしている。この結果を受けて、この論文でも、また朝日の記事でも、この中から新しい標的が見つかり、治療薬が開発できると単純に結論しているが、本当はそう簡単ではない。先ず、多型と言ってもガンのようにその遺伝子に直接変異が存在するわけではなく、その遺伝子の発現を調節する部位の多型が大半だ。更にそれぞれの遺伝子座の関わり方を調べると、多数の遺伝子が絡み合って病気を発症させていることが数理的解析から明らかだ。しかし、現在の数理的手法では遺伝子間の関係や階層性がはっきりしない。さらに、遺伝子発現に関わる多型ということでeQTL解析で統合失調症の原因となりうる遺伝子がないか調べてもはっきりした結果が得られない。従って、私から見ると今後新しい情報処理方法を開発して、このデータを生かして行く方向の仕事が更に必要だと思う。とは言え、関連遺伝子が108確認されたことで、統合失調症発症リスクを計算できるようになった。これを用いて、デンマーク、スウェーデン、アメリカ、オーストラリアの多型結果を実際の発症と重ね合わせてリスク計算をすると、確かに多くの関連多型が重なるほどリスクが高くなる。3種類の集団を解析しているが一つの集団ではオッズ比が20%に達しており、かなり高い。従って、統合失調症の早期診断と言う意味では大きな一歩だと思う。次に予想されるのは、親が発症した家族に生まれた子供さんを早期に診断し、合理的な介入を行うコホート研究だ。しかし、この様な研究が我が国で可能なのか少し心配だ。もし出来ないとしたら、我が国の精神医学は私が学生の頃とほとんど変わっていないことになる。そうでないことを祈る。
カテゴリ:論文ウォッチ

7月24日:食料問題に対するScience誌の本気(7月18日号Science誌掲載論文)

2014年7月24日
5月25日サイエンス誌が格差問題を特集し、科学の対象として格差問題を扱う意志を示したことを紹介した。無論、格差問題に留まらない。温暖化問題を初め地球の抱える問題は深刻だ。持続可能な地球維持のための政策には科学的分析が必須と考え,この問題に挑戦する論文を優先して掲載し、トレンドを造ろうとする意志だ。ただ7月22日紹介したように、すぐに想像力豊かな論文が集まるわけではない。他の分野と比べた時論文の質は犠牲になるかもしれない。しかし科学として成熟するまで時間がかかるとしても、それを後押しするのがトップジャーナルの使命だと言う気持ちだ。今日紹介するミネソタ州環境研究所からの論文は、サイエンス誌の意志がはっきりと見える研究だ。タイトルも「Leverage points for improving global food security and the environment(世界の食料問題と環境問題を改善するための攻めどころ)」。実際leverage pointを訳すのは少し難しい。直訳すると梃の原理で少し変えれば大い効果が出る様なポイントと言う意味で使われている。いずれにせよ、食料安保や環境問題に世界全体にわたって平均的な政策を進めるのは現実ではないので、先ず効果の高い所に政策を集中させるとしたら、どこを攻めればよいかについて研究している。詳しい紹介は全て省く。アメリカ、中国、インド、アフリカ、ブラジルなどについていわゆるビッグデータを統合的に解析し、食料増産につながる政策効果の高い地域、食物などを特定するとともに、農業に起因する地質汚染や炭酸ガス排出問題への提言を行おうとしている。最も重要な結果は、中国、南欧、アフリカ、インド、アメリカの農地の中で、小さな努力で食料増産が容易に達成できる地域を特定している。もし世界の全農地の持つ能力の50%まで農産物を増産できれば8.5億人の食料をまかなえるが、増産余地のある農地の半分は世界の農地の5%に集中していると言う結果だ。即ち、適切な政策を集中的に行えば、高い効果が期待できることになる。実際分析から、中国では灌漑水が有効に使われておらず、この点の改善で食料増産が可能だと言った地域に応じた政策も示唆されている。他にも、農業と森林伐採による炭酸ガス排出問題、肥料による土壌汚染問題など、各項目について世界規模の分析が行われており、おそらく請われれば結果に基づいて提言は可能だろう。いつも読み慣れている論文とは大分違うし、実際正確な査読が可能だろうかと首を傾げたくなる論文だ。しかしこの様な論文に触発され、政策提言に直接つながる科学を目指す研究者が増え、更に論文の質が上がると言うサイクルが始まったのかもしれない。折しもアメリカアカデミー紀要のオンライン版に牛肉生産は他の農業と比べて環境負荷が10倍になることを示した論文が掲載されていた。(Land, irrigation water, greenhouse gas, and reactive nitrogen burdens of meat, eggs, and dairy production of the Unites States)。私たちはタバコの危険性、高血圧、メタボと科学を盾に生活改善を迫って来たが、今日紹介したトレンドから、科学が私たちの生活の原罪とも言える核心にまで迫って来た予感がする。しかし、イラク、ウクライナ、ガザでの戦争を見ていると、この論文に欠けている視点もわかる。紛争を停止することでどれだけの食料増産が可能か、そんな論文も見てみたい。
カテゴリ:論文ウォッチ

