今日紹介するカリフォルニア州立大学デービス校からの論文は肥満とPD-1発現による免疫反応の抑制について調べた論文Nature Medicineオンライン版に掲載された。タイトルは「Paradoxical effects of obesity on T cell function during tumor progression and PD-1 checkpoint blockade (ガンの進展とPD-1チェックポイント阻害に関わるT細胞機能に対する肥満の逆説的効果)」だ。
確かに、タイトルを見るとなかなか面白そうだと思ってしまう。ただ、読んだ後は少し拍子抜けする論文だ。おそらく著者の頭の中にあったのは、今年の3月the Lancet Oncologyに掲載されたメラノーマの治療成績と肥満との関係について調べたテキサス大学からの論文(McQuade et al The Lancet Oncology 19:310, 2018)だと思う。この論文ではチェックポイント治療成績が肥満の患者さんの方がいいという成績が示されていた。この研究では肥満とがんに対する免疫を動物実験も交えてより包括的に調べようと考えた。
まず、12ヶ月令のマウスの肝臓に存在するT細胞を肥満マウスと正常マウスを比べると、肥満マウスでは細胞の増殖指数が低く、逆にPD-1を発現している細胞が2倍以上に達している。さらに同じことは、ヒトの末梢血でも確認できる。すなわち、肥満になると、T細胞がチェックポイント分子を発現し、増殖を停止し易いことがわかる。
このように免疫機能が肥満により低下するため、マウスに腫瘍を移植すると、肥満マウスでは癌の増殖が倍以上高まっている。肥満マウスではT細胞のかなりの割合がPD-1を発現し、発現遺伝子から見ても正常T細胞とは大きく異なり消耗しやすくなっていることから、ガンが増えやすいのも当然の結果だと言える。
ではなぜ肥満になるとT細胞が消耗しやすくなるのか?肥満で上昇する一種の肥満ホルモンとして知られているレプチンのレベル肥満マウスやヒトで高まっている影響が疑われたので、レプチンに対する受容体の機能が低下したdb/dbマウスのT細胞を調べると、PD-1の上昇は見られない。さらに、T細胞の高原受容体を刺激してレプチンの効果を調べると、期待通りレプチンによりPD-1が倍以上に上昇する。
以上の結果から、肥満により分泌されたレプチンが、T 細胞の消耗を誘導すると考えられる。
そして最後に、この消耗をチェックポイント阻害抗体で食い止められるか、ガンを移植したマウスで調べると、肥満マウスではチェックポイント治療が高い効果を示す。これは、悪性黒色腫に限らず、肺がんでも同じ結果で、特にガンを選ばない。また、人間の直腸癌について調べると、肥満の人の腫瘍に浸潤しているT細胞はPD-1の発現が高く、また他の遺伝子発現でも消耗型のT細胞になっている。一方、チェックポイント治療は肥満の患者さんの方が高い効果を示している。
以上から、肥満によりT細胞は消耗しやすくなっているが、おそらくPD1陽性細胞の割合が大きく上昇しているため、チェックポイント阻害が高い効果を示すのだろうと結論している。ただ、消耗していても、抗PD-1で本当に再活性できているのか、ちょっと信じがたい気持ちも残っている。
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