10月16日 相分離とクロマチンの化学(10月3日号Cell掲載論文)
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10月16日 相分離とクロマチンの化学(10月3日号Cell掲載論文)

2019年10月16日
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これまで転写というと、長いDNAの上にプロモーターやエンハンサーを配してて、そこに集まる転写因子とRNAポリメラーゼの相互作用として描くのが一般的だった。しかし、ゲノムは核内のタンパク質により濃縮されて折りたたまれており、このヌクレオソーム構造と転写因子実際にはどのように相互作用をするのか、頭の中で想像するのは簡単でなかった。ところが、特定のタンパク質が集まると液晶のように相分離して他のタンパク質から分離できることがわかり、このliquid-liquid phase separation(LLPS )がスーパーエンハンサーなど転写因子の集合の化学的背景としてクローズアップされてきた。これをみて、JT生命誌研究館の平川さんから、是非この問題でジャーナルクラブを考えて欲しいと頼まれた。確かにいい機会なので、11月か12月のいつかLLPSについてジャーナルクラブを開催することにした。

ただこのメカニズムは転写調節にとどまらず、ヌクレオゾームの様々な構造を形成するのにも重要な役割を演じているようだ。今日紹介するテキサス大学からの論文は、試験管内でヌクレオゾーム自体が相分離を起こすことで構成されることを示した研究で10月3日号のCellに掲載された。タイトルは「Organization of Chromatin by Intrinsic and Regulated Phase Separatio(内因的および調節的相分離によるクロマチンの組織化)」だ。相分離の化学としては大変わかりやすい論文なので、ジャーナルクラブではこの論文も詳しく取り上げる。

さて、研究では蛍光ラベルしたヒストン存在下に12個のヌクレオゾームを試験管内で再構成する実験を行い、塩濃度により見事にヌクレオゾームが相分離すること、また塩濃度により相分離した塊の大きさが変化することを発見する。

この発見が研究のハイライトで、あとはDNAやヒストンの条件を変えて、ヌクレオソームが相分離するかどうかを順番に調べている。方法などの詳細はジャーナルクラブの時に譲って、重要なポイントだけを箇条書きにすると次のようになる。

  • ヌクレオゾームの相分離には、塩濃度だけでなく、ヌクレオゾーム構成分子の様々な条件が絡んでいる。例えば、ヒストンテールが欠失すると、決して相分離は起こらない。
  • 相分離した塊はタンパク質の濃度が高く、構成分子のターンオーバーは極めて緩慢。
  • ヌクレオソームの間のリンカー部分に結合するヒストンH1は相分離を増強する。
  • リンカーの長さは、相分離に重要で、リンカーが長すぎると相分離できない。
  • ヒストンがp300でアセチル化されると、相分離ができなくなる。
  • しかし、これにBRD分子が存在すると、異なるタイプの構造を持つ相分離がおこる。すなわち、クロマチンだけの相分離した塊と、アセチル化ヒストン+BRDによりそう分離した塊は接触しても決して融合しない。
  • 試験管内だけでなく、核内にヌクレオゾームを注射する実験で、細胞内での分離の様相が観察できる。

などなど、クロマチン形成がまさに物理化学の問題に転換した、ビジュアルでエキサイティングな論文だ。試験管内で相分離したそれぞれの塊は丸いだけだが、じっと見ていると核内でヌクレオゾームが形成されているような気持ちになる。ジャーナルクラブを楽しみにしてほしい。

(これとは別に、今週18日7時からも光遺伝学の新しい進展について岡崎さんとジャーナルクラブを予定しています(https://www.youtube.com/watch?v=_o6cy7lJ_jA))

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10月15日 なぜ強度の低い、低周波の超音波が脳を刺激できるのか(10月21日 Current Biology掲載論文)

2019年10月15日
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先日パーキンソン病の患者さんから、超音波によるディスキネジアの治療が始まっていることを聞いた。正直、全くフォローしていなかったので調べてみると、高いエネルギーの超音波をMRIで決めた場所に集中させ細胞を障害する方法(おそらく患者さんが日本で行われていると教えてくれたのはこの方法だろう)と、深部刺激の代わりに用いる低いエネルギーで低い周波数の超音波で刺激する方法(LILFU)の2種類があることがわかった。

