しかし、アレルギーを起こす免疫系を変化させようとする試みも、欧米ではピーナツアレルギーに、わが国では卵アレルギーについて進んでおり、成果が出始めている。中でも注目されてれいるのが、アレルギーの親族がいる子供に、乳児期から敢えてピーナツを食べさせて治療する方法で、おそらく腸管から免疫することで、制御T細胞を活性化することができるのだろう。アレルギーの治療としては、ますます発展させる必要のある方向だろう。
一方、すでにアレルギーが発症している人については、昔から脱感作療法が行われている。特定できた抗原を、低い量から徐々にエスカレートさせ、一定期間注射を続ける治療法だが、私の理解では免疫系が抑制されるというより、同じ抗原に対してIgG4などアレルギーを起こさない抗体を誘導し、抗原を中和するのが作用メカニズムだと思う。この脱感作は、これまで医師による注射で行われていたが、これをピーナツ抗原の入った飲み薬で行うのがAimmuneという会社の開発したAR101で、この第3相臨床試験を、欧米の機関が集まって行った結果が、11月19日号のThe New England Journal of Medicineに掲載された。タイトルは「AR101 Oral Immunotherapy for Peanut Allergy(ピーナツアレルギーに対するAR101を用いた経口免疫療法)」だ。
まず800人程度の、ピーナツアレルギーとたしかに診断できる患者さんを無作為に、AR101と偽薬にわけ、どちらも脱感作療法プロトコルに従って投与している。脱感作だが、最初は医師の見ているところで毎日0.5mgから6mgまで量を上げていき、その後は2週間ずつ300mgまでエスカレートさせ、その後300mgを24週間続ける約1年のプロトコルだ。この治療を受けた患者さんは、100mg(ピーナツ半分)に対してさまざまな程度のアナフィラキシーが起こることが確認されている。従って、300mgまで増量できることは、脱感作がうまくいっていることを意味する。一般的な脱感作療法と同じで、実際にはこの時多くのアレルギー症状が出て、治療をストップせざるを得ない。この治験でも、374人からスタートしたAR101グループのうち41人が、さまざまなアレルギー症状でドロップアウトしている。その意味では、これまでの脱感作療法とあまり変わることはないが、注射が必要なく、エスカレーションの後は自宅で管理ができる点が売りになるだろう。 それでも、副作用が出たのは10%強ということで、それ以外は300mgというピーナツ1個分を毎日食べられるようになっていることを意味する。
そして1年後、AR101服用をやめる時に、600mgと1000mgを余分に食べさせてみて、アナフィラキシーが出るか症状で見ている。結果だが、効果は絶大で、6割を超える4ー17歳の子供は、ほとんど症状がでない。また症状に対してエピネフリン注射を行った頻度も、コントロール群では53%に達するのに、AR101群では10%と抑えられており、アレルギーを抑えられていることを示している。メカニズムに対しても検査が行われており、AR101によりIgEのレベルは変わらないが、IgG4が誘導され、おそらく抗原が中和出来るのではと考察している。
以上が結果で、アレルギーを抑えるという点では成功した治験と言えるだろう。ただ脱感作だと今後も服用を続ける必要があり、それ自体が免疫反応を誘導することになるので、治療として定着できるかどうかは判断が難しいように思う。とはいえ、脱感作という私たちが学生の頃からの治療法に集中するベンチャーが存在していること、そしてここまで開発が進んでいることに本当に驚いた。
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