今日紹介する国際多発性硬化症コンソーシアムからの論文は、神経細胞のミエリンに対する自己免疫病多発性硬化症と相関する遺伝子変異を大規模に、高い精度で特定しようとした研究で11月29日号のCellに掲載された。タイトルは「Low-Frequency and Rare-Coding Variation Contributes to Multiple Sclerosis Risk(多発性硬化症発症リスクになる低頻度の稀なタンパク質コーディング領域の変異)」だ。
最近稀な変異の特定が進んだのは、数万人規模でタンパク質をコードする全遺伝子の解読(エクソーム検査)が行われるようになったおかげだが、コストや情報解析の点で困難が伴う。この研究ではエクソーム検査でリストされたほとんどの変異をDNAアレーで調べられるようにした安価なDNAアレーを用いて稀な変異を含め多発性硬化症に関わる遺伝子変異を探索している。調べられた患者さんの数は3万3千人でヨーロッパ、オーストラリア、アメリカで行われているコホートが集まって研究している。
この研究により0.2%−5%の頻度で患者さんの中に存在する変異が見つかっており、検索の規模をあげて調べることの重要性を示唆している。リスクへの寄与度を計算すると、稀な変異の方がコモンバリアントより遺伝的寄与率が高く、新しく発見された稀な変異で全体の5%の遺伝性を説明できることを示している。
重要なのは、これらの変異が他のコモンバリアントと連結していないこと、およびほぼ全てが免疫機能に関連している点だ。驚くことに、パーフォリンのようなキラー活性に直接関わる遺伝子など、他にも細胞障害性に関わる遺伝子が見つかった。他にも、自然免疫やTregに関わる遺伝子がリストされており、これらが疾患リスクに強く関わることは十分頷ける。
以上の結果は、このような稀な変異を中心に他の寄与度の低いリスク要因が集まるモデルを構築出来る可能性を示している。ただ、今回の規模では、まだまだ100%の病気を説明できていないので、さらに大規模の遺伝子検査が必要だと思う。おそらく、この延長には本当の意味での個人別の治療が存在するのだろう。これまで行われて来た遺伝子検査サービスも、おそらく新しくアップバージョンすることが必要になるだろう。その意味で、医学でも、遺伝子サービスでも、エクソーム検査に対応するDNAアレーが開発されることは大きな意義がある。また、稀な変異を中心にする疾患発症モデルは、多様な病気の成り立ちとともに治療標的についてもかなりの情報を与えてくれるように思う。そう考えるとそろそろ、プレシジョン時代に備えて、新しい医療保険やシステムの議論を始めた方がいいように思う。何れにせよ、外国人への門戸を開く我が国で、医療保険の根本的再構築は必須で、小手先の改革では破綻を食い止めることはできない。
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