今日紹介するカリフォルニア大学サンディエゴ校からの論文は、まさにこのラインの研究で様々なレベルの情報を自閉症の言葉を話す能力の発達障害と相関させようとした研究で12月号のNature Neuroscienceに掲載された。タイトルは「Large-scale associations between the leukocyte transcriptome and BOLD responses to speech differ in autism early language outcome subtypes(白血球のトランスクリプトームと機能的MRIで測定される話し言葉に対する反応は初期から言語能力の影響が大きい自閉症の子供では異なっている)」だ。
この研究では言葉を話し始めた3−4歳児に様々なテストを行い、典型児、言語発達が強く抑制された自閉症スペクトラム(ASD)、そして言語発達は比較的正常なASDに分けて、その子供達を4年間追跡、最初に言語発達障害が強く認められた群で、自閉症症状が年齢とともに悪化すること、逆にASDでも言語発達障害が軽度だと、症状は改善する事を確認している。このことは、言語発達障害が最も感度の良い、予後因子として利用できることを示している。
次に、言葉を聞いた時にASD児で反応が低下していることが知られている領域の反応をMRIで調べ、特に言語発達の遅れているASDでこれらの領域の反応が低下していることを確認している。
この研究のハイライトはここからで、この症状を脳の変化を遺伝子や遺伝子発現(エピゲノム)の変化と相関させようと、ともかく調べやすい末梢血の白血球の遺伝子発現の網羅的解析と、症状やMRIの結果との相関を部分的最小2乗法を用いて計算し、相関する遺伝子を調べている。その結果、言語発達が障害されたグループの脳の反応とある程度の相関を示す遺伝子のモジュールを8種類特定している。
脳とちがって白血球の転写を指標にするとはなんと乱暴なと思ったが、ともかく相関が認められ、相関するモジュールの遺伝子の殆どは多くの組織で発現が見られる分子だ。白血球で調べているのだから当然と言えば当然だが、それでも例えば鳥の鳴き声を調整する遺伝子が多く集まっているモジュールが存在する。また、人間のASDの解剖例の前頭前皮質や、側頭皮質で発現が低下している遺伝子群も多く見られる。他にも、ASDでの異常が知られている様々な機能的指標に関わる遺伝子が今回話し言葉に対する脳の反応と相関した発現遺伝子モジュールに濃縮しているのを示している。
これは遺伝子発現なのでエピゲノムレベルだが、最後にゲノムレベルとの相関を調べるために、これらのモジュール内の遺伝子と、ASDの多くで変異が見られる2種類の遺伝子FMRPとCHD8との関係を調べ、これらの標的遺伝子がやはり相関モジュールの中に濃縮されていることを示している。
話はこれだけで、症状をfMRIの反応と相関させ、それをさらに遺伝子発現と相関させ、最後はゲノム変異と相関させるという21世紀の典型的論文だと思う。ただ、AIもそうだが、計算によって相関が出てしまうので、議論を深めてそれ以上突っ込むのが難しいと言う難点はある。しかし、今の所これに変わる方法はないなと思うのが正直なところだ。 来月神戸大学で、数理生物の本多先生と、いま存在する膨大なデータを使って論文を書いて科研費の少ない時代を乗り越える可能性について大学院生と議論する予定だが、おそらくquestionさえあればともかく可能性が確かめられるのも、ビッグデータの時代だとも言える。
カテゴリ:論文ウォッチ