なるべく査読を通る前の論文は紹介しないことを心がけているが、今日は別だ。新型コロナウイルス禍の中でも、独自の研究成果を着々と発表しているエピジェネティックスの2人の大御所、Rudolf JaenischとRichard Youngが、なんとCovid-19にも一言とばかりに論文をまとめたのだ。今は査読前だが、これまでの実績からデータは信頼できるし、それ以上に2人の意思を拒否できるレフリーもそうはいまい。結局ほとんど変更なしにどこかに掲載されること間違い無い。
しかし「わざわざ、covid-19にお出まして頂かなくともいいのに」、と論文を読んでみると、大御所たちと若者の会話の中でふっと湧き上がった疑問を、ちょっと確かめてみようかと腰をあげた、と、言った感じの軽い論文なのがわかった。しかしタイトル「SARS-CoV-2 RNA reverse-transcribed and integrated into the human genome(SARS-CoV-2 RNAは逆転写されてヒトのゲノムに統合される)」は人騒がせだ。大御所たちがニンマリしているのがわかる。
そこで仲野徹さんを真似して、関西弁、プラトン対話編形式で論文を紹介することにした。
プラトン:世間では、PCRが陰性になったのに、また感染する人がいると騒いでるで。
弟子:またPCR陽性になっても、人にはうつらんらしいです。
プラトン:しかしcovid-19の完成度は結構高いし、そう簡単に中途半端なウイルスができるとは考えられんな。ひょっとしたら、RNAウイルスも、ゲノムに飛び込むのと違うか?それなら不完全な配列ができてPCRで引っかかるかもしれん。
弟子:ホンマなら、コロナが感染した細胞のデータベースでわかるかもしれません。
プラトン:ええアイデアや。ウイルスとホストのゲノムがキメラになったRNAが見つかるかデータベースで調べてみて。
弟子:先生、結構みつかります。感染した培養細胞以外でも、患者さんの肺の洗浄液では結構見つかります。気づいとらんだけです。
プラトン:ほな、RNA 逆転写酵素が高い細胞にCov-2を感染させて、ゲノムに飛び込むか調べてみて。発現RNAの多いNタンパク質配列で調べるだけでエエし。
弟子:先生、エイズウイルスの逆転写酵素でも、LINEトランスポゾンの逆転写酵素でも、細胞に発現させると、ゲノムからウイルス配列を検出できます。
プラトン:予想通りや。ホナ、ちょっとしんどい実験やけど、FISHでほんまにNタンパク質配列がゲノムにあるか確かめて。
弟子:先生、なんと35%の細胞のゲノムがN配列を持ってます。
プラトン:予想通りや。これほど高い確率ちゅうことは、コロナに感染するとLINE-1が活性化して、普通よりはゲノムに飛び込みやすいのかもしれんな。もう一回コロナ感染細胞データベースで見てみて。
弟子:先生、予想通りです。感染するとLINE-1が増えてます。ホンマか自分でも調べてみます。これも気づいとらんだけです。
プラトン:頼むわ
弟子:先生、確認できました。感染させると、LINE-1も上がり、ウイルスがゲノムの中にも飛び込んでます。多分LINE−1の逆転写酵素が働いたみたいです。気になってついでにやってみたのですが、サイトカインが出ているいろんな細胞の培養液でもLINE−1が出てます。結局、細胞にストレスがかかればLINE-1がでて、ウイルスがゲノムに飛び込めるみたいです。
プラトン:なかなかエエ実験や。これやったら論文にできるな。
弟子:ありがとうございます。
ソクラテス:要するにコロナが感染して、LINE−1が上がり、その逆転写酵素でウイルスの一部がDNAになってゲノムに入るちゅうことですな。チョット恐ろしい気もするけど、別に完全なウイルスがゲノムに入るわけとは違うし、問題ないやろ。ただ、感染したあと細胞が生き残ったら、T細胞免疫を刺激して、免疫記憶ができるかもしれんな。要するにクリスパーみたいな仕組みが人間にもあって、ウイルスから守ってくれてるちゅうことやな。おもろい。
最後のソクラテスは私の脚色です。