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2月14日 骨髄全体の組織構成を理解する:組織学の必要性(2月8日 Nature オンライン掲載論文)

2021年2月14日

造血研究は、コロニー法やFACSによる細胞学など多くのテクノロジーをいち早く実現化して、毎日起こっている造血幹細胞から分化細胞への階層的プロセスを明らかにしてきた。ただ、最大の問題は、研究のほとんどがバラバラの細胞についての細胞学的研究にとどまり、組織学的研究はほとんど使われてこなかった。確かに、未熟幹細胞など特定の細胞に的を絞ってピンポイントで組織学的局在を調べることが行われてはいるが、階層全体の中でそれを位置付けることはできていない。これは骨髄が骨に閉じ込められ、しかも壊れやすいため、全体を見たい時に使われるwhole mountでの観察が難しかったためだ。

今日紹介するシンシナティ医療センターからの論文は様々な工夫を凝らして、骨髄組織のwhole mount解析に成功したと言う話で、長年造血に関わってきた人間としては美しいの言葉でしか表せない研究だ。タイトルは「In situ mapping identifies distinct vascular niches for myelopoiesis (骨髄球のin situマッピングにより骨髄球造血の異なる血管ニッチが特定された)」だ。

要するに骨髄全体をWhole mount 免疫染色ができたと言う話だが、この分野を理解する者からみると、いくつか成功の鍵がわかる。

まずマウス骨髄というとすぐ大腿骨を考えてしまうのだが、骨が厚くて割るときに組織が破壊される。これに代えてこの研究では胸骨を用いている。人間では骨髄採取する部位なのだが、マウスでは小さすぎて骨髄細胞採取という意味では役に立たない。しかし、Whole mount 免疫染色という点では素晴らしい着眼点だと思う。

もう一つは、造血については様々なマーカーがわかっているので、どうしても骨髄幹細胞からの全ての階層を見たいと思ってしまう。この研究では、焦点をwhole mountが可能かに絞っているため、欲を出さずに骨髄球、すなわち顆粒球、マクロファージ、樹状細胞の分化に限定して調べることで、わかりやすい結論になっている。もちろん同じ手法は今後、他の細胞系列や未熟幹細胞の研究に用いられるだろうが、顆粒球だけでも十分面白かった。また、組織所見を定量化するために、分化段階の異なる細胞同士の距離を示すなど、データ表示も工夫されており、さすが組織学者と思わせる。

結果は膨大なので、面白いと思った結論だけピックアップしておく。できれば論文を見ていただいて、組織写真だけでも眺めてもらうだけでいいと思う。要するに、骨髄のwhole mountができる様になった。

結論だが、

  • 顆粒球系の造血は、骨髄幹細胞造血場所とは全く離れて、それぞれの系列へ分化した前駆細胞が別のニッチに到達して始まる。
  • それぞれのニッチには、別の場所で作られた前駆細胞が持続的にリクルートされる。
  • 顆粒球系、単球系、樹状細胞系の増殖分化は別々のニッチに支持されており、単球、樹状細胞の増殖分化はCSF-1発現の血管内皮が存在する場所で起こる。
  • 通常、それぞれの前駆細胞由来クローン数は少ないが、感染が起こるとそれぞれのニッチでの前駆細胞の自己再生が高まる。これにより、顆粒球系が刺激依存的に末梢にリクルートされる。

個人的に気になったのは、上に述べたが、他にの面白い話は多いと思う。今後、同じ方法でより未熟な幹細胞が調べられるだろうし、さらに骨髄抑制や白血病など様々な条件がwhole mountで調べられるだろう。個人的意見だが、大きな貢献だと思う。

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