7月23日:新顔ホルモンKisspeptinを利用した体外受精(7月21日号Journal of Clinical Investigation掲載論文)

2014年7月23日
確かめたわけではないので聞き流して欲しいが、日本の体外受精による新生児比率は3%に達していると聞いた。先進国平均は大体1%前後、一方イスラム圏では4%近くに達するとされているので、少し驚きの数字だ。それを反映しているのか、ヒトクローン作成成功を報告する論文は2報とも日本人が筆頭著者になっている。我が国にこの分野の優秀な技術が蓄積していることがわかる。今日紹介する論文は、体外受精時に卵子を採取する際、卵成熟を促すホルモンとしてKisspeptinがかなり期待できることを示す研究だ。タイトルは、「Kisspeptin-54 triggers egg maturation in women undergoing in vitro fertilization (Kisspeptin54は体外受精治療を受けている女性の卵成熟をううどうする)」で、7月21号のJournal of Clinical Investigationに掲載された。Kisspeptinの遺伝子はKiss1と名前がついており忘れることのない名前だ。歴史の新しいホルモンで、我が国でもペプチド研究に強い武田薬品がこのホルモンの抗がん作用に注目して研究していたのを覚えている。この分子で検索すると、武田薬品研究所から出た2001年Nature論文が最初に来る。実際私もこの論文が出た時をよく覚えている。我が国の製薬会社の研究能力の高さを示すと心強く思ったこともあるが、故人となられたこの論文の著者の一人藤野さんを個人的にも存じ上げていたからだ。藤野さんは製薬企業の側からいつも、大学は基礎研究をしっかりするようにと激を飛ばしておられた。Natureの著者に言われるとつらいなと思いながら聞いていたが、今となってはこのような見識の方が我が国の製薬業界におられるのか心配だ。前置きが長くなったが、研究は簡単だ。Kiss1遺伝子変異があると思春期の性的成熟が阻害され不妊になることがわかっている。内分泌学的研究から、この分子が排卵につながるホルモン反応の最上位に位置していることが最近明らかになり、動物実験でこのホルモンを外から投与するとゴナドトロピンの分泌を誘導することが明らかになっていた。これらの結果から、当然体外受精治療で採卵時の卵成熟誘導にこのホルモンを使う可能性が考えられるが、これを確かめたのがこの研究だ。プロトコルは通常のFSH、ゴナドトロピン受容体刺激剤の組み合わせで排卵サイクルを同期し、超音波で卵が18mm以上の大きさに達した時様々な量のKisspeptinを皮下に一回投与している。その後採卵から始まる通常の過程の各段階で、採卵のし易さ、卵の成熟度、体外受精の成功率、妊娠成功率などを24人づつのグループで調べている。結果は予想通りで、投与量に応じて体内での様々なホルモン産生が上昇し、成熟卵の採取率も格段に上がる。また、成熟卵が安定して得られ、卵の質も高く6nmol以上投与された群で、2−3割の妊娠率があったと言う結果だ。いわゆるLHサージと呼ばれる状態を生理学的に誘導して、体外受精に適した成熟卵を安定して得るための新しい方法になる可能性がある。ともすると生殖補助医療では様々な技術が問題になることが多いが、新顔のホルモンが登場してプロトコルが変わる余地があったとは、まだまだ発展途上の技術のようだ。この使い方に亡き藤野さんならどんなコメントをするのか聞いてみたい。
カテゴリ:論文ウォッチ