しかし後者の方法が深部刺激の代わりになるということは、超音波が神経刺激を誘導することになる。磁気照射なら理解できるのだが、この程度の低いエネルギーの音でなぜ神経を刺激できるのか、理解が難しい。

今日紹介する韓国科学技術研究所からの論文はこの謎に挑んだ研究で10月21日号のCurrent Biologyに掲載された。タイトルは「Ultrasonic Neuromodulation via Astrocytic TRPA1 (アストロサイトのTRPA1を介した超音波による神経系の調整)」だ。

超音波で神経が刺激されるとするなら、当然接触や機械的刺激を電気信号に変える受容体TRPA1が重要な働きをしていると想像できる。そこで、TRPA1ノックアウトマウスを LILFUで刺激すると、正常では確かに神経細胞でCa流入が観察できるのにノックアウトマウスではその反応が低下している。また、普通の細胞にTRPA1を導入すると超音波に反応してカルシウム流入が観察できる。また、他の機械刺激に関わるチャンネルにはこの機能は存在しないことも確認し、LILFUに反応するのはTRPA1であることを確認している。

TRPA1は神経細胞にも、アストロサイトにも発現しているので、アストロサイトと神経を共培養する系でLILFUを照射、アストロサイトのTRPA1がLILFUに反応していることを突き止める。そして、このアストロサイトの興奮が、アストロサイトからのグルタミン酸分泌を促し、神経細胞のシナプスに存在するグルタミン酸受容体を介して神経細胞の活動を変化させることを明らかにしている。

また、LILFUが誘導するアストロサイトへの刺激がどのようなものか、様々な機会的刺激と比較し、最終的にゆっくり細胞を突くような刺激とほぼ同じ効果があることを明らかにしている。

以上が結果で、なぜ特定の超音波が神経活動を変化させられるのか、よく理解できた。こちらの治療はおそらく神経細胞には全く障害性がないことと、電気刺激と比べてグルタミン酸受容体を介した神経活動の変調だけが誘導されるので、もし震えなどの症状が軽減されるなら、安全な治療法として普及するかもしれない。

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10月14日 γδT細胞もガン免疫に寄与している(10月9日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2019年10月14日
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T細胞受容体の本態が明らかになってきた1980年代は、αβT細胞と並んで、発生の初期から腸管などに現れるγδT細胞についても研究は盛んだった。しかし現役を退いてT細胞免疫、特にガン免疫について再度論文を読み始めてわかったのは、一般紙ではγδT細胞についての論文をほとんど目にすることがないことだった。

と思っていたらロンドンのキングスカレッジから乳ガンの増殖を抑えるγδT細胞についての論文がScience Translational Medicineに掲載されているのを見つけた。タイトルは「An innate-like Vδ1 + γδ T cell compartment in the human breast is associated with remission in triple-negative breast cancer(ヒト乳ガン組織の自然免疫型Vδ1 + γδT細胞はトリプルネガティブ乳ガンの寛解と相関する)」だ。

研究は全てヒトで行われている。まず乳腺組織の様々な場所からT細胞を調整し、正常乳腺にγδT細胞が存在し、そのほとんどがNKG2Dを発現しており、しかもV領域はVδ1を発現していることを発見する。そして、一般的なT細胞と異なり、抗原とは異なる自然免疫に関わるリガンド、γδT細胞の場合NKG2Dのリガンド MICAにより活性化されることを明らかにする。

全く機能的にも同じγδT細胞は乳ガン組織にも存在し、しかも試験管内で乳ガン細胞を障害することができるので、乳ガン免疫に関わるかどうか、トリプルネガティブ乳ガン患者さんを組織内のγδT細胞の多いグループと少ないグループに分けて予後を調べると、多いグループの方がはるかに再発率が低く、生存率が高い。もちろん同じ傾向は、αβT細胞と相関を調べた時も見られるが、γδT細胞は少ない細胞でより高い相関が見られている。

