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2月5日 言語回路をサルと人間で比べる(3月3日号 Neuron 掲載論文)

2021年2月5日
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昨日に続いて、3月3日号のNeuronに掲載された、人間の脳回路についての研究を紹介することにした。今日の対象は、人間の言語機能を支える脳ネットワークの構築がアカゲザルにも存在するのか、同じ実験方法を用いて調べた研究で、英国のニューキャッスル大学とアイオワ大学の共同研究だ。タイトルは「Common fronto-temporal effective connectivity in humans and monkeys (人とサルに共通の前頭-側頭回路結合)」だ。

耳が聞こえないニカラグアのストリートチルドレンに自然発生した手話言語は、人間が集まれば自然に言語を発生させる能力が私たちの脳に存在することを示している。この言語を話す能力がホモサピエンスで進化した鍵になる回路やゲノムの差は何か、21世紀最大の課題の一つだろう。

言語理解に関わる基本回路の一つは、耳から入ってきた音を拾う聴覚野、有名なBrocaの研究から明らかになった腹側側頭前頭皮質領域(ブロードマン44、45)とそれに接する前頭弁蓋、そして陳述記憶に関わる内側側頭葉の海馬と傍海馬回のネットワークだが、解剖学的、あるいはMRIを用いた研究から同じ様な回路が猿にも存在することは分かっている。

この回路をより機能的な方法でヒトとサルで測定して比べようとしたのがこの研究だが、今回初めて耳にしたes-fMRIという方法を用いている。原理は単純で、特定の部位に加えた電気刺激の影響をfMRIで調べるという話だが、MRIについて少しでも知っているものにとっては驚きの技術だ。

一般の方でもMRI検査には身につけている金属を全て外す必要があることは聞いたことがあると思う。超磁場を体に当てるのだから当然だが、そんなMRIを電気刺激をしながら実行できると聞くだけで驚く。実際には、てんかん発生部位を調べるクラスター電極を埋めた患者さんで、この電極から電気刺激を入れて、それにより活動が誘発できる脳部位をfMRIで調べている。MRIの制限を考えると、大きなイノベーションが知らないところで起こっていた。

研究では、サルと人間で聴覚野から電気刺激を加え、それに対する反応がどこで見られるかを調べている。結論は明瞭で、サルでも人間でも、聴覚野から言語処理に関わる、腹側側頭前頭皮質、前頭弁蓋、そして海馬や傍海馬回への結合が同じ様に見られ、ヒトとサルの違いは、左右両側での反応の非対称性が人でだけ見られるという結果だ。

今回対象となったヒトの一部では広い範囲にクラスター電極が埋められているので、es-fMRIの結果を、電気刺激を電気的興奮として検出する従来の方法、及び、人間の声を聞いてどの領域が興奮するかについても詳しく調べて、es-fMRIの結果を再確認するとともに、これまでサルで行われてきた電気的結合研究結果と同じで、直接聴覚野から腹側側頭前頭皮質へ投射が人間でも存在することを確認している。

話はこれだけに見えるが、実際のデータでは上に示した領域以外にも反応が見られているので、今後はもっと広い範囲でサルとの比較が必要だが、最初あげた言語回路については、人間もサルも一緒だという結論になっている。

ただ、素人の私から見ても、この実験は始まりに過ぎない様に思う。es-fMRIが可能なら、今後工夫した課題と、この手法や行動中のfMRIを合わせて、高次機能の脳回路を調べることができる。事実、この研究でも聴覚野からの刺激に前頭弁蓋の強い反応が両者で起こることが示されているが、前頭弁蓋は時間とともに進行するイベントを認識する領域であることを考えると、言語や音楽の認識と、時間経過の認識の脳回路を、人間とサルで比べることも可能になると思う。

MRIに耐える材料の電極ができたということだが、現役時代、亡くなった笹井さんが、MRIを使いながら手術するための道具を作るため、神戸の中小企業団体を助けていたのを思い出した。

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