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11月14日 生命以前の有機合成(Natureオンライン版形成論文)

2018年11月14日
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地球上の生命の発生の話になると、必ずパンスペルミア仮説、すなわち生命の起源となる有機化合物が、地球ではなく、宇宙に散らばる流星に運ばれて地球にやってきたとする考えを述べる人がいる。フランシス・クリックまでがこの説を支持しているとして、不思議と人気がある。ただ、私はこの考えが大嫌いだ。もちろん正しいか、正しくないかをおそらく検証することは難しいだろう。しかしこの説の最大の問題点は、地球以外の何処かで有機化合物ができたとして思考停止に陥る点だ。この説では結局問題は解決せず、では宇宙のどこで、どのようにその有機体が合成されたのかを答える必要があるからだ。結局地に足をつけて、多くの先達と同じ、地球上で有機体が作られる条件を探したほうがずっと生産的だ。2015-2016年にかけ、JT生命誌研究館のウェッブサイトに「無生物から生物が出来る(abiogenesis)ための条件」について、16回にもわたってさまざまな論文を紹介したが(http://www.brh.co.jp/communication/shinka/2015/post_000022.html  からhttp://www.brh.co.jp/communication/shinka/2016/post_000013.html)、これらの進歩を学ぶと、わざわざ宇宙に有機物の起源を求める必要など微塵もないことがわかる。

今日紹介するソルボンヌ大学からの論文も有機物は海底の熱水噴出孔で十分合成可能であることを示す論文でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Abiotic synthesis of amino acids in the recesses of the oceanic lithosphere (海中の岩石圏のくぼみの中でアミノ酸は生命なしに合成できる)」だ。

最初に断っておくが、生命の関与しない有機物の合成はワクワクする話題だが、かなり有機合成の知識が必要で、私の様な素人にはよく分からないことも多いので、有機化学反応の詳細についてはすっ飛ばして紹介する。

これまでの研究で、有機化合物のabiogenesisには蛇紋岩を多く含む熱水噴出孔が重要と考えられており、この研究もそのような条件を持った海底からさらにボーリングで170m掘り進んだ地層を調べ、鉄を多く含んだサポナイトの中に紫外線を当てた時、自然蛍光を発する有機炭素を検出することに成功する。そして、それがトリプトファンとそれ由来の分解物であることを特定する。

あとは、これが生物由来の有機物でないことを注意深く有機化学的に調べ、実際トリプトファンが存在する場所にはほとんどバクテリアがはまり込む大きさの穴が存在しないこと、また生物が存在するなら発見されてもいい有機物が全く存在していないことなどから、これがabiogenesisによる有機物であることを確認している。

その上で、トリプトファンが発見される粘土鉱物の性状から、この環境が実際の工業的窒素化合物の有機合成で用いられる条件に類似していることを突き止めている。この条件から(ここは理解できていないが)、トリプトファンを合成した化学反応がFriedel-Crafts反応と呼ばれる芳香族酸を合成する反応だろうと推察している。

以上、実際に有機化学的に説明が可能な形で、地球上にアミノ酸が存在すること、またこのabiogenesis過程の名残を受け継ぐバクテリアが蛇紋岩化がおこる環境に存在することから、生命誕生に必要な有機化合物は蛇紋岩化が起こる熱水噴出孔で起ったと考えるのが最も自然だと結論している。

現役の頃はほとんど読むことがなかった生命誕生の条件を探る研究が、少しづつではあるが着実に進展していることを実感する素晴らしい発見だと思う。
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