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4月7日 ガンの分子標的薬治療をどこまで根治に近づけられるか(3月30日 Science Translational Medicine 掲載論文)

2022年4月7日
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ガンの分子標的薬の始まりは、おそらく慢性骨髄性白血病に対するチロシンキナーゼ阻害剤の登場で、その効果は驚異的なものだった。この印象が強かったため、その後多くの分子標的薬が開発されたとき、多くのガンを長期的に制御できるのではと期待したが、CML以外はほとんどのケースで再発を防ぐことが出来ないことが明らかになった。

これを克服するために、2種類の分子標的薬を使って、再発を抑える試みが進んでいる。今日紹介するデューク大学からの論文はこのような試みの一つで、様々なキナーゼの変異がガンのドライバーになったケースで、この分子機能を抑える標的薬とともに、DNA切断修復を抑えることでより高い効果が得られることを示した研究で3月30日号Science Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Small-molecule targeted therapies induce dependence on DNA double-strand break repair in residual tumor cells(小分子化合物による分子標的治療は、治療抵抗性細胞のDNA二重鎖切断修復依存性を誘導する)」だ。

結論から言うと、EGFR阻害剤のゲフィチニブのような分子標的阻害剤は、DNA二重鎖切断(DSB)を誘導するので、これを修復する分子が誘導され、細胞が生存する。従って、この修復機構を同時に壊すと、根治に近いレベルにガンを抑制できるという話だ。

これを読んだとき、これまで同じような研究が本当になかったのかと思ったが、それぐらい、誰でも予想できそうな話だ。ただ、分子標的薬でDSBが高まることはつい最近わかってきたようだ。

この研究では、キナーゼ変異により増殖する様々なガン細胞をキナーゼ阻害剤で処理するとほぼ全てでDSBが誘導されることをまず確認し、さらにこれらの治療によりDSBを修復するためATM分子の発現が上昇することを確認している。

次に、ゲフィチニブでEGFR変異を抑えるモデル系で、ATM誘導に至るプロセスを解析し、EGFR抑制により、アポトーシス抑制因子BIMが活性化され、続いてカスパーゼが活性化、ATM活性化と続く経路を細胞レベルで特定している。

以上の結果から、分子標的薬による細胞増殖抑制は、DSBにより細胞死を誘導するが、細胞側では細胞死を防ぐためDSB修復機構を上昇させるため、細胞は増殖が止まっても消滅せず、再発につながることを示している。

従って、分子標的薬とATMなどのDSB修復分子を同時に阻害してやると、より強いガン増殖抑制を期待できる。これを確かめる実験で、ATM阻害剤やPARP阻害剤を併用することで、試験管内でのガン増殖をより強く抑制できることを示している。

最後は、マウスに移植したガンで、2剤併用が同じようにガンの増殖を抑えることを示した上で、人間でも同じ可能性があるのか調べ、

1)分子標的薬に抵抗性を獲得した細胞ではATMの発現が高まっていること。

2)ATMの遺伝子欠損を持つガンでは、分子標的薬治療から再発までの時間が倍以上長いこと、

などを明らかにしている。

PARP阻害剤は既に認可されておりすぐ治験に入れると思うが、実験的には効果がATM阻害剤より低い。一方、ATM阻害剤は治験が始まったところで、実際の臨床までには時間がかかりそうだ。しかし、この研究は治験研究を後押しすることは間違いない。

では、両剤併用で根治が可能かだが、ATM変異を持つガンの分子標的薬治療で、確かに再発を抑える期間は延長しても、再発は完全に抑えられないようなので、分子標的薬による根治については、さらに複雑なプロトコルが必要になるように感じる。

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