7月22日:論文掲載の易しさからトレンドを見る(7月17日号Cell誌掲載論文)

2014年7月22日
今は出来るだけ多くの雑誌に目を通したいと思っているが、それでもNature, Cellと言ったトップジャーナルに掲載されている論文にはより注意を払っていることは事実だ。理由は簡単で、やはり読んで面白い論文が多い。実際雑誌でどのように論文を扱っているのかなどほとんど知らない時代、トップジャーナルに論文を送っても、それをレフリーに送ってもらうことすら難しかった。それだけ厳しいフィルターがかかっている。と言っても勿論チャンスがないわけではない。独立して初めて自分の教室からNatureに論文を通したときは皆で大騒ぎした。その後世間を知って、多くのトップジャーナルで論文がどのように扱われるのか理解し、またそれに関わるエディターと知り合いになると、幾つか問題に気づくようになる。いい悪いは別にして、この様なトップジャーナルではエディターが独立して次のトレンドの方向性を探して掲載することに強い意志を持っている。従って、論文自体の質は少々犠牲にしても、将来の可能性につながる論文が掲載されている可能性が高い。このこともトップジャーナルに掲載された論文が面白い理由だ。最近私が感じるのは、ヒトゲノムと精神活動をどう結合させるかに関する手探りの研究が多く掲載されている点だ。このホームページでもすでに4−5編、NatureやCellに掲載された自閉症に関する論文を紹介したと思う。今日紹介するワシントン大学からの研究もそんな一つだろう。7月17日号のCell誌に掲載された論文で「Disruptive CHD8 mutations define a subtype of autism early in development (CHD8遺伝子の機能を破壊する突然変異は発生初期の段階で自閉症の亜型を診断できる)」がタイトルだ。このグループはSimons Simplex Collectionと呼ばれる遺伝子異常の親子データベースの検索から、CHD8遺伝子機能が破壊される突然変異が自閉症と関わることを明らかにしていた。今回の研究のハイライトは、この遺伝子異常があると100%自閉症か知的障害を示し、正常人には認められないことを確認している点だ。即ち、この遺伝子の突然変異があれば自閉症様の症状を示すことが生まれる前から診断できると言う結果だ。更に、自閉症の一部は脳発生時の形成異常という器質的障害の結果であることも明確になった。事実、この遺伝子の突然変異では、頭の周囲が大きくなり、目の間が広く、目がくぼんでいる。他にも、ニューラルクレストと呼ばれる細胞の異常を思わせる消化管症状がほぼ全員に認められる。このように、この論文からもゲノム、身体症状、精神症状と様々な情報レベルを統合する方向への研究がエディターに好まれているなと言うのが理解できる。勿論器質的変化と精神症状を結びつけることで初めて論理的治療が可能になるかもしれないことを考えると、重要な仕事だ。特に顔の構造形成や腸の動きに関わるニューラルクレスト異常が基盤にあると言う発見は重要だ。しかしはっきり言って、ではどのような異常が基盤になっているのか切り込むと言う点では甘い論文だ。この遺伝子のノックアウトマウスは発生致死で、九大の中山さん達が研究して来ている。その研究から見ると、この論文が脳発生の基盤を調べる目的で行ったゼブラフィッシュの解析は余りにお粗末と言わざるを得ない。ひいき目に考えれば、ゼブラフィッシュを使うことで発生段階を操作する薬剤を開発しようとしているのかもしれないが、レフリーやエディターは甘いなと言う印象が強い。結論的に言うと、この部分は読後失望させる。ただ、レフリーが甘いなと思える論文がトップジャーナルに掲載されるときは、未来のトレンドを示しているかもしれないと深読できることは、教訓にしてもいいかもしれない。
カテゴリ:論文ウォッチ

