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4月13日 統合失調症発症を後押しする遺伝子変異を探す(4月8日 Nature オンライン掲載論文)

2022年4月13日
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全ゲノムにわたって、遺伝子多型と病気との相関を調べる手法が開発されて、これまで多くの研究が発表されてきたが、この試みは終わることがなさそうだ。というのも、基本的に統計学的情報処理が必要な場合、より精密な多型のマッピングには、できるだけ多くの対象を調べる必要があり、最初に行われた研究と比べると、10倍、100倍の対象者を集めた研究が始まり、新しいフェーズに入った印象がある。

対象者が増えることで、これまで発見が難しかった分子機能変化に直結する rare variant と呼ばれる、頻度が少ない変異も見つかってくる。なかでも、自閉症の科学で紹介したように(https://aasj.jp/news/autism-science/15576)、両親、兄弟には存在せず、自閉症を発症した場合にのみ存在するde novo変異が続々見つかり、発症メカニズムの理解に一歩近づけたのではと期待している。

今日紹介する、米国MITの Broad 研究所を中心にしたチームが4月8日 Nature にオンライン発表した論文では、統合失調症について、分子の機能異常を誘導し、病気発症に強く関わる rare variant の特定を試み、10種類の変異を発見したという研究だ。タイトルは「 Rare coding variants in ten genes confer substantial risk for schizophrenia (10個の遺伝子の希なコーディング領域変異が統合失調症の重要なリスクになる)」だ。

同じグループは、この論文と一緒に、統合失調症のコモンバリアントを新しく定義し直す研究を行い、282個の多型を特定している。これらのコモンバリアントは、一種の統合失調症発症に必要な受け皿のようなもので、発症への寄与はたかだか24%ぐらいと考えられる。この上に、エピジェネティックス、個人史などの条件が積み重なるが、この研究では、コモンバリアントだけでなく、より強いリスク因子となる、分子機能の変化につながる遺伝子変異を特定しようとして、なんと3万人近い患者さんのエクソーム配列を決定し、この中から、統合失調症に関わる可能性が高い遺伝子を、様々な統計学的手法とデータベースを組みあわせてリストしている。

エクソーム検査で分子機能が喪失する変異は、実際には何百も発見されるが、 denovo 変異も含めていくつかの基準を組みあわせて、統合失調症に相関する変異を探すと、まず52個まで絞ることが出来る。さらにその中から、発病リスクがオッズ比で3−50倍という10個の遺伝子と、これほどではないが相関がはっきりした32種類の変異が特定された。しかし、3万人の患者さんからようやく10個かと思うと、途方もない作業であるのがわかる。

統合失調症発症に強く関わると考えられる10個の遺伝子について特徴をまとめると、

1)変異はフレームシフトなどで、完全に機能を喪失させる遺伝子である。

2)これまで rare variant として特定されていた SETD1A が含まれている。

3)GRIN2A などシナプス機能、特にシナプ後シグナルに直接関わる遺伝子が含まれている。

4)これらの遺伝子の一部は発生期に発現がつよく、統合失調症の受け皿形成に関わると考えられるが、多くは生後の発生期で発現が上昇する。

5)コモンバリアントの多型部位と重なる変異も存在する。

6)多くは、神経発達異常で見られる変異とも重なる。

などが明らかになった。この研究では明らかになった変異の機能を調べるところまで入っていないが、10個、さらに32個でも変異マウスを作成したりする機能研究が可能な範囲に来ている。勿論まだまだ道は険しいが、着実に理解が進んできたという確信が得られた。

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