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自閉症スペクトラム児の消化器症状チェックリスト

2018年11月3日
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昨年の5月 自閉症スペクトラム支援団体、Autism Speaksがまとめた、ASD児の健康問題についてまとめたレポートを紹介した時、消化器症状や摂食障害で本当に苦労しているというメールを何人かの家族の方からいただいた。このなかで、様々な消化器症状を主治医の先生に客観的に伝えることが難しいことも訴えられていた。できれば、ASDの子供を観察している家族が客観的にレポートができるよう、症状のチェックリストがあればいいなと思っていたら、10月22日号のJournal of Autism and Developmental Disordersに、ASDの消化器症状を早く診断するためのなかなか丁寧なチェックリストが発表されていたので、邦訳して紹介することにする。コロンビア大学、マサチューセッツ総合病院、ボストン大学医学部が共同で発表した論文で、タイトルは「Development of a Brief Parent-Report Screen for Common Gastrointestinal Disorders in Autism Spectrum Disorder(ASDによく見られる消化器異常の親による簡単な診断とレポート)」だ。

このチェックリストの目的は、家族による客観的な情報収集により、医師の診断を助け、治療につなげることだが、この論文では臨床で広く利用した時、どのような効果があるのかについての記述があまり明確ではない。この結果、このまま家族の人に紹介することは、対策もないのに家族の不安だけを煽る結果を招くのではないかという心配がある。また、家族の方のメールを読むと、我が国ではASDをケアする医療側の体制が、なかなか総合的になり得ないという問題もあり、自己診断が進むと、医師が取り合ってくれないと余計に家族のフラストレーションを貯める結果になる懸念もある。

このように色々考えて見たが、しかし言葉でのコミュニケーションがスムースでない子供の消化器症状を知るためのチェックリストは重要だと考え、あくまでも自分の子供を理解する一つの方法として読んでいただくようお願いして、このリストを邦訳することにした。

チェックリスト

以下のような症状を見た場合に、消化器の障害が併発している場合があります。右に示した数字は、今回調査に参加した米国のASDの子供の家族がYesと答えた割合です。

消化器異常の直接症状

この3ヶ月の間に、お子さんはお腹痛を訴えましたか?      33%
この3ヶ月の間に、お子さんは吐き気を訴えましたか?      13%
この3ヶ月の間に、お子さんはお腹の張りを訴えましたか?    17%
消化器症状による生活の変化

この1年、お子さんはひどい腹痛が2時間以上つづいて何もできなくなったことはありますか?     15%
消化器異常を示す客観的兆候

この3ヶ月、お子さんの便通はどうでしたか。
週2回以下                           13%
週3回(一日3回の場合も含む)                 80%
週3回以上                           2.4%
この3ヶ月、お子さんの排便はどんな感じでしたか。
硬い、とても硬い                        25%
とても硬いわけでも柔らかいわけでもない             46%
大変柔らかい、形がない、あるいは水のよう            18%
この3ヶ月、お子さんの排便時に、粘液や痰のような塊が出た事はありますか?                             15%
この3ヶ月、お子さんのパンツが汚れていたことはありますか?   48%
  これまでお子さんの便が黒かったり、コールタールのようだったことがありますか?                              9.3%
お子さんの便に血が混じっていたことや、排便後に出血が見られたことがありますか?    8,9%
この3ヶ月、お子さんが1日2回以上吐いたことがありますか。   9.6%
この3ヶ月、お子さんが吐き気を訴えたことがありますか?      9.8%
この3ヶ月、お子さんが食べ物を口まで戻してそれをモグモグ噛んでいたことがありますか? 7.4%
この3ヶ月お子さんの体重が増えないということはありませんか?   8%
上記の兆候や症状の結果起こる活動の変化

この3ヶ月、お子さんの活動が以下の理由で制限されたことはありますか?
腹部の痛み、違和感                      11%
嘔吐                             10%
便通異常                           10%
腹部の大量のガス                        9%
消化管の運動障害

この3ヶ月、お子さんが便通時に痛がっているように見えたことがありますか?                             17%
この3ヶ月、排便のためにトイレに駆け込んだことがありますか?  25%
この3ヶ月、お子さんが便を出そうとして足を固く踏ん張ったり、お尻から足へと手で絞るような行動を見せたことがありますか?           28%
この3ヶ月、頭を横に曲げて背中を反らせる動作を取ったことがありますか?                                   5%
この3ヶ月、自分や他の人の手でお腹を押さえたり、お腹を家具などに押し付けたりする動作を見たことがありますか?              21%
この3ヶ月、胸や首を叩いたり、口に拳を突っ込んだり、理由なしに手や腕を噛んだりしたのを見たことがありますか?              16%
この3ヶ月、お子さんが食べ物を飲み込む時やその後に、息を詰まらせたり、咳き込んだりしたのを見たことがありますか?            21%
この3ヶ月、お子さんがこれまで食べていた食物の多くを急に食べたがらなくなったことはありますか?     4%


