2022年2月8日
これまで紹介してきたように、自閉症スペクトラム(ASD)は遺伝性の強い状態だが、特定の共通遺伝子が原因というわけでは無く、比較的一般的に見られるゲノム上の様々な違いが(コモンバリアント)集まったところに、頻度は低いがASD発症の寄与度の高い違い(レアバリアント)が相互作用して起こるのではと考えられている。このような複雑な違いにより、脳ネットワーク形成の変化が誘導されるのだが、細胞レベルで見てみると、前回の自閉症の科学50で紹介したように(https://aasj.jp/news/autism-science/18807 )抑制性の介在神経が最も影響を受けるのではと考えられるようになった。
今日紹介するハーバード大学からの論文は、ASDと相関する遺伝子の機能をiPSを用いて調べたところ、GABA作動性介在神経への影響が一番大きいことを示した研究で、2月8日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Autism genes converge on asynchronous development of shared neuron classes(自閉症と相関する遺伝子には神経細胞の発生時間が同調できないという共通の異常に関わる)」だ。
このHP では、ES細胞やiPS細胞を用いたASD研究については紹介してきた(https://aasj.jp/news/autism-science/11091 )。その中でこの研究の重要性を考えてみると、2つ重要なポイントがある。
まず、調べる遺伝子として、レアバリアントとしてASD発症への寄与が特定されている3種類の遺伝子、ヒストンのメチル化に関わる遺伝子SUV420H1、クロマチン調節を担うSWI/SNF複合体の中核分子ARID1B、そしてやはりクロマチン調節に関わる遺伝子CHD8、といずれもクロマチン調節に関わる遺伝子を選んでいる点が面白い。
さらに、それぞれの遺伝子の神経発生への作用を、同じiPS細胞に変異を導入することで、遺伝背景をそろえた上で調べていること、また同じ実験を異なるiPS細胞でも行い、遺伝子背景の影響についても調べている点が重要だ。
結果としては、3種類の遺伝子でほぼ同じなので、SUV420H1について述べる。iPS細胞の片方の遺伝子を欠損させ、脳オルガノイド培養を行い、6ヶ月以上培養している。そして、遺伝子発現が低下することで、GABA抑制性神経が早期に出現すること、そしてオルガノイドに占める割合も、iPSによっては50%を超すまでになる。この結果は遺伝背景の異なるiPSでも同じで、GABA作動精神系の早期の分化が、この遺伝子の特徴になる。
ただ、こうして早期の分化があるからと言って、GABA作動性抑制神経がオルガノイド内で持続するわけではない。iPSの中には、培養が半年を超えてもGABA神経優位を示すものもあるが、他のiPSでは後期になるとGABA神経の数はコントロールと同じになる。
オルガノイド培養では、笹井さんが示したように神経の層構造が形成されるが、この下層に存在する投射神経の分化も促進されることが観察される。
これらの異常は、オルガノイド内での神経興奮に反映され、コントロールに比して刺激反応性が低下しており、成熟が進んでいることが分かる。
他の遺伝子についても全く同じ結果が得られているが、オルガノイド全体の遺伝子発現の変化は、それぞれの遺伝子で異なる。
結果は以上で、
1)レアバリアントに対応する3種類の遺伝子発現を低下させると、異なるメカニズムではあっても、最終的にはGABA神経の早い増殖と分化とともに、deep layerの投射ニューロンの早い分化に収束する。
2)iPSを変えて遺伝子背景を変えると、同じ遺伝子変異でも異常の程度が大きくばらつく。
が結論になる。
ASDの場合、発達後には逆に介在神経活性が低下していることが一般に知られていることから、試験管内の結果とは一見逆になっており、今後この点についての研究が進むと思える。
ただ、バックグラウンドを変えてレアバリアント変異を研究できることは、まさにコモンバリアントとレアバリアントの相互作用を研究できると言うことで、この可能性が示されたことは重要だと思う。
2022年2月7日
生まれたときからPCが存在して、現象の背景にあるルールやアルゴリズムを直感に頼らず調べることに慣れている新しい世代を、本当にうらやましく思う。実際、この新しい世代を前提として、世界中のデータが急速に積み重なってきた。どの分野で仕事をしていても、PCを駆使して自分の疑問を調べることが出来る。
