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11月30日 ハイエナは女系社会か?(11月19日号Nature Ecoloty & Evolution掲載論文)

2018年11月30日
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9月にアフリカに行った時、ハイエナは何回か見る機会があった。いつも物悲しい顔をしており、この写真も左側のオスの股間から察するに交尾に及ぼうとしているある意味では興奮の瞬間なのに、表情は物悲しい卑屈さが漂ったままだ。

面白いことに、ハイエナは群れで暮らすことが多いのに、珍しくオスメスのサイズが同じだ。強いオスがメスを支配する動物はオスの体格がメスより大きいのが普通だ。このことから、ハイエナの場合、メスが群れを支配していると考えられていた。メスは交尾は一回なので、オスを争はないからだろう。またハイエナの社会を観察したこれまでの研究でも、群れのトップは常にメスである事が観察されていた。

今日紹介するのは、ドイツ ベルリンにある「動物園と野生生物研究所」からの論文で11月19日のNature Ecology and Evolutionに掲載された。タイトルは「Social support drives female dominance in the spotted hyaena(社会的指示がハイエナ社会の女性優位を形成させている)」だ。

著者らは長年の観察に基づいて、ハイエナ社会がメス優位の社会に見えるのは、実際には競争が起こるときに周りにいる親しい仲間の存在に大きく左右されるのではないかと直感し、これを調べるため丹念な観察を行った。

研究では8つの群れで起こった748回の個体同士の競合の状況を細かに観察し、何が勝者を決めるのか調べている。ハイエナの群れは、確かにメス優位で、受け入れられる流れものはオスだけという構造になっている。すなわち、メスは群れの中でずっと暮らす。このため、一対一の競合が起こるときの個体間の関係は、1)群のメンバーのメスと流れ者のオス、2)群のメンバー同士の個体同士(同性、異性両方の場合がある)、3)流れ者のオス同士、そして4)異なる群の個体同士の4状況に考えられる。

この時に、周りにいる個体の状況を丹念に観察し競合の結果の判断に組み入れたのがこの研究の重要性で、群れの個体の序列や関係性を知るためになんとハイエナの8世代、21年間の観察を続けた結果だ。

結果は予想通りで、どのような組み合わせでも近くにいる仲間の存在が競合の成否を決めている。一方周りに仲間がいない一対一の競合ではほとんど結果は予測できず、同じ群れのメンバーの場合はメス優位では全くなく、50/50の関係であることが分かった。

勝ち負けの絶対数だけを数えるとメス優位に見えるのは、オスの多くが後から群れに入った流れオスのため、仲間がおらず、一方メスはずっと群れで暮らしているためだ。すなわちオスとメスの競合だけに注目してしまうと、仲間の多いメス優位という結論になるわけだ。実際には、群のメンバーだとオスメスの間には差は全くない(それでも他の動物と比べるとかかあ天下と言えるが)。

以上が結果だが、同じことは人間にも言えるのかも知れない。直立原人誕生で人間の男女の体格差がほとんどなくなる。これは一夫一婦制が始まったせいかと単純に考えていたが、そう簡単な話ではなさそうだ。直立原人が誕生した当初は、おそらくハイエナのように肉や骨も狩で手に入れるのではなく、拾い集めていたのではないだろうか。とすると、身近な仲間の数が重視される社会構成さえ築ければ、見た目で女性優位社会ができ、男女の体格差がなくなることもあることがよくわかった。
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