以上、子供の声にならない訴えを聴くための助けになれば幸いです。

11月3日:脊髄損傷の大きなステップ:生理学の勝利(Natureオンライン掲載論文)

2018年11月3日
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9月26日、脊髄損傷の小さなステップというタイトルで、硬膜外電気刺激とリハビリを繰り返すことで、硬膜外の電気刺激を自分の脳である程度コントロールすることで、大地を歩けるようになった症例報告を紹介した。ただ、論文を読んで、例えば体性感覚が欠損している分を目で補っているなど、どんな患者さんでも確実に歩けるようにできるのかについては説得力がなかったため、「脊髄損傷の小さなステップ」というタイトルで紹介した。

ところが、まだ一月しか経っていないのに、今度はNatureに同じく外科手術で脊髄の硬膜外に留置した硬膜外刺激装置で3人の慢性期の頸椎脊髄損傷患者さんが自力で歩行することを可能にした研究が報告された。膨大な生理学的データを示して、なぜ歩けるかというプロセスを段階的に説明した論文で、素人の私にも説得力が高く、これはかなりいけると、今度は「脊髄損傷の大きなステップ」というタイトルで紹介することにした。ローザンヌにある工科大学EPFLからの論文でタイトルは「Targeted neurotechnology restores walking in humans with spinal cord injury (標的を定めた神経テクノロジーが脊髄損傷患者さんの歩行能力を回復させる)」だ。

この研究も、9月に紹介した研究も、筋肉と直接結合している末梢運動神経を脊髄に埋め込んだ硬膜外電極で刺激して運動を回復させる点では同じだが、この研究では生理学的な詳しいデータを集め、足を動かすための多くの筋肉が空間、時間的によりよくコントロールできるようにした上で、それぞれの患者さんのデータを重ねて調整が図られている。例えば、股関節を曲げる時、上部腰椎の脊髄が活性化されるが、足首を伸ばす時は上部仙骨の運動神経を支配する神経細胞集団を活性化するといった組み合わせが、それぞれの神経に伝わるようにプログラムする。また、神経刺激のパターンと屈筋、伸筋の関係についてさまざまな例を示して、ただ単純に刺激すればいいというものではなく、生理学的なデータに基づく刺激が重要であることを示している。

その上で、以前紹介した方法と決定的に違うのが、足を動かそうとしてもらって、全く動かない場合、硬膜外刺激を弱く加えてそれを残った神経で脳で感じてもらい、それぞれの筋肉をコントロールできる回路を開発できるようにしている。これにより、筋肉を動かすタイミングと強さを自分の頭でコントロールできるようにしている。この結果、驚くことに硬膜外刺激のないときでも、足を動かすことができるようになっている。また、治療開始5日で、吊り下げてもらいながら歩行訓練ができるようになる。

もちろんこんな説明では到底足りないほどの、記録や調整が行われた上の話だと思うし、このために患者さんも大きな努力を払ってコントロールを取り戻すためのリハビリを行ったと思う。そして最終的に、タブレットPCを通して、立つ、歩く、サイクリングなど、声で命令するとその動作に最適の刺激が与えられるようにしたコントロールシステムにより硬膜外刺激を与え、その刺激のタイミングと強さを自分の脳でコントロールすることで、3人ともかなりの運動能力を取り戻すのに成功している。

結局講釈は後にして、結果を見てもらったほうがいいだろう。次の2種類のビデオをみれば、これが大きなステップであることはわかっていただけるのではないだろうか。 https://static-content.springer.com/esm/art%3A10.1038%2Fs41586-018-0649-2/MediaObjects/41586_2018_649_MOESM8_ESM.mp4

このビデオを見るだけで私の説明など無意味であることがわかる。まさに生理学と電気工学の融合の勝利だと思う。また、ETHやEPFLのように工学と基礎科学が常に同居するシステムで教育研究を行うスイスの伝統の勝利と言えるのかもしれない。そして、我が国でも例えば脊損で政界を引退した谷垣さんを中心にして、この治療法をどう導入していけばいいのか、議論するときがきたように思える。
カテゴリ:論文ウォッチ
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