これを助けてくれるデータベースの中でも、UKバイオバンクは、50万人という数以上に、人間について包括的な情報が得られるよう計画されているのに驚く。その中の重要な項目が、脳の構造と領域間の神経結合についてのMRIを用いた計測で、今や測定された個人の数は32488人に達している。
政党支持のような行動に関わる遺伝子多型すら調べられる時代だ(https://www.pnas.org/content/109/21/8026 )。これだけ多数の、しかも精細な脳構造の比較データがあれば、当然この構造を決める遺伝背景を決めたくなる。
今日紹介するカリフォルニア大学サンディエゴ校からの論文は、UKバイオバンクをはじめとする様々なデータベースと、様々な解析アプリケーションを用いて、脳各皮質部分の広さと厚さを、ゲノムの多型と相関させた研究で、ここまでのことが出来るようになったのかと感心する論文だ。タイトルは「Discovery of genomic loci of the human cerebral cortex using genetically informed brain atlases(人間の脳皮質を支配する遺伝的領域を遺伝情報を加えた脳アトラスから探索する)」で、2月4日号Scienceに掲載された。
皮質の大きさは、脳機能ユニットであるカラムの数を反映し、皮質の厚さは細胞分化を反映すると考えられている。そこでUKバイオバンクサンプル3万人について、脳各部位の皮質の広さ、厚さを比べ、それぞれの数値と相関する遺伝子変異を探索し、最終的にどれかの形質と相関する234種類の遺伝子多型を特定している。この多型のなんと95%はノンコーディング領域にあり、脳の構造の差が、遺伝子発現の差により決められていることが想像できる。
この研究ではもっぱら構造との関係を調べており、回路形成や細胞構成とは直接関係ない。それでも、全体の皮質領域の広さに相関する遺伝子は、すでに注意障害(ADHD)と相関することが報告されている。また、言語野を含む脳領域の大きさに関わる多型は、自閉症スペクトラムとも相関しており、構造の重要性も示された。
おそらく一番重要な所見は、それぞれの構造に最も重要なインパクトを持つ単独の多型が特定されたことで、これらの多くはWnt, TCF, FGF, hedgehog など、発生に必須のシグナルに関わる分子の発現調節を通して、脳構造を決めていることが分かる。
また、これらの遺伝子多型の進化を調べると、言語野の厚さに関わる多型はホモサピエンス特異的であることも予想される。このような機能的結果は、他の方法で検証する必要があるが、このようなアトラス作成の重要性を示している。
最後に、それぞれの領域に関わる多型領域が機能している細胞との相関も調べており、ニューロンだけで無く、他の細胞もこの構造決定に強く相関していることを示している。
最後に、このような遺伝多型、細胞、構造を相関させて何が分かるのかを示す例として、granulinタンパク質の発現調節と、Frizzle2遺伝子の発現調節によって、前頭皮質の領域の拡大とともに厚さが変化するモデルを提供し、このアトラスの有用性について示している。脳の構造について自分自身の疑問を持っている人たちには確かに役に立ちそうだ。
もちろんアトラスが出来たからと言って全てがクリアになるというものではない。それぞれの研究者が持つ疑問を、このアトラスを手がかりに繰り返し調べることでアトラスは完成している。とはいえ、これだけのことが因フォーマティックスだけで行えるというのは、PC音痴には本当にうらやましい限りだ。
2022年2月6日
現役時代、血管発生は教室の重要な研究分野だったが、これは私が意図したと言うより、京都大学に移ってから、血管発生を研究したいという人たちが自然に集まってきた結果だと思っている。彼らのおかげで、私も血管の面白さを楽しむことが出来た。
個人的に最も興味を持ったのは、中胚葉から分化したangioblastが発生中のdorsal aorta部位に並んで、そこを起点に閉鎖血管系が作られること、そして、一旦、閉鎖血管系が出来ると、閉鎖系を保ったまま、動静脈毛細管がそろった階層的な構築が形成されることだった。Single cell RNA seq(scRNAseq)が利用できるようになったのは現役を退いてからだが、この論文を読んだとき最初に頭に浮かんだのは、これで細胞レベルで血管の階層性が定義できると言うことだった。
