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2月24日 麻酔で脳活動を長時間抑えることによるシナプスの変化(2月10日米国アカデミー紀要オンライン掲載論文)

2021年2月24日
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生きている動物の脳内のシナプス形態変化を1ヶ月という長期間記録し続ける技術については2015年紹介したことがあるが(https://aasj.jp/news/watch/3680)、スパインと呼ばれる樹状突起のシナプスが、出たり入ったりするとともに、形態も変化するのを見ると、この変化が自分の脳でも起こっているのかと感慨にふける。

今日紹介するコロンビア大学からの論文は、同じ技術を使って、長時間の麻酔を行ったあとのシナプス変化を調べた研究で2月10日米国アカデミー紀要に掲載された。タイトルは「Prolonged anesthesia alters brain synaptic architecture(長時間の麻酔は脳のシナプス構築を変化させる)」だ。

高解像度の蛍光顕微鏡で一本一本の神経突起を8日間観察し続けることは大変な実験だが、あとは一般に行われるisoflurane吸入麻酔をほぼ1日近く続け、その前後で同じシナプスを観察する、実験自体は単純な研究だ。これと並行して、簡単な行動解析も行っている。増井期間中は、呼吸、心肺機能は正常に保ち、病理学的障害が脳に生じないようにしている。

要するに長期間昏睡状態に置かれたとき、脳回路はどう変化するかが問題になっている。まず、麻酔による大きな身体的変化や行動変化も起こらない。ただ、最初経験した物体が新しいもので置き換えられた時に費やす時間差が消失することから、作業記憶が障害されている可能性が示唆される。

さて肝心のシナプス変化だが、この研究では観察しやすい感覚領域を用いて調べている。軸索と結合しているスパインは日々消長を繰り返しているが、面白いことに麻酔中はシナプスが増える方向に変化し、こうして形成されたスパインはその後3日ぐらい安定に維持される。麻酔というと脳の働きを抑えると思うので、スパイン形成が高まるというのは不思議に感じるが、冷静に考えてみると、生まれてからシナプスの選定が刺激依存的に起こると考えると、刺激が停止した状態では十分あり得るかと思う。ただ、麻酔から覚めた後は、今度はスパインが消失する率が高まるので、最終的に元に戻るという話になっている。

結果はこれだけで、タイトルをみて、麻酔には問題があるのかと構えて読んだが、あまり気にしないでいいというのが個人的印象だ。しかし、成熟した脳でも刺激がないと、スパイン形成方向に偏ることは、刺激依存的シナプス剪定は、大人になっても続いていることがよくわかった。

ケタミンについてはそれ自身が持つ代謝リプログラム経路がわかってきたが(https://aasj.jp/news/watch/14546)、isoflurane自体の効果も含めて、生化学的研究結果を知りたい。

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