7月21日:腸内細菌と直腸がん(7月17日号Cell誌掲載論文)

2014年7月21日
直腸がんでも他のがんと同じようにrasやp53の変異が見られるが、直腸がんに特徴的な変異もある。その筆頭がAPCと呼ばれる遺伝子だ。生まれつきこの遺伝子の機能が阻害されている方では、腸に多数のポリプが出来る。もう一つ、比較的大腸がんによく見られる変異として知られるのが、DNAのミスマッチ修復(DNAが複製されるときの間違いを直す修復機構)に関わる、MSH2、MLH1などの変異で、ミスマッチ修復分子とAPCの遺伝子変異は実に5割以上の患者さんに見られる。実際、両方の遺伝子に変異を持つモデルマウスでは、多発性ポリプが起こり、直腸がんの頻度も格段に上がる。私自身は、ミスマッチ修復がうまく行かないことで突然変異が増えてガンになると単純に思っていた。しかし今日紹介する論文はMSH2遺伝子が直腸がん発生に予想外の方法で関わることを示しており、発ガン過程が一筋縄でいかないことを再確認した。7月17日号Cell誌に掲載されたトロント大学からの論文で、「Gut microbial metabolism drives transformation of Msh2-deficient colon epithelial cells (Msh2を欠損した大腸上皮は腸内細菌の代謝物によりガンに転換する)」がタイトルだ。元々このグループは。腸内細菌が発ガンに関わる可能性について研究している。ただ、APC遺伝子のみ変異があるマウスで腸内細菌叢を変化させても、ポリプやガンの発生に影響がない。そこでこのAPCとMSH2両方の遺伝子の機能が阻害されたマウスを用いて調べると、今度は腸内細菌の関与がはっきり認められ、抗生物質で腸内細菌を除去するとポリプの数は減少し、がん発生もMSH2変異がないグループと同じ程度まで低下する。即ち、MSH2遺伝子欠損の発ガンへの影響はこれまで考えられて来たように突然変異が上昇するためではなく、腸内細菌を介して上皮細胞の増殖が上昇するためであることがわかった。次いでこの現象の分子基盤を研究し、腸内細菌が炭水化物を処理する際に代謝物ブチル酸が腸管で造られ、それがMSH2の欠損した上皮細胞に働くと、βカテニンと呼ばれる腸上皮細胞の増殖に必須分子が活性化し、この結果上皮細胞の異常増殖が誘導され、ガンになることを明らかにしている。なぜこれまでんミスマッチ修復酵素として知られて来た分子欠損が、細菌代謝物ブチル酸に依存した細胞増殖につながるかなど、まだ完全に解明できていない部分もある。しかし、MSH2遺伝子欠損が大腸がんに多い理由や、食生活が欧米型になることでなぜ大腸がんが増えるのかなど幾つかの疑問に答えてくれる面白い研究だった。ブチル酸を造る菌は特定出来ている様なので、これらの細菌を特異的に除去することで、大腸がんの発症率を大きく下げることが出来るようになるかもしれない。ヒトでも同じ事が言えるのか、是非研究を発展させて欲しい。
カテゴリ:論文ウォッチ

7月20日:糖尿病にFGF(Natureオンライン版掲載論文)