今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は人間の脳血管について細胞アトラスを作成し、これを動静脈奇形にあてはめ、その異常の原因を探った論文で1月27日、Scienceにオンライン出版された。タイトルは「A single-cell atlas of the normal and malformed human brain vasculature(正常と形成異常の脳血管の単一細胞アトラス)」だ。
正常人の脳血管を分離することは簡単でない。この研究ではてんかん巣を除去する手術で得られた脳組織を、大きな血管の有無でまず切り分け、別々に細胞を調製している。当然神経細胞も全て含まれているがscRNAseqでは、その階層性を完全に分離することが出来る。
まず内皮の分類だが、これについては特に目新しい発見はないが、発現分子から明確に3種類の動脈、2種類の静脈、そして毛細血管に大きく分類でき、さらに小さな遺伝子発現の違いで、さらに詳細な分類が可能になっている。今後の様々な研究に、このアトラスは役に立つ。
一方、血管周囲細胞については極めて多様なことが分かる。毛細血管周りの周囲細胞はそれほどでもないが、血管平滑筋はそれだけで7種類に分類できる。またこの多様性にレチノイン酸シグナルが関わっていることも推定できる。さらに、平滑筋や線維芽細胞とははっきり分けることが出来る、fibromyocyteも分離することが出来、分化軌跡解析からおそらく平滑筋から分化したものであることが分かる。
以上が正常血管で、これだけなら役に立つアトラスで終わるが、最後に若い人の脳出血原因となる動静脈奇形の解析を行っている。結果だが、至極当たり前で、毛細血管や、小動脈、小静脈など小血管に関わる細胞が減っている。一方で、血管新生が活性化されたときに発現する遺伝子発現が上昇している。
さらに、出血して手術した患者さんと、出血前に手術した患者さんを別々に調べ、出血は平滑筋が炎症により浸潤してきた単球により傷害されることが引き金になる一種の炎症反応であることが示されている。
以上が結果で、期待以上というわけにはいかないが、動静脈奇形の解析によりscRNAseqとそれによるアトラスの有用性を示した力作だと思う。またまたscRNAseqの威力を認識した。
2022年2月5日
オミクロンの遺伝子配列を見たとき、これは異次元の進化だと誰でも思う。ただこのような異次元の変異が実際には免疫不全の患者さんの中でウイルスが長く維持されるときに起こることもわかっている。まだプレプリントレベルだが、SSRNと呼ばれるプレプリント・レポジトリーに最近アップロードされた論文では(https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=4014499 )、 一人のエイズ患者さんがCovid-19に感染し、9ヶ月もウイルスを保持した結果、20の突然変異が積み重なったウイルスが進化した症例が報告されている。オミクロンについても、同じようなことが起こったのではと考える人が多いようだが、十分納得できる。
このようにCovid-19を助けるウイルスになる可能性があるエイズウイルス(HIV-1)だが、今日紹介するオックスフォード大学からの論文では、強毒性を獲得した新しい変異株がヨーロッパで蔓延し始めていることを報告している。タイトルは「A highly virulent variant of HIV-1 circulating in the Netherlands(毒性の極めて高いHIV-1がオランダで流行している)」だ。
新型コロナと異なり、エイズは一種の慢性病なので、毒性についてはなかなかキャッチしにくい。この研究で発見された新しい変異株の同定は、最初診断時の血中ウイルス量が、一般の患者さんと比べて高い一群があるという発見から始まっている。
そして、これが新しい変異株であることがわかり、ウイルス診断から変異株感染者をスクリーニングすると、オランダの患者さん521人のうち、92人が変異株に感染していることを特定している。
血中ウイルス量が高いという点で強毒株と定義されたが、実際この株に感染するとCD4T細胞数の減少が早く、感染後半減するスピードが2倍以上に速まっている。ただ、治療には反応して、生存曲線では、対照群と違いはない。
残念ながら、変異からなぜこのウイルスの増殖が早く、またCD4T細胞の減少が高まっているのかについては特定できていない。これは、まだ研究が疫学的段階で、実験室の感染実験ができていないためだが、CCR5依存性の感染は明確で、他の配列から見ても、おそらくT細胞への感染率と、細胞内での増殖率、T細胞の細胞死誘導能力が合わさった結果だろうと結論している。
