睡眠中に覚えたことをもう一度再現(リプレイ)して記憶を確かにするためにおこるreplay burst と呼ばれる神経現象は、脳科学の概念としては専門外の人間にもわかりやすい。素人的に考えると、何か一つのことに集中するには、外界からの新しい刺激は邪魔で、できれば眠っているときにもう一度思い出してみるというアイデアは理にかなっている。
今日紹介するオックスフォード大学からの論文は、人間のボランティアを用いてリプレーと外界からの遮断状態との関係を調べた研究で3月3日発行のNeuronに掲載予定だ。タイトルは「Replay bursts in humans coincide with activation of the default mode and parietal alpha networks(人間でのリプレイバーストはデフォルト状態と側頭葉のα波ネットワークの活性化と一致する)」だ。
リプレイバーストと名付けられている様に、脳全体で同期して細胞が興奮してスパイクを発する現象で、人間の場合、高い波長の脳波を拾うことで検出することができる。ただ、このバーストが起こるきっかけを調べるためには、外界から遮断された休んでいる脳について調べる必要がある。
この研究では脳磁計で捉えられるリプレイが、睡眠時だけではなく、覚醒はしていても外界から離れてボーとしている状態(これを脳科学ではdefault modeと呼ぶ)でも起こることに着目し、default modeでリプレーが起こる課題を設定し、このときに見られるリプレイバーストと、fMRIで捉えられる脳のdefault modeを支えるαネットワークの活動との関係を調べている。
実際には、膨大な記録を統計学的に処理し、様々な解析を行なっているが、結論は一言で、外界への注意と逆相関することがわかっている頭頂皮質と海馬の回路を中心とする4箇所のαネットワークの活動と、リプレイバーストが明確に連関していることを明らかにしている。すなわち、ボーとしているとき、頭頂皮質の一部がより強く活動して、外界から私たちを遮断するシグナルが刺激となってリプレイが起こるという話だ。
脳科学としては、もともと結合しにくい、リプレイバーストとdefault modeでのαネットワークを同時に調べたという意義が大きい様だが、素人的には、ボーとしているdefault modeも操作でるかもしれないという妄想が湧いてきた。特に高齢者になると、ボーとする時間が増え、記憶が落ちる。この論文を読んでDefault modeでもちょっと頭頂葉を働かすコツを覚えれば、リプレイを高めることはできないだろうか?などと考えているが、専門家に笑われるかな?