2014年7月20日
糖尿病の中に、インシュリンは分泌されても骨格筋などの組織がそれに反応しないため血糖が低下しないインシュリン抵抗性の糖尿病がある。脂肪形成に関わる核内受容体PPARγ分子がこの過程に関わることが明らかにされてから、この分子に対する標的薬が,最初我が国主導で開発され、一時次世代の糖尿薬としてもてはやされた。しかしその後様々な副作用が明らかになり、現在はほとんど使用されなくなっている。例えば武田薬品のアクトスは同社の稼ぎ頭として大きく貢献した。しかし膀胱がん誘発の危険があることを指摘され、またそれを同社が隠していたとしてルイジアナ州連邦裁判所が賠償支払いを最近命じるなど、副作用を巡って暗雲が立ちこめている。ただ、PPARγ研究をリードして来たエバンスさん達にとっては残念な結果だったに違いない。この分子を活性化する薬が間違いなくインシュリン抵抗性を改善できるなら、この分子の下流で働くよりインシュリン感受性に特異的な分子を見つけて、同じ効果を得られないか調べたのが今日紹介するソーク研究所、エバンスさん達の論文で、Natureオンライン版に掲載された。タイトルは「Endocrinization of FGF1 produces a neomorphic and potent insulin sensitizer(ホルモン化したFGF1は新しいタイプの効果の高いインシュリン感受性増強を誘導する)」だ。この研究では、FGF1分子をノックアウトすると強いインシュリン抵抗性が出ること、またFGF1分子の発現がPPARγ分子により調節されているという2つの結果から、PPARγによるインシュリン感受性上昇がFGF1によるのではないかと仮説を立て、FGF1投与でインシュリン感受性を上昇させ糖尿病を防げないか検討している。結果は予想通りで、高カロリー食により誘導した肥満マウスや、遺伝的な肥満マウス、糖尿病マウスの全てでインシュリン感受性を上昇させ、血中グルコースを低化させることに成功している。元々FGF1は様々な細胞を活性化することが知られており、副作用が心配される。ただ増殖因子として働くときはヘパラン硫酸と結合することが必要で、遺伝子工学的に造らせホルモン化したFGF1にはその作用が低いと期待される。これを確認するため、長期投与実験を行い副作用を調べているが、マウスモデルではPPARγ刺激剤などで見られた副作用は認めていないと言う結果だ。基礎研究の応用段階で転んでも、そのままあきらめなずにもう一度基礎に帰ってやり直す、絵に描いた様な研究で、臨床応用も期待できる。更にFGF1遺伝子を遺伝子工学的に短くして、増殖因子活性を弱めた分子は、より強いインシュリン感受性上昇を引き起こすことを示している。エバンスさんは核内受容体研究のリーダーとして世界を引っ張って来た大御所だが、大御所の粘りを感じる研究だった。
カテゴリ:論文ウォッチ

7月19日:通院を減らす工夫(7月16日アメリカ医師会雑誌)

