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4月11日 脳構造データベースを統合データベースに発展させる(4月5日 Nature Neuroscience オンライン掲載論文)

2022年4月11日
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昨日は脳の構造の特徴を自動的に数値化して、人間の脳の成長から老化までの平均軌跡を割り出すとともに、最終的には誰でもが利用できる検査にするための取り組みを紹介した。今後、ゲノムや、病気、あるいは性格、運動や感覚能力、などなど様々な機能と相関させていくことで初めてこの方法の真価が定まっていくのだろう。

確かに素晴らしいプラットフォームが出来ると期待されるが、ほとんどの研究者はそこまで待てず、独自の方法で脳構造と様々なパラメーターとの相関の研究を進めている。

今日最初に紹介するオランダ・ユトレヒト大学を中心に、なんと163の研究施設が集まって発表した論文は、人間の一生で起こる脳構造の変化とゲノムとを相関させた研究で、脳の構造変化を定義できれば、構造に関わる遺伝子、そして今度は遺伝子を手がかりに、行動変化まで相関させていける可能性を示している。論文のタイトルは「Genetic variants associated with longitudinal changes in brain structure across the lifespan(一生涯を通して起こる脳変化と相関する遺伝的変異)」で、4月5日 Nature Neuroscienceにオンライン掲載された。

昨日紹介した論文と同じで、脳のMRI画像を経時的に様々な年齢層で撮影する大規模コホート研究参加者のデータを使っているのだが、この研究ではゲノム解析との相関を調べることに焦点が当てられ、脳構造については施設間で同じ方法を共有して、データをとっており、世界共通のデータ処理方法開発という目的はない。

ただ、脳各部のサイズ、及び皮質の白質など、15種類のパラメーターを設定し、各年齢層で異なる時点で測定を行い、年齢とは関係なく検出される脳各部の構造変化に加えて、年齢による変化をパラメーターとして抽出できる。

脳構造の経時変化だが、昨日紹介した結果と特に変わるところはない。ただ、脳の各部について調べているので、年齢とともに減少が激しいのが、海馬、続いて視床と小脳ということもわかる。

最終的に、各部のサイズやサイズ変化と相関する多型を15種類発見している。このうち年齢とは無関係に脳構造と相関する遺伝子は、脳発生に関わる遺伝子と考えられるが、G蛋白質共有受容体やカドヘリンが含まれている。

一方、年齢により起こる変化の大きさの多様性と相関する遺伝子は、APOEを筆頭に、アルツハイマー病やうつ病などの精神疾患に関わる遺伝子がリストされるが、構造との相関が明らかにされたのはこの研究が初めてという多型が多い。これらの遺伝子セットの中には、黒質や中脳核の発生に関わる遺伝子が含まれるのも、パーキンソン症状などを考えると納得の結果だ。

特に注目されるのが、構造変化の仕方の多様性に関わる遺伝子が、うつ病、統合失調症、認知症、不眠だけではく、身長、BMIや喫煙歴などとも相関する遺伝子と重なる点で、このような重なりを基盤にして、構造、分子機能、そして行動まで相関を調べる研究へと発展すると思う。

このような可能性を先取りしたのが英国バーミンガム大学を中心にしたグループが3月30日、JAMA Psychiatryにオンライン発表した論文で、炎症、統合失調症、そして脳構造の3者を関連させようとする研究で、タイトルは「Inflammation and Brain Structure in Schizophrenia and Other Neuropsychiatric Disorders A Mendelian Randomization Study (統合失調症及び他の神経変性疾患における、炎症と脳構造の関与。 メンデル無作為化研究)

元々神経変性疾患だけでなく、統合失調症でも炎症が一つの要因になっていることが知られている。そこで、この研究では炎症マーカーとしてIL6シグナルを選び、UKバイオバンクでMRI画像が得られる対象者でIL-6シグナルを調べることで、病気、脳構造、そして炎症を結びつけようとしている。

結果だが、20000人レベルの脳画像を、IL6レベルと相関する多型と比べ、多くのIL6と相関するゲノム多型が、構造変化とも関わることを特定している。他のサイトカインでも同じ検索を行っているが、これほど多くの多型が認められるのはIL6だけになっている。

このゲノム多型を仲立ちとして、IL6レベルを脳各領域と相関させると、実に多くの領域がIL6の量と、正あるいは負の相関を示す。大脳皮質については、IL6と負の相関を示す。

次にIL6のシグナルレベルに関わる遺伝子が実際に対応する脳領域で発現していることを、脳の遺伝子発現データベースから確認し、またこれら多型に関わる遺伝子がIL6と相関することも確認している。

以上のことから、IL6レベルに関わる遺伝子が、様々な領域の脳構造を決めていると結論している。ただ、年齢別に相関を調べてはいないので、IL6のレベルが何時脳構造に影響しているのかはわからない。

おそらく、発達期などで何らかの原因で炎症が誘導されると、その程度が遺伝的に決定され、その結果として脳の構造変化が起こるというシナリオになる。実際、IL6レベルに関わり、中側頭回で発現が強い遺伝子は、てんかんや、認知症、統合失調症と相関している。

以上のように、構造と遺伝子の相関、そして遺伝子と病気の相関から構造と病気の相関を推察する、あるいは特定のサイトカインシグナルと遺伝子の相関と、遺伝子と脳構造の関わりから、サイトカインと脳構造の相関を特定し、さらに病気にまで拡大する、2つの論文を紹介した。

この先には、この2日の研究を合わせると、脳構造がわかると、病気のリスクとメカニズムが誰でも知ることが出来るという目標を目指して研究が行われているのがわかる。

カテゴリ:論文ウォッチ
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