腸内細菌叢について、3人の医師とともに行うzoom勉強会の2回目を3月1日夜7時から予定しており、いつものジャーナルクラブとしてYoutubeでも配信予定で(https://www.youtube.com/watch?v=Ht9FD38lS74 )、最近紹介した細菌叢に関する論文を再度取り上げて読み直しながら、その背景にある科学について議論するつもりだ。もしzoom に直接参加したい方がおられたら、アカウントをお送りする。ただ、内容は少し専門的になる。とはいえ、テレビコマーシャルでお馴染みの「免疫力」「善玉菌・悪玉菌」といった、わかりやすくするために作られた言葉が撒き散らす間違った概念を専門家として正していくことは重要だと思い、勉強会を企画している。
今回は細菌叢の発達について考える予定で、論文は既に用意しているが、新たに加えたいと思う完全ではないにせよチャレンジ精神がよくわかる論文が、ハーバード大学とマンチェスター大学から2月24日、Natureにオンライン出版された。タイトルは「Multi-kingdom ecological drivers of microbiota assembly in preterm infants(早産児の腸内細菌叢の集合を決める複数の界からなる生態系ドライバ)」だ。
腸内細菌叢の複雑性は、もともと何千もの細菌種が存在するというだけでなく、それがホスト側の因子と、毎日変化する環境変化の影響を受けていることで、ある時間を切り取ったとして、よほどのことがない限りその意味を理解できないことだ。
この研究では、従来の細菌叢測定に定量的要素が欠如していること、そして細菌種の比率だけで議論が行われていることの問題を改めるため、彼らがMulti-Kingdom Spike Sequencingと名付けた、サンプルに定量化されたバクテリア、古細菌、カビを加えて細菌叢ゲノムを調べることで、加えたレファレンスの量を指標に、各種細菌の種類だけでなく、量までも同時に定量できる方法を開発し、これまで比率だけを問題にした細菌叢研究の問題点を明らかにしようとしている。
原理的にもなぜこのような定量性のある方法が普及しなかったのか不思議なぐらいだが、結果は明確で、これまで比率だけで判断されていた結果が、絶対数から測定した場合と大きな乖離があり、いかに問題があるかを明らかにしている。
また、生後1ヶ月ぐらいは、カンディダなどの真菌類も細菌叢の成長に重要な要素になることを示している。
この方法で細菌叢の発達に関わる様々な要素を分析すると、一番大きいのは最初にどの菌が優勢であったかで、次に時間、そして食物摂取が来ることがわかる。
細菌叢の発達が遅れるとされている帝王切開で生まれた子供の腸でも、細菌の消長が繰り返され、個人差は大きいが、経膣出産時と比べたとき、決定的な違いが見つかるというわけではないこともよくわかった。
この研究では、それぞれの細菌種(大きな括りなので生物学的には界と呼ばれるレベル)間の相互作用を、得られた結果から推定し、例えばstaphylococcusはKlebsiellaの増殖を高め、逆にKlebusielaはStaphylococcusを抑えるなどの関係も導き出している。そして、それぞれの関係が本当かどうか、マウスにそれぞれの菌を組み合わせて移植して、相関関係を確認している。すなわち、将来最初の組み合わせが絶対数と共に測定できれば、かなり細菌叢の発達や、それを助けるための介入法が予測できるという話になる。
以上が結果で、高々4−5種類の関係で本当に細菌叢を理解できるかについては問題があると思うが、それでも現象論に埋もれてあがいている細菌叢研究を、より科学的にしようとする強い意志が感じられる研究だと思う。次回のジャーナルクラブにはぜひ取り上げる。