そして何より、ガン免疫には特定のγδT細胞のVδ1配列が必要なわけではなく、基本的にはT細胞受容体とは関係のない刺激により抗がん作用を発揮していることを明らかにしている。

もしこの結果が正しいとすると、ネオ抗原の必要のない、しかしほとんどαβT細胞と同じレベルの細胞障害を、少数の細胞で実現でき、しかも活性化のためのリガンドはいつも同じものを使えることになる。実際の細胞障害性についてはあまり理解できていないが、しかしこれまでなぜ研究されていなかったのか不思議に思ってしまう。おそらくαβT細胞と比べて数が一桁少ないために、あまり気にされなかったのかもしれない。期待したい分野だと思う。

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10月13日 重症肝硬変に自己マクロファージ静注が効く(Nature Medicine10月号掲載論文)

2019年10月13日
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現役時代、様々な細胞移植による疾患治療の研究を審査したり、あるいは支援したりしてきたが、マクロファージが原因を問わず肝硬変に効果があるとは考えもしなかった。

今日紹介するスコットランド・エジンバラ大学からの論文は9人の患者さんに末梢血からアフェレーシスで集めたマクロファージを投与したというだけの治験で、安全性の確認を第一のポイントにしている点で第1相試験と考えていい。タイトルは「Safety profile of autologous macrophage therapy for liver cirrhosis (肝硬変に対する自己マクロファージ治療の安全性)」で、10月号のNature Medicineに掲載されている。

もちろん肝硬変の患者さんにマクロファージを投与しても安全でしたという結論だけではNature Medicineには掲載されないだろう。当然ある程度効果がありそうだと示す必要がある。

治験では、ビリルビンやクレアチンなどのMELDという肝硬変の重症度が10-14(肝臓移植までは必要ないが毎月フォローする必要がある)の患者さんを選び、3人づつに末梢血からCD14の発現を指標にMACSと呼ばれる磁気ビーズを用いた方法で生成したマクロファージを2−4日間M-CSFとともに培養した後、1回だけ1千万、1億、10億個静脈投与して、効果を調べている。

まず安全性だが、胸痛や腹痛など様々な症状が治療中に見られたが、ほとんどはマクロファージ投与とは無関係と考えられ、また投与量とも相関がない。結論的には治療を要する副作用はないとしている。

さて、肝硬変に対する効果だが、まず対照をとった研究ではないのでこれだけで効果を云々することはできないことを断った上で、しかし全ての症例で投与後90日でMELDスコアは低下し、9例中7人が1年後でも治療前より低下していた(平均で1程度の低下)ことから、確かに効きそうだと期待できる。他にも、肝臓の硬さを測るスコア(ELF)、血中3型コラーゲン量などは半分以上の人で改善が認められているが、自覚的な生活の質の上昇にまでは至っていない。

要するに効果があるという結果だが、データを見ると投与した量と比例するELFのようスコアから、コラーゲン量のように投与量とはあまり相関しないスコアまで存在し、最終的な治験をどのようなプロトコルで行うのか、おそらく悩ましいように思う。

結果はこれだけだが、この論文を読んど驚くのは、一般的にはマクロファージは炎症を高め、繊維化を悪化させると思うのに、タンパク質分解酵素を分泌できるという一点に期待して、この治療を動物実験から第1相治験までこぎつけてきたことだ。まだまだ先は長いと思うが、こんな簡単な方法で少なくとも1年間進行が止まるなら、ぜひ普及してほしいと思う。おそらく、細胞免疫療法を手がけるクリニックなら、どこでも実施可能だろう。

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10月12日 青銅器時代のドイツの家族:新しい考古学の始まりを感じさせる研究(10月10日号Science掲載論文)

2019年10月12日
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古代人のゲノム解析は民族の交流の歴史を続々明らかにし、新しい文明の伝播についてはかなり理解が深まってきた。ただ、これらの交流の基礎には必ず村落単位の習慣やしきたりが存在する。

