私が現役の頃は、ガンに対する最も信頼おける治療法は外科手術で、それがうまくいかない場合に放射線や化学療法を行なっていた。しかし、乳ガンを中心に、転移の存在が想定されるステージでは、外科手術だけでは再発が避けられないことがわかり、これまで外科を助ける目的で行われてきた放射線や化学療法を、外科手術の前に持ってくるというネオアジュバント治療が、長期的効果を得るための定番になってきた。
そして最近になって、これまでの治療法に加えて、PD-1やCTLA4を標的とした免疫チェックポイント治療が新たな治療として登場し、これまでの方法では治療が叶わなかった患者さんの治療に使われ、大成功を収めた。とすると、これだけ効果のあるチェックポイント治療を、外科療法や化学療法の前に使う方がいいのではと考えるのは当然で、特に外科療法の前にチェックポイント治療を持ってくる方法の可能性が調べられ始め、このHPでも2回チェックポイント治療をネオアジュバント治療に使った臨床研究について紹介した(https://aasj.jp/news/watch/12797、https://aasj.jp/news/watch/9787)。
治療する医師の側からみると、ネオアジュバント・チェックポイント治療には大きなメリットがある。まず、ガン免疫が成立しているかどうかが先にわかる。そして、チェックポイント治療の結果を、切除した標本で確かめることができ、この治療を阻む問題についても解析できる。ただ、それ自体がどれほど効果があるのかについては、これまでより大規模な研究が行われており、間違いなく今後のガン治療が大きく変わるという結果が示されつつある。
実際2021年に入ってからもすでに57の論文が発表されているので、気になる論文を順に紹介することにした。最初はNature Medicine2月号に発表されたシドニー大学を幹事とする国際共同治験結果を紹介する。タイトルは「Pathological response and survival with neoadjuvant therapy in melanoma: a pooled analysis from the International Neoadjuvant Melanoma Consortium (INMC)(メラノーマのネオアジュバント治療に対する病理的臨床的効果:国際コンソーシアム参加施設でプールした成績)」だ。
この研究ではStage III B or Cで最初から転移が予想されるメラノーマ患者さん192例を、PD-1+CTLA4抗体、PD−1抗体のみ、そしてBRAF変異のあるケースは標的薬をネオアジュバントとして用い、その後腫瘍を摘出し、腫瘍で認められる病理的初見と、その後の予後について調べている。効果を病理で確かめ、その後の臨床経過と相関させる、まさに、ネオアジュバント治療のメリットを利用するものだ。
まず切除腫瘍から判断する病理的効果だが、標的治療の方がcomplete responseとしては成績がいいが、near complete responseを入れると、免疫治療の方が良い。面白いことに、標的治療のcomplete response はall or noneでnear completeというのがない。これはガンそのものに標的薬が聞くかどうかが問題で、免疫治療でのガン障害とは様相が大きく異なることがわかる。
重要なことは、ネオアジュバント免疫治療を行う場合、PD-1とCTLA4両方に対して抗体を持ちる方が圧倒的に成績がいい点で、病理的反応性の頻度はPD-1単独25%に対し、なんと63%に及ぶ。
そして期待通り、ネオアジュバント治療に対する反応が、完全に将来を予測できる。すなわち、二年目の生存率で見ると、病理的にcomplete responseが見られた患者さんでは89%が再発がないのに、最初に反応しなかった患者さんでは50%再発する。予後に関していうと、complete responseもnear complete responseも差がない。
さらにcomplete response群、及び反応が悪かった群でも標的薬よりチェックポイント治療の方がはるかに成績がいい。
以上の結果から、メラノーマ進行例で手術可能な場合は、PD-1とCTLA4を組み合わせたチェックポイント治療を行なった後、手術というのが一番良いという結果になっている。
明日は同じNature Medicineに掲載された肺がんの治療について紹介する。