2014年7月19日
症状の中でも痛みは厄介だ。持続的に続くだけでなく、時間によって大きく変化する。その度に何が起こったのか不安が深まる。最終的にモルフィネの使用に至るまで様々な鎮痛剤が開発されているが、不安になると医師の一言に頼りたくなる。実際症状を聞いてもらって対応してもらうと、精神的にも少し痛みも緩和することを多くの人は経験していると思う。私も若い時尿道結石の痛みに襲われたとき、尿中に潜血を認めて尿道結石であることがわかると、痛みがずいぶん楽になったことを覚えている。今日紹介する論文は、局所、全身を問わず慢性の筋肉や骨格の痛みを訴える患者さんの痛みに対して、自動電話やインターネットで対応できないか調べたインディアナ大学医学部の研究で、7月16日号アメリカ医師会雑誌に掲載された。タイトルは、「Telecare collaborative management of chronic pain in primary care: a randomized clinical trial(一次医療機関に通院する患者の慢性的痛みを通院なしに協調して治療する)」。研究は慢性の筋骨格痛に悩む患者さん250人を無作為に2群にわけて、これまで通り開業医さんに通院して治療を受ける群と、定期的な電話やインターネットの聞き取りを受ける群に分けた。後者は、最初の1ヶ月は毎週、次の3ヶ月は2週間に一回、そして残りの8ヶ月は月一回、自動応答電話かインターネットを用いて痛みや、他の症状、不安感など22項目にわたる質問に答える。この結果は、医師と看護婦さんのチームが検討し、得られた結果に応じて鎮痛剤を選び処方する。同時に、大きな変化があった場合は看護婦さんが電話で話を聞いて突発的な問題が発生していないか調べる体制をとっている。1、3、6、12ヶ月目にインタビューを行い痛みの改善度、治療に対する満足度などを調べている。結果はかなり劇的で、普通の通院治療を受けていた群と比べて、BPIと呼ばれる指標(治療前は5.3程度が、遠隔ケアを受けたグループでは3.57に低下したのに対し、対照群では4.59にとどまっている。なによりも、満足度が高く8割の患者さんがサービスに満足している。他にも、看護婦さんの電話も痛みの緩和に役立つようだ。きめ細かくケアしているようだが、選んだ薬剤にはそれほど大きな差がないことから、精神的なケアも大きいことがわかる。この治験のポイントは、痛みと言う症状に対し、遠隔ケアを用いることで、チームによる一元的対応が可能になっている点だ。症状に痛みの占める割合は高く、医師に対する不満足の大きな原因になる。自動応答やインターネットでも定期的に自分の症状を聞いてもらい、それに対して医療側からリスポンスがあることで大きな満足が得られることは、高齢・過疎化の進む我が国にも参考になると思う。とは言え、我が国でこの様な治療を行おうとすると、遠隔の聞き取り、看護婦さんのコールなどを治療として認定し、通院しないことをインセンティブとして診療報酬システムに組み込んで行く必要がある。その時、この様な痛みの遠隔緩和ケアを、一元的対応と遠隔ケア導入のための例題として取り組んでみる価値は大きいと思う。日本医師会の理解も必要だ。
カテゴリ:論文ウォッチ

Orphan Drugについて考えるワークショップ  兵庫県立明石北高等学校

2014年7月18日

2014年7月11日(金)11:25~12:10

難しい科学用語を知り、科学の現状を考えるワークショップ企画、
「Orphan drug」について考えるワークショップを明石北高校にて開催しました。

この企画は、稀少難病治療薬の名称である『Orphan drug』という言葉にスポットをあて、「Orphan」という単語が「孤児」「みなしご」という意味を持っていること、稀少難病治療薬は対象となる患者数が少ないために利益が見込めず製薬会社による開発が進みにくいという現状を受けてつけられた名前であること等を知ってもらうと共に、治療薬の開発を待ち望む患者さんにとって希望の持てる新しい名称を考えようというものです。

昨年は同ワークショップを神戸の葺合高校のボランティア活動クラブにて開催させていただき、「レインボードラッグ(rainbow drug)」「フェニックスドラッグ(phoenix drug)」など数々の希望の持てる名称案が出てきていました。

今回の明石北高校でのワークショップは、2年生理系クラスの生徒さん35人を対象に、英語科の授業時間を使って開催させていただきました。ALTの先生2人もオブザーバーとして同席くださいました。

薬学など薬関係への進路を考えている生徒もいるということで、まず最初に、一般的な新薬の開発の流れについて説明しました。新薬の開発には、研究段階、開発・審査・承認段階があり、長い期間と多くの費用が必要であることがわかってもらえたと思います。

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続いて、ALTの先生に「Orphan drug」という言葉を聞いたときに受ける印象を伺いました。「親のいない子どものための薬だと感じる」「親が年を取り、病気になったときに、薬を買うことができず、親が亡くなってしまう。その結果、子どもは孤児になってしまう そんなイメージを受ける言葉」と答えてくださいました。

現実には、「Orphan drug」は稀少難病治療薬を表す言葉であり、「Orphan」には「孤児」「みなしご」という意味があること、なぜこの名称がついたのかを稀少難病治療薬の現状とともに説明しました。

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ここで、生徒のみなさんには、5つのグループに分かれて、思いつくままに名称を付箋紙に書き、それを模造紙に貼り付けていきながら、その言葉を考えた理由や、言葉への思いなどを出し合ってもらいました。

