最近では脈波だけでなく、酸素飽和度から心電図まで測定可能になったアップルウォッチ などのスマートウォッチの課題は、そこで集められた結果を、個人の自己満足ではなく、医学医療に使ってもらうための仕組み作りだろう。
今日紹介するパーキンソン病の日常の症状を記録して臨床に使うためのアプリの開発についての論文は、最初から医師と患者をつなぐ目的がしっかりしている開発研究で、その有用性を評価されて2月3日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Smartwatch inertial sensors continuously monitor real-world motor fluctuations in Parkinson’s disease(スマートウォッチの慣性センサーを用いてパーキンソン病患者さんの日常の運動変化を持続的に記録する)」だ。
論文ではスマートウォッチと書かれているが、実際に用いられたのはアップルウォッチだ。残念ながらアプリ開発の詳細についてはわからないが、アップルウォッチが備えているモーションセンサーをインプットとして、動いていない時の腕の震えと、意図しない大きなての動き(dyskinesia)を連続的に記録することをまず可能にした。
震えについては、0.1cmの振幅から2cmの振幅まで、振幅を正確に検出記録できる。この感度の高さには、驚いてしまう。これにより、運動していない時ではあるが、1日を通して震えの量と質を調べることができる。例えば、朝起きたばかりだと、小さな振幅の震えが多いが、夜にかけて大きな振幅の震えが増える。また、お薬を飲むと、震えは止まるが、お薬の効果がなくなると震えが高まるといった変化をほぼ捉えられる。
一方、薬剤の副作用として発生することが知られるdyskinesiaは、お薬と服用したあと30分ごろから回数が増え、お薬の効果がなくなると増えてくることがわかる。
あとは、このデータを実際の診療に生かせるかを調べ、教科書的な、薬剤と震え、dyskinesiaの関係から、薬剤の効きが悪くなり、症状が悪化してきたことを捉え、お薬のスケジュールを変えて成功した例を示している。また、この方法で記録することで、これまで専門家でも見落としてきた変化が捉えられるかについても検討し、専門家もこの記録を参考にしたほうが、より適切な判断が可能になり、それに合わせて治療も変えることができることも示している。
結果は以上で、今後仕事をしたり、歩いたりしている時間の正確な記録が可能になると、運動の質と合わせてより詳しい診断が可能になるだろう。パーキンソン病を抱えながら仕事をされている人も多いことから、様々な危険性を察知するためにも重要だろう。しかし今のままでも、普通なら自覚症状として簡単に済ませていた症状の記録が可能になることで、よりキメの細かい診断治療が可能になると期待できる。我が国の患者さんにも早く使える様にしてほしい。
いずれにせよ重要なことは、医者と患者のどちらもハッピーになる様な工夫をすることで、これが可能になると、技術的には小さなイノベーションでも、医療にとっては大きなイノベーションになる可能性は高い。