ドゥシャンヌ型筋ジストロフィーはジストロフィン遺伝子の変異により、筋肉が徐々に変性することで起こるため、根本的な治療法はジストロフィン分子の発現を回復させることだ。このHPで紹介したエクソンスキップ遺伝子治療(https://aasj.jp/news/watch/7160)など、臨床試験も始まっており、結果が待たれる。
一方で、筋肉変性を遅らせる治療も行われており、主に炎症を抑える目的でステロイドホルモンを用いると、病気の進行を2.8〜8年抑えられることも示されている(https://aasj.jp/news/watch/7744)。他にも、ウロリチンなども動物実験では効果が示されている(https://aasj.jp/news/watch/15383)。
今日紹介するカリフォルニア大学デービス校を中心にした研究グループからの論文は、Capricor Therapeutics が開発したCAP-1002を用いて炎症や線維化を抑え、重症の筋ジストロフィーの患者さんの腕や心臓の機能を維持して自立を図ることを目的とした治験研究で、3月号の The Lancet に掲載されたので、少し遅れたが紹介する。タイトルは「Repeated intravenous cardiosphere-derived cell therapy in late-stage Duchenne muscular dystrophy (HOPE-2):a multicentre, randomised, double-blind, placebocontrolled, phase 2 trial(Cadiosphere由来細胞を繰り返し静脈注射する末期のドゥシャンヌ型筋ジストロフィー治療(HOPE2):二重盲験多無作為化プラセボ対照施設治験)」だ。
CAP-1002 は2人のヒト心臓から Capricor Therapeutics 社が培養株として樹立した細胞治療剤だが、心臓細胞を再生させるのではなく、この細胞がエクソゾームを通して吐き出すmiRNAを用いて、炎症や線維化を抑える効果を利用している。おそらく筋肉に親和性があるため、筋肉や心臓での細胞変性を遅らせる効果がある。
この研究はこの治療法の最終段階治験で、既に歩けなくなった患者さんの腕の筋肉機能低下を遅らせるとともに、心筋の変性を抑えることを目指している。
最終的に20人の患者さんを無作為化し、12人を偽薬、8人をCAP-1002 群にわけ、3ヶ月に1回細胞を静脈注射し、12ヶ月後の病気の進行を PUC1.2 と呼ばれている方法で調べている。
数値で表されているので、実感については私も評価できないが、スタート時点で80点だった機能が、対照群では29.3に低下するが、CAP-1002 群では65.5にとどまり、71%進行を遅らせることが出来ている。一方さらに重要な心臓機能では、ほぼ100%進行を遅らせることが出来たという結果だ。
注射しているのは他人の細胞になるので、高率にアレルギー反応が見られるが、最終的に治療中断を余儀なくされたのは1例にとどまっている。
以上が結果で、高い効果が期待できるという結論になると思う。
正直なところ、エクソゾーム、miRNAといった原理を聞くと本当にうまくいくのかと疑いたくなるのだが、最終治験にまで持ってきた努力が報われた結果だと言える。このグループはおそらく遺伝子治療の対象にはなかなかならないことを考えると、期待は大きい。