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意見が出そろったところで、グループごとにおすすめの名称案を発表してもらいました。

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「desire drug (強い望みの薬)」
「promising medicine(将来有望な薬)」
「happiness seeds drug(幸せの種の薬)」
「unique drug(唯一の薬)」
「smile drug(笑顔の薬)」
など、求めている人の希望を繋ぐ名前がたくさん出てきました。
「Disney drug」という名前も出ており、柔軟なすばらしい発想力に感心しました。
またDRUGを頭文字にし「Desire Rare Useful Gift」と言う名前を考えてくれたグループもありました。
新しく生み出された数々の希望の名称に、高校生の若さ、力強さ、そして優しさを感じました。

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ALTの先生からは、「hopeful drug (希望に満ちた薬)」いう名前が提案されました。 さらにhopefulの各頭文字にhealth option power energy future universal loveという意味を持たせているとの説明があり、生徒からは「さすがネイティブ、レベルが違う」など感嘆の声が上がっていました。

このワークショップを通じて、生徒のみなさんと、稀少難病の現状や課題、薬を待ち望んでいる人の想いを感じることができ、非常に有意義な時間になりました。

また、先生や生徒から、創薬の説明時の、「創薬には多くの人が携わっており、薬学部以外の出身者(工学部、農学部、理学部など)も多い」という話がとても興味深かったとの感想もいただきました。進路選択時のヒントのひとつになれば嬉しいです。  (企画/運営:藤本 記事:麻生)

2014年7月12日付 神戸新聞朝刊

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 (掲載許可承認済)

 

7月18日バイオペースメーカー(7月16日Science Translational Research掲載論文)

2014年7月18日
神戸市の企業誘致を手伝うため、世界のペースメーカーの6−7割を占めるメドトロニック本社を訪れたことがある。その時、埋め込み式ペースメーカーで将来他社に遅れをとるとは思わないが、もしペースメーカー細胞移植や遺伝子治療でペースメーカーが再生することになれば、太刀打ちできないのでこの分野の研究にも力を入れていると聞いた。破壊の上にイノベーションが起こることをよくわかっている会社だと感心したことがある。この時の会話が現実になりそうな前臨床研究が7月16日Science Translational Researchに発表された。Cedar-Sinai心臓研究所からの仕事で、「Biological pacemaker created by minimally invasive somatic reprogramming in pigs with complete heart block (完全房室ブロックブタのペースメーカーを最小限のリプログラミングで誘導する)」だ。このグループはTbx18と呼ばれる転写因子遺伝子を導入するだけの単純な方法で、心筋がペースメーカーに変化することを昨年発表していた。今回の研究はその延長で、ヒトへの応用に向け完全房室ブロックを実験的に引き起こしたブタにNOGAと呼ばれる機器を用いてアデノビールスベクターに組み込んだTbx18を右室上部後方に注入しペースメーカーが回復するか、またその機能は正常ペースメーカーと比べた時遜色がないか調べている。最初の前臨床研究としては結果は期待以上だろう。遺伝子導入2日目からペースメーカーが誘導され、自律神経による支配や、運動負荷などに対する反応などほぼ正常のペースメーカーと遜色ない機能を発揮する。また心配された不整脈を発生させると言うこともないようだ。他にもビールスはほとんど心筋に導入され、他臓器に遺伝子が導入される程度は極めて低い。問題はこうして誘導されたペースメーカーの機能は8日目がピークで、その後低下し始めることだ。即ち本当の意味でリプログラムされたわけではなく、導入した遺伝子が働いている時だけ機能を発揮する点だ。この細胞をiSANと呼んでいるが少し誇大広告気味と言わざるをえない。しかし、一つの遺伝子を導入するだけでこの位の効果があるなら、より安定な遺伝子導入法もあるだろう。このグループは短期的効果を逆利用して、感染などにより一度ペースメーカーを外す必要が出た患者さんに先ず利用しようと計画している。論文の調子から見て、臨床研究は近い予感がする。
カテゴリ:論文ウォッチ