今日紹介するドイツマックスプランク歴史学研究所をはじめとする国際チームからの論文は、ドイツ南部の小さな領域から出土した104体の新石器時代から青銅器時代にかけての人骨をゲノムだけでなく総合的に解析したまさに新しい考古学を感じさせる研究で10月10日号のScienceに掲載された。タイトルは「Kinship-based social inequality in Bronze Age Europe (青銅器時代のヨーロッパに見られた親族関係を基礎とした社会的不平等)」だ。

この研究では骨が出土した様々な考古学的状況(副葬品や場所、時代など)とともに、もちろんゲノム解析による血縁関係、そしてストロンチウムと酸素同位元素を用いた生活していた地域の比較などを組み合わせてそれぞれの骨を解析している。特にストロンチウムと酸素同位元素を用いる方法によると、ある骨が子供時代他の場所に移動し、またその場所に帰ってきたというような移動の歴史まで明らかになる。

出土した骨の時代は、縄目文土器時代、鐘状ビーカー土器、初期青銅器、中期青銅器などの出土品と同位元素による決定されるが、この研究で調べた骨は2750BCから1300BCまでの約1000年にわたってこの地域で生活した人たちになる。

この時代、ヨーロッパでは元々の狩猟採取民がYamnaya、そしてアナトリアからの民族で置き換わるが、実際この地域でも、最初多かったYamnayaゲノムがアナトリア人のゲノムで置き換わることがわかる。

ただこの研究のハイライトはこのようなグローバルな話ではなく、このように大きくゲノムが変化していてもその地域の家族の家族習慣が1000年近く維持されている点だ。

すなわち、同じ場所に埋葬されている骨は、ゲノムから同じ家族と言えるが、そこに両親とともに息子たちの骨は埋葬されているのに、全く娘たちの骨が存在しないという発見だ。また、ストロンチウム同位元素で母親と父親を比べると、父親はその場所で生まれ育っているが、母親は例外なく外部から移ってきていることがわかる。

すなわち女性は早くから他の場所へと移動しそこで結婚する族外婚が確立しており、男性が両親と一緒に暮らす家族形態だったことがわかる。実際、5世代を特定できる家族のゲノムを調べると、男性系統を代表するY染色体は5世代維持される一方、ミトコンドリアは全て変わっていることがわかる。この家族では例外的に、娘も同じ場所に埋葬されているが、副葬品が多く、おそらく裕福な家族で、若く亡くなった場合は同じ場所に埋葬されたと説明している。ただこれは例外で、ほとんどの家族ではこのような例が見られないことから、娘が若くして亡くなっても、同じ場所に埋葬されることはなかったと想像される。

以上の結果は、この時代すでに経済的不平等が発生し、裕福な家庭は富を世襲することが可能で、しかも埋葬に関する一般的なしきたりを破ることができたことを意味するように思える(私見)。大変面白い論文で、新しい考古学を感じさせる研究だった。おそらく考古学からノーベル賞が出るのもそう遠くない話に思える。

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10月11日 RNAワールドの誕生(10月4日号 Science 掲載論文)

2019年10月11日
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有機物のない地球に有機物をもたらせたのは宇宙からきた彗星で、このロマンを明らかにすべく彗星や隕石を調べるという話を聞くが、これは私にとってはバカな戯言でしかない。地球上に存在していないからと言って、他の天体に求めるのは、神に生命誕生を委ねるのと同じだと思う。

ただ心配することはない。現在では多くの優秀な有機化学者が、生命がまだ存在しなかった地球で有機物がどう合成できるか研究している。少し古くなってはいるが、この分野の研究については「8億年前地球に生物が誕生した:Abiogenesis研究を覗く。」(http://aasj.jp/news/lifescience-current/10778)を是非読んでいただきたい。ほぼ全ての有機物を、生命の力を借りることなく、メタンやアセトン、アンモニア、炭酸ガス、酸素など、生命誕生前の地球に存在した分子から合成できることを確信してもらえると思う。

