今日紹介する英国ケンブリッジ大学からの論文は同じように世代を超えて伝えられるメチル化のパターンがどの程度ゲノム上に存在し、またそれを維持する条件を現象論的に調べた研究で11月15日号のCellに掲載された。タイトルは「Identification, Characterization, and Heritability of Murine Metastable Epialleles: Implications for Non-genetic Inheritance (マウスの比較的安定に伝達できるEpi-alleleの特定、解析、そして遺伝性:非遺伝的伝達についての示唆)」だ。
この研究は、マウスゲノムの中にある内在性レトロウイルスのうちのIAPに焦点を当て、どの程度のIAPがメチル化のパターンを子孫に伝達できるのか網羅的に調べることが目的になっている。そのため、1)個体間でメチル化パターンが異なり、2)それがメチル化パターンと対応し、3)その近くの遺伝子の発現量が変化するという条件でIAP-LTRを探している。実際、ほとんどのIAPは完全にメチル化されているが、30種類のIAPがAvhと同じように切れ切れで中途半端なメチル化パターンを持っていることが分かった。
次にIAP-LTRの中で、完全にメチル化されるものと、メチル化のレベルが変動するものに分かれる理由について塩基配列を比べているが、特に特徴的な塩基は見つからなかった。ただ、多くのマウス系統で同じようなメチル化が変動するIAPを比べると、比較的新しくゲノムに飛び込んできたIAPにこの傾向があること、そして変動タイプのIAPの隣にはクロマチン制御にかかわるCTCF結合サイトがあることが分かった。また、転写への影響をヒストンのアセチル化やメチル化などで調べると、このような新しくゲノムに入ったIAPは確かに転写に影響し、それもメチル化の程度と転写が反比例することも分かった。
ではこのメチル化が変動する状態が生殖細胞へ分化した時も維持されるのかどうか調べるため、精子でこれらの部位のメチル化を調べると、完全にメチル化されている。従って、世代を超えてこのメチル化の状態が遺伝するためには、発生過程でもう一度同じ変動型のメチル化状態が作られる必要があることも分かった。おそらく、CTCF結合サイトが近くに存在することで、メチル化がほころびるのではと考えているようだ。
話はこれだけで、Avhと同じようなメチル化が完全でないIAPが結構存在でき、そのパターンがもう一度発生で再現できるという現象論で終わっているので少しフラストレーションは残るが、やはり内在性のレトロウイルスが個体差の重要な要因になることが確認されたのは重要だと思う。
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