最近コウモリの海馬に留置電極を埋め込み、自由に飛行しているときの脳活動を、無線で拾う研究をよく目にするようになった。マウスやラットで行われる迷路を使った強制的に記憶させた場所記録と異なり、餌を摂るという行動は一緒でも、そのための経路は自由な飛行なので、コウモリならではの結果が得られている。すなわち、飛行中に場所に反応して活動する神経のフレキシビリティーが低い。
今日紹介するカリフォルニア大学バークレイ校からの論文は、電極を埋め込んだこれまでの研究結果をさらに確かめるため、なんとカルシウムイメージングで見られる海馬神経活動を拾うことが出来る顕微鏡システムを脳に装着して場所細胞活動パターンを調べた研究で、3月30日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「A stable hippocampal code in freely flying bats(自由に飛行するコウモリの安定的な海馬コード)」だ。
しかし、技術の進歩には驚かされる。ミニ顕微鏡と書かれているが、電池、レンズ、センサー、そして送信装置まで組み込んだ機器を装着しても、コウモリが飛行できるだけのサイズにまとめている。これが出来るだけで、結果はどうでも良いと思ってしまう。
実際の実験は、5.2mx5.6mの広さで、2.5mの高さのある部屋の特定の場所に餌を置いて、自由に飛行させて餌を得る行動を観察する。コウモリは餌を摂るために2−3種類の決まった飛行パターンを示す。ただ、この飛行パターンは個体によって異なる。すなわち、餌取りに、最初から脳内で構造化された飛行パターンに従っていると言える。
実際、特定の飛行パターンをとるときの海馬の興奮パターンは極めて一定で、調べる日が変わってもほぼ同じ領域が同じように興奮する。その意味で、測定する日が変わると興奮パターンが再調整されるマウスとはかなり異なる。
しかし、飛行を詳しく記録すると、当然軌跡は一定の範囲の中を揺れる。特に餌から離れた場所でカーブするときに、軌跡の揺らぎが見られる。この場合、神経細胞の興奮パターンも、軌跡の揺らぎに応じて変化している。すなわち、軌跡と活動する神経の相関が極めて高い。
最後に、光の有り無しで同じ課題を行わせ、感覚インプットが異なる場合に場所細胞の興奮パターンが影響されるかを調べている。光が当たっていると、軌跡が複雑になるため、解析が難しくなるのだが、両方の条件で示した同じ軌跡だけを拾い出して、その神経活動を調べると、ほぼ一致していることがわかった。
ただ同じ軌跡をとっても、光があるときの飛行時と、ないときの飛行時を比べると、同じ条件よりは神経興奮パターンと軌跡の揺らぎがより大きくなっていることもわかる。すなわち、感覚インプットが神経と飛行との一致のチューニングに働いており、光のない時には、より脳のプランに従って飛行しているのがわかる。
以上、基本的にはマウスの迷路実験とは異なり、脳内で構造化された飛行プランに沿ってコウモリの飛行は行われていることがわかる。勿論マウスも迷路から放して自由に餌探しを行う行動が許されれば、同じ結果になるのかもしれない。
しかし、顕微鏡を乗せて飛行すること自体が驚きで、そちらの揺れの方が気になる。