こんな政治風潮に合わせたかのように、ミネソタ大学からアジアから米国に移民した人たちが、米国の生活に適応していく様を腸内細菌叢の変化から調べた論文が発表された。おそらく時事問題としての面白さも考慮してCellのエディターも掲載を決めたのではないだろうか。タイトルは「US Immigration Westernizes the Human Gut Microbiome (米国への移民は腸内細菌叢を西欧化する)」だ。
米国へ移住したら西欧化するなど、当たり前に思えるが、実際何が腸内細菌レベルでの西欧化に当たるのかを知ることは重要で、確かに興味は惹かれる。
研究では東南アジアの山岳民族モン族とカレン族の女性で、1)現在タイの山岳地帯に住んでいる、2)タイで生まれた後、米国へ移住した、そして3)アメリカで生まれた、と異なる3グループの便を、体重などの健康データとともに集めている。便については24時間前からの全食事についても記載している。全部で500人を超す人についての検査で、実際には大掛かりな研究だが、手法自体は特別なものはない。便の細菌叢も一部の実験を除いて16S rRNAを用いており、全く当たり前の手法だ。
移民という状況を選んだのは、この研究が最初だと思うが、都市文明に侵されないで生きている様々な民族の腸内細菌叢については研究が行われており、粗食にも関わらず、腸内細菌叢は多様で、健康的な細菌からできていることが知られている。したがって、移民という状況でも大体予想がつくが、結果は予想通りと言っていいだろう。
まとめると以下のようになる。
1) 移住によって、土着のカレン、モン族それぞれ特有の細菌種は失われる。またこれまでの研究と同じで、細菌叢の多様性も、土着の生活で最も高く、移住により多様性が失われるとともに、肥満も進む。この多様性の低下は、米国滞在期間が長いほど低下していく。
2) 土着の生活に特徴的な細菌はPrevotella属で、移住とともに西洋型を代表するBacteroidesに置き換わる。
3) 米国に移住することで、植物中心の食事が変化するが、これに応じて炭水化物を分解する酵素がほとんど失われる。中でも、東南アジア特有の食事に関連するglucoside hydrolaseなどはすぐ失われる。すなわち、腸内細菌叢は食生活に密接に結びついている。
4) ただ、食習慣だけで説明ができない文化の差と言えるような差が細菌叢に存在している。
5) このような西欧化は移住後9ヶ月後から始まる。
話はこれだけで、腸内細菌から見た西欧化とはどんなことか、興味を持って読んだが、特に驚くような話は残念ながらなかった。また移民問題に細菌叢から何かアドバイスができるというわけでもなさそうだ。ただはっきりしているのは、アメリカに移住すれば、腸内細菌叢で見たとき、カレン族もモン族も結局トランプと同じアメリカ人になることは確かそうだ。
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