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4月19日 体細胞突然変異は寿命のバロメーター(4月13日 Nature オンライン掲載論文)

2022年4月19日
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昨日は気管上皮細胞に蓄積する突然変異を single cell レベルの全ゲノム配列決定法を用いて調べる研究を紹介した。単一細胞の突然変異を特定できるレベルまで、極微量DNA解析法が進展してきていることを示しているが、対象にする細胞数が多くなければ、単一細胞にこだわらなくても、突然変異の蓄積を調べる方法がある。英国サンガー研究所で開発された方法で、固定された組織から特定の細胞片を切り出して、そこから作成したゲノムライブラリーの配列から、ゲノムあたりの突然変位数を調べる方法だ(Nature Protocols vol16, 841,2021)。この方法だと、DNA が分解していないフレッシュな組織をすぐ固定することが出来れば、いつでもゲノム解析を行うことが出来、今後研究対象を拡大するのに役立つ。

今日紹介するのは、同じサンガー研究所からの論文で、この方法を使って様々な哺乳動物腸管のクリプト組織の突然変異を測定し、突然変異の起こりやすさと寿命や動物のサイズとの相関を調べた研究で4月13日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Somatic mutation rates scale with lifespan across mammals(体細胞突然変異発生率が哺乳動物の寿命と対応する)」だ。

この研究では16種の哺乳動物について、死の直後大腸バイオプシーを行い、フレッシュな組織を固定保存した後、大腸の一個のクリプト組織をレーザーで切り出し、ゲノム解析に供している。一つのクリプトは、多くの場合一つのクローン由来と考えられるので、変異が薄まらず検出することが出来る。

16種類の哺乳動物には、定番のヒトやマウスに加えて、キリン、ライオン、トラ、イルカ、キツネザルなど、フレッシュな標本採取に苦労したと思われる動物が含まれている。おそらく、様々なところに網を張り巡らせて、動物が死亡した直後の穿刺針によるサンプリングを行っていると想像する。さらに、この中にはガンが起こりにくい動物として有名で、最近熊本大学の三浦さんの研究で、その原因が自然炎症メカニズムの欠損にあることが明らかになったハダカデバネズミも含まれている。

サンプリングと言い、方法開発と言い、大変な努力の結果の論文だが、結果は極めてシンプルだ。

1)異なる年齢でサンプリングが出来た、ヒト、犬、マウス、ハダカデバネズミでの突然変異蓄積は、昨日の論文と同じで、完全に年齢と比例する。

2)突然変異の起こり方は、ほとんどの種で同じだが、マウスやフェレットのように活性酸素によるダメージの多い動物がいる。またこのような動物は突然変異の蓄積率が高い。

3)これまで突然変異修復力と動物の大きさに相関があると考えられてきたが、全く存在しない。

4)一方、突然変異蓄積率と寿命はほぼ完全な負の相関が見られる。すなわち、突然変異が起こりやすいほど寿命が短い。

以上が結果で、特に4番目の結果は老化を考える上で極めて重要だと思う。実際データを見ていると、突然変異が2000から4000になったぐらいで、ほとんどの動物が死亡するという現実が示されている。

これまで突然変異は、ガンの発生を促すことで寿命を縮めるという意見もあったが、ハダカデバネズミもガンになりにくくても、突然変異は蓄積し、寿命を迎える。何故マウスと比べ、変異蓄積率が低いのかは研究が必要だが、この低い突然変異率が長寿をもたらしている。しかし、変異が一定のレベルに達すると、もはや戻ることは出来ない。

変異の蓄積により、多くの幹細胞システムで、クローン増殖が起こることが示されているが、おそらくこのような細胞に置き換わってしまうことで、システムの維持が不可能になるのだろう。

人間社会で、多様性を維持できず、特定の集団が優勢になると、組織が維持できなくなるのと同じだ。

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