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2月20日 新しいガン免疫チェックポイント分子(3月4日発行 Cell 掲載論文)

2021年2月20日
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何度も繰り返してきたが、個々の細胞ごとに遺伝子発現を調べることができるsingle cell RNAseqの技術は、生命科学一般に大きな影響を与えたが、とりわけ人間を用いる医学研究へのインパクトは大きく、新しい発見を続々もたらしている。

今日紹介するハーバード大学からの論文は、最も悪性の腫瘍の一つグリオブラストーマに対する免疫反応細胞を、腫瘍に浸潤するリンパ球のsingle cell RNAseq(scRNAseq)を用いて調べ、新しいチェックポイント分子を見つけたという研究で、3月4日発行予定のCellに掲載された。タイトルは「Inhibitory CD161 receptor identified in glioma-infiltrating T cells by single-cell analysis(グリオーマに浸潤しているT細胞のsingle cell解析により抑制性のCD161受容体が発見された)」だ。

この研究ではグリオブラストーマと、IDH変異を持つグリオーマに分けて、手術サンプルから浸潤しているT細胞を分離、得られたT細胞のscRNAseqを行い、ガンに対する免疫状態を調べている。

まずはっきりしたのは、ガンに対する免疫成立を示唆するリンパ球のセットが全て腫瘍組織に存在すること、またグリオブラストーマではより強いストレスが免疫細胞にかかっていること、そしてグリオブラストーマに対してはより強い免疫T細胞が浸潤していることがわかった。

これだけなら、なるほどグリオーマにも免疫が成立しているという結論で終わるのだが、不思議なことに浸潤したT細胞がT細胞受容体とともにNK細胞受容体を発現しており、しかもNK受容体を発現している細胞ほど、キラー活性に関わる遺伝子発現が高いことを発見した。

そこでNK受容体が誘導される条件について調べるため、T細胞受容体からクローン増殖しているT細胞と、増殖していないT細胞に分けてNK受容体の発言を調べると、T細胞受容体依存的に増殖している細胞ほどNK受容体の一つ、KLRB1(CD161)の発現が高いことが明らかになった。

CD161は、CLEC2D分子を認識し、PD-1と同じようなチェックポイント分子として働くことがわかっている。すなわち、CDC161が増殖細胞に強く発現するということは、増殖を抑えるチェックポイント阻害がかかっている可能性を示唆している。

グリーマ組織ではCD161のリガンドCLEC2D分子は、グリオーマ自体と、浸潤している樹状細胞などの骨髄級で発現が見られることから、PD-1とPD-L1とよく似た発現パターンを示している。そこで最後に、CD161がチェックポイント分子としてガン免疫を阻害しているのか調べるために、末梢血のCD161陽性細胞を分離、このT細胞からCD161遺伝子をノックアウトし、そこに腫瘍特異的T細胞受容体遺伝子を導入して、グリオーマに対するキラー活性を調べるという凝った実験を行い、CD161ノックアウトすることでキラー活性が2倍上昇することを示している。また、この効果をヒト化した免疫系を持つマウスグリオブラストーマモデルで生体内でも確かめている。

最後に、他のガンでも同じようにCD161が発現しているかも確かめ、ほぼ同じような遺伝子発現パターンを持つT細胞が複数の種類の腫瘍にも認められることを示している。

以上が結果で、ほぼ全ての実験を人間の細胞を用いて行っていることから、実際の臨床に移しやすい結果だと思う。結果を見る限り、PD-1/PD-L1ほどの効果があるとはいえないが、グリオブラストーマの悪性度を考えると、ぜひ突き詰めていって欲しいと思う。

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