とはいえ、可能性を現実にするのはそう簡単でない。例えばRNAワールド誕生に必須のピュリン(アデニンやグアニン)、ピリミディン(シトシンやウラシル)を十分量合成することはなかなかできなかったが、John Sutherland,やテロメアでノーベル賞に輝いたJack Szostakなどのこの分野の大御所により、ピュリンやピリミジンの酵素によらない(prebiotic)合成が可能であることが示された(http://aasj.jp/news/watch/9486も参照)。

今日紹介するミュンヘンのルードヴィヒ・マクシミリアン大学を中心とするグループは、ピュリンとピリミジンを同じ場所で合成することが可能な条件を提案したさらにRNAワールドに近づいた研究で10月4日号のScienceに掲載された。タイトルは「Unified prebiotically plausible synthesis of pyrimidine and purine RNA ribonucleotides (Prebioticな地球で可能なピリミジンとピュリンRNA リボヌクレオチドの統一的合成)」だ。

研究では当時の地球に必ず存在したという、RNA合成までのスタート分子から中間体、そして最終産物まで一つ一つ合成する条件を一歩一歩構想するとともに、実際可能か化学合成を行うことを繰り返している。この研究ではシアノアセチレートを最も重要なコンポーネントにおいて、RNAまでのプロセスを構想することから始め、最終的に一本の試験管の中でピュリンとピリミジンの同時合成に成功している。ただ有機化学の苦手な私なので、詳細は省かせてもらって、この研究から太古の地球で起こっていたと提案されたシナリオを紹介することにする。

最も特徴的なのは、全ての反応が水が多い条件と、乾いた条件を繰り返すことで進む点で、その間に必要な中間体のみが自然に残るようになっている。まず水が多い条件でシアノアセチレンを中心に、aminoisoxazoleが合成され、これが乾いて濃縮されnitoroso-pyrimidineができる。この分子は沸点が高いので、温度が上がって他の分子が飛んでも、その場所に残る。そこに水と尿素が供給されると、nitorosopyrimidineが沈殿してaminoisoxazoleと分離、分離したままaminoisoxazoleとformamidopyrimidineが合成され、それぞれ乾いた条件でリボースと結合し、それに水がまた供給されると両方のタイプのRNAができあがる。ここからRNAワールドまでは極めて近いことがわかっており、私のような有機化学の素人でも、地球上での生命誕生は可能だと確信できる。

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10月10日 パーキンソン病の自宅エアロビクス治療(The Lancetオンライン版掲載論文)

2019年10月10日
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最近治験論文をほとんど紹介していない事に気がついた。多くの論文に目を通しているのだが、医師には重要な情報でも、患者さんや一般の方にとっては、あまり大きな効果と見えないような結果が多かったためだと思う。

今日紹介する論文も効果としては手放しで喜ぶほどではないが、実際に患者さんにとっても治療を自分でコントロールできるという点で重要だと思って取り上げる事にした。オランダのRadboud大学神経学部門を中心とするオランダチームの論文で、軽度の(ホーン・ヤール分類II度)パーキンソン患者さんの運動機能低下を自宅でのサイクリングマシーンを基盤としたエアロビクスによってある程度防げることを示した臨床治験でThe Lancetにオンライン掲載されている。タイトルは「Effectiveness of home-based and remotely supervised aerobic exercise in Parkinson’s disease: a double-blind, randomised controlled trial (自宅での運動を病院からモニターできるエアロビクスプログラムのパーキンソン病に対する効果:無作為化対照研究)」だ。

研究は厳密に行われているが、実に単純だ。このセンターの外来に通うホーン・ヤール分類II度(手足の震えや筋肉のこわばりがみられ、生活に不便を感じ始める時期)の139人を無作為に2群に分け、対照群ではストレッチ、柔軟体操、リラックゼーション体操などから、エアロビクス要素を取り除いたものを1日30分、最低週3回続けるよう指導する。一方、エアロビクス群ではサイクルマシーンを用いて最初最大心拍数の50−70%を目安に運動負荷をかけ、その後慣れれば80%まで徐々に高める有酸素運動を、やはり1日30分(前後15分クーリング)、週3回続けるように指導する。

両軍共運動についてはモニターが行われ、病院に結果が直接送られるようになっている。

結果については運動開始後6ヶ月後に、ドーパミンがオフの時期にMDS-UDPRSと呼ばれる基準を用いて検査している。

さて結果だが、MDS-UPDRSの運動検査では、エアロビクスを加えた群では進行が止まっているが、加えない群では明らかに進行している。また、心血管系の運動への適応を調べると、やはりエアロビクス群では改善が見られるが、対照群では低下しており、有意な差であることが統計的に確認されている。

他の検査や、ドーパミンオンの時の検査では両群にほとんどは見られないが、総じてエアロビクス群では改善率が高い。

副作用といっても難しいが、運動中の事故についてはやはりエアロビ群のほうが倍高い。ただ、中程度で深刻な事故についてはどちらのグループでも1例見られたという結果だ。

残念ながら、もっと長期の調査はないのでこのまま進行が止まるかどうか明らかでないし、III度でも同じ結果が得られるのかは今後の研究が必要だ。しかし、これまでも同じような結果が、インストラクターの指導によるエアロビクスを続けることで得られるという結果が報告されており、わが国でも簡単に利用できるプログラムなので、是非普及してほしいと思う。

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10月9日 TNFR2はガン免疫増強に利用できる(10月2日号 Science Translational Medicine掲載論文)

2019年10月9日
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今年のノーベル賞はHIF1など低酸素反応性のメカニズムを研究している医学者に輝いた。このメカニズムは低酸素への反応と簡単にくくれないほど広がりを見せているので、これに関わりのある面白い論文があればいつか紹介したい。思い起こせば1年前は本庶先生がガンのチェックポイント治療でノーベル賞を受賞され、大騒ぎになっていた。今もPD-1やCTLA4に関する論文はトップジャーナルを賑わせており、ガン患者さんたちの希望となっている。ただ、チェックポイントという概念は、ブレーキとアクセルが一体になっているように、T共刺激と一体となった概念であることが、我国のメディアでは忘れられているように思う。実際、チェックポイントとともに、共刺激をうまく組み合わせて免疫にアクセルをかける治療法の開発も多くの論文を目にするようになってきた。

今日紹介するMerrimackという米国ベンチャー企業を中心としたグループの論文はガン治療に使えるT細胞共刺激についての論文だが、一般的な共刺激分子と比べると変わり種の分子を標的にした研究で10月2日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Antibody-mediated targeting of TNFR2 activates CD8 + T cells in mice and promotes antitumor immunity (TNFR2対する抗体にはマウスCD8―T細胞を活性化してガン免疫を促進する効果がある)」だ。

TNFは免疫を調節する抗体治療として最初に実現したサイトカインだが、2種類の受容体が存在し、TNFR1に対しTNFR2の方はあまり研究が進んでいない。ただ、免疫の調節に関わっているという実験結果が存在することから、このグループはこれに対する拮抗的、あるいは活性化抗体を作成して、ガン免疫に使えないか研究を始めている。

抗体の作り方だが、最初からH鎖だけからなるIgG2a抗体をファージライブラリーなどを用いて何種類も作成し、TNFの結合を阻害するとともに、CD8T細胞の共刺激が可能で、しかもガン抑制効果があるY9抗体の開発に成功している。

実際にはまだまだTNFR2のシグナルなど調べることは多いと思うが、この研究ではまっしぐらに臨床応用のための研究に進んでいる。まず様々なガンモデルに抗体だけを投与した時の効果を調べ、ほとんどの場合PD-1抗体より強い効果があり、さらにPD-1と組み合わせるとさらに高い効果が得られることを示してる。

ただ、この抗体はそれ自身で刺激効果があるわけではなく、細胞上のFcγRIIb依存的に共刺激がおこる。そしてこの抗体がどの細胞を介してガン抑制に関わるかをそれぞれの細胞を欠如させたマウスを用いて調べ、CD8T細胞とNK細胞の関与は必要だが、抑制性T細胞を含むCD4T細胞は必要ないこと、その結果腫瘍内のガン抗原特異的CD8T細胞の数を増やすが、CTLA4抗体のように抑制性T細胞の割合は変化させないことを示し、免疫系全体には大きな変化をきたさないため、副作用は少ない可能性を示唆している。事実、正常マウスに投与したときCTLA4 と比べると、免疫組織の変化は強くないことも示している。

最後に、ヒトのTNFR2に同じような作用を持つ抗体を作成できたことも付け加えるのは忘れていない。おそらく投資を集めるには重要な点だろう。マウスのデータだけではかなり有望だ。また一本鎖抗体の場合は、うまくいけば大腸菌ですら作れる可能性がある。しかし多くの共刺激法の開発がひしめく中で、今後どのようなポジションを確保できるのかまだまだ分からない。もちろん競争が激化するのは患者さんにとっては嬉しい限りだ。もちろんチェックポイント治療もうかうかしておられないとおもう。

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10月8日 骨髄性白血病でのIDH2とSRSF2の協調作用の解析(10月2日号Nature掲載論文)

2019年10月8日
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京大の小川さんたちや、他のグループによって骨髄異形成症候群(MDS)や急性骨髄性白血病(AML)のゲノム解析が進んだ時最も驚いたのは、例えばFltといった常識的なガンのドライバーの他に、スプライシング(SRSF2)やエピジェネティック(IDH2)に関わる遺伝子変異が多くの白血病で発見されたことだ。これを見た時、一つの癌遺伝子の異常というより、多くの分子が変化した状態が作られてしまうのかと、ガン化過程の難しさを感じた。

今日紹介する米国スローンケッタリング研究所からの論文はSRSF2とIDH2という本来あまり接点のない二つの分子の協調性について調べることでMDS/AMLの発ガン機序を解析したこの分野では重要性の高い研究で10月2日号のNatureに掲載された。タイトルは「Coordinated alterations in RNA splicing and epigenetic regulation drive leukaemogenesis (RNAスプライシングとエピジェネティックの協調的調節が白血病化を推進する)」だ。

この研究ではAMLで効率にSRSF2 とIDH2の両方に変異があることに着目し、白血病化に両者が協調しているのかどうか、トランスジェニックモデルや変異のノックインモデルを用いて解析し、骨髄異形成を伴う白血病化には単独の変異では不十分で(IDH2のみでは白血病化は見られるが骨髄異形成は起こらない、一方SRSF2変異による白血病細胞は移植が難しい)、両方の変異が同時に必要であることを確認した後、一見接点のない両方の変異がどう協調するのかを調べている。

まず考えやすい可能性として、IDH2によるメチル化の促進を抑えるTET2の機能がSRSF2の変異によるスプライシング異常で低下する可能性や、逆にIDH2による遺伝子発現抑制によりRNAメチル化に関わるFTOなどの酵素の働きた低下し、異常なスプライシングが増える可能性を調べているが、これだけではこの協調作用を説明できないと結論している

そこで、両方が協調することでスプライシングやDNAメチル化が変化する可能性を調べている。通常とは異なるスプライシングをうけた(エクソンが増えたり欠損した)RNAの数を調べると両方の変異が共存すると、SRSF2だけの変異の倍の数のスプライスRNAが生成される。すなわち、両方の変異が存在することで普通には存在しないスプライシングRNAが生成される。そしてこれが、IDH2依存的にDNAメチル化がスプライシングに必要なサイトをメチル化する結果であることを発見する。

そしてRNA解析から分かってきた白血病に関わることが知られているINT3(Notch4)のスプライシングを調べると、IDH2変異によりINT3の特定のイントロンがメチル化され、これが変異型のSRSF2により短い機能が欠損したINT3を形成することを発見する。すなわち、IDH2の変異とSRSF2の変異が協調して初めてINT3の機能阻害が達成されることを示した。。また、現在MDSに用いられるメチル化阻害剤5AZを投与すると、異常INT3は発生しない。また、両方の遺伝子が欠損していても、完全なINT3cDNAを導入すると白血病が正常化することも示している。

もちろん全ての過程がINT3 機能欠損によると決めるわけにはいかないが、SRSF2とIDH2がどのように協調しているのかだけでなく、現在使われている治療についても頭の整理がつく重要な研究だと思う。

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10月7日 ヒト卵子の減数分裂異常(9月27日号Science掲載論文)

2019年10月7日
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2回の分裂を繰り返す間に片方の染色体だけを持つ配偶子を形成する減数分裂は真核生物に共通の過程だが、この過程は極めて多様で、哺乳動物の場合オスとメスで大きく異なっている。精子形成では生後精母細胞が2回連続して分裂する過程で4個の配偶子が作られるが、卵子の場合はもっと複雑だ。発生期に1回目の分裂が始まっているが、途中で止まり、生後排卵可能になると分裂が完成するが、片方の染色体は極体にしまいこまれて配偶子になれない。この過程で卵子は排卵されるが、その後第二減数分裂は途中で停止した後受精により完成するようになっている。この複雑な過程がうまくいかないと染色体の数の異常(Aneuploidy)が起こり受精しても発生しない。

今日紹介するコペンハーゲン大学からの論文はこのようなAneuploidyの発生が人間の妊娠可能期間を決めていることを示した研究で9月27日号のScienceに掲載された。タイトルは「Chromosome errors in human eggs shape natural fertility over reproductive life span (ヒトの卵子の染色体エラーが生殖期全般の生殖可能性を決めている)」だ。

恥ずかしいことに、なぜヒトは思春期以後から更年期までと生殖可能期間が決まっているのか考えたことがなかった。確かに排卵が始まっても必ずしも妊娠できるわけではなく一定の成熟期になって初めて妊娠できる。その後妊娠可能性は年齢とともに低下するが、この原因も排卵の問題として片付けていた。この論文を読んで初めて知ったが、チンパンジーは全く異なり、排卵とともに妊娠可能性が決まるらしく、排卵とは別に妊娠可能期間があるのは人間だけなようだ。そして、これを説明する考えとして、Aneuploidyの頻度が未成熟では高く、また高齢者でも高くなるため、排卵とは別に妊娠可能期がヒトでは存在するという仮説があったようだ。

この研究では抗がん剤治療を行うときにあらかじめ生殖細胞を保存する際に得られる卵巣内の卵子の一部を利用して染色体異常を調べることで、この可能性を9歳から43歳の女性の卵子について調べている。結果は予想通りで、成熟前も成熟後もヒトの場合Aneuploidyが高く、これが生殖の成功を抑えていることがわかった。また、受精後の着床前胚36000を調べたデータベースでも、年齢によりAneuploidyが生殖可能性に比例して変化することを確認する。言い添えるが、これが可能になるのも、次世代シークエンサーによる単一細胞のゲノム解析が可能になったからだ。

減数分裂異常には、non-junction(NJ)と呼ばれる染色体が極体に分配されず数が多くなるもの、早く染色体の分離が起こる異常(PSSC)、そしてreverse segregation(RS)と呼ばれる減数分裂が終わる前にsister chromatidが完全に分離しているタイプの3つに分かれるが、NJは若年期にのみ見られる異常で、PSSCとRSが年齢とともに上昇する異常のタイプであることを発見する。

また染色体ごとに異常の出方は異なっており、13番染色体では全てのタイプの異常が見られるが、大きな染色体ではNJが多く、逆に短腕の短い染色体では高齢者のPSSCとRSが多い。

最後にこの原因を形態的にsister chromatidの分離の程度を調べる方法で測定し、年齢とともに中心体と染色体全体の結合力が年齢とともに低下することで、分離NJが若年で多く、分離しすぎる異常が年齢とともに増えることを示している。

様々なコホートが国のサポートで進んでいるデンマークならではの研究だが、染色体異常を整理する意味では大変優れた論文で、実際に一読されることを進める。

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