最後に、系統解析が行われ、1998年頃に流行り始めて、2003年ぐらいに流行のピークを迎え、その後はゆっくり流行が抑えられていることを示している。
結果は以上で、エイズにも強毒株の流行があったのかと個人的には驚いた。また、感染症の研究は長期のモニタリングを基礎として初めて新しい材料が発見されることがわかった。最も驚くのは、パンデミックと違ってHIVでは様々なウイルスが共存している点で、強毒株といえども全体を席巻することは難しい。これは、治療法の存在と、再生産数や、病気が慢性であることによるのだろう。
一方で、この強毒株がウイルスにとってどのような有利性をもたらせたのか考えるのも面白い。例えば、1998年というとエイズ治療が普通になった時期だが、この結果ウイルスの増殖は抑えられることになる。とすると、薬剤治療が始まるまでに少しでも早く増殖できるウイルスが選択されるのは十分考えられる。すなわち、薬剤の誕生がこのようなウイルスを進化させた可能性がある。私たちはウイルスともに生きるしかないことがよくわかる一例だ。
2022年2月4日
我が国のメディアにあふれるCovid-19ニュースは、これまで経験したことのない様々な社会現象を生み出している。おそらく多くの社会学者によりこれらの現象が分析されることで、日本の社会や文化について、新しい理解が生まれることだろう。
ただ一般メディアだけでなく、科学雑誌にもCovid-19についての科学論文以外の記事や意見が掲載されている。一応、科学ジャーナルというブランドがあることと、読んでみると結構面白いので、今回3つ紹介してみることにした。ただこれらは一般メディアと同じ意見や記事の扱いなので、そのつもりで読んでほしい。
まず治療薬だが、ようやく新型コロナウイルスの分子に特異的な薬剤、ファイザーのパクスロビドが認可された。この薬剤は昨年11月にScienceに紹介され(図)、PCR診断後3日までに服用すると、偽薬の場合27/385(7%)が入院したのに対し、3/389(0.8%)しか入院する必要がなかったという輝かしい結果を報告している。
この薬剤は先月承認申請がなされ、2月厚労省と購入契約が締結したと言うことで、自宅でも可能な治療手段がそろってきたという実感がある。パクスロビド報道で投与される薬剤の写真が掲載されているが(例えば朝日新聞:https://www.asahi.com/articles/photo/AS20211217000659.html )、おそらく多くの方が少し違和感をもたれたのではと思う。すなわち、一回分のパッケージに二錠のピンクの錠剤とともに、白い錠剤がセットになっている点だ。この白い錠剤はリトナビルで、服用したパクスロビドが腸や肝臓で壊されないよう、薬物代謝酵素CYP3A4分子をブロックする作用を持っている。
もちろん投与量は安全性を確保した上で決められているのだが、この両剤併用に対して、一定のリスクを認識すべきだという英国NHSの研究者を中心とする意見が、1月1日Lancetに掲載された。
内容だが、この併用戦略は、HIVにも使われており安全だが、使用に当たってはいくつか留意点があり、禁忌も含めて使用ガイドラインを明確に示すことが必要であることを強調している。
私も全く知らなかったのだが、この薬剤がCYP3A4だけでなく他の薬剤代謝酵素を阻害すること、逆にリトナビルで誘導される薬剤代謝酵素が存在することは重要だ。このため、他の薬剤(スタチン、ステロイド、精神安定剤、抗凝固剤、抗不整脈剤)を服用中の患者さんの治療は、他の薬剤(例えば作用機序の異なるモルヌピラビルや、あと少ししたら認可申請が行われる期待する塩野義のプロテアーゼ阻害剤)から始めた方がいい。今のように、医療が混乱しているときは、医師だけに周知させるだけではなく、一般の人にもこのような情報を提供し、自分でも注意してもらうことが必要な気がする。
次は世界中で議論の的になっている薬剤、イベルメクチンについてのニュースだ。もちろんこのニュースを紹介して、論争を蒸し返そうとなどと毛頭思っていない。結論は、我が国でも進んでいる治験結果が出てから判断すればいいことだ。ただ、米国でイベルメクチンが使用され、医療保険が支払われていたケースがあると知って驚いた。
米国医師会雑誌JAMAに掲載されたResearch Letterに結果が書かれている。2020年12月から、2021年3月に申請された米国の医療保険請求の中から、イベルメクチン処方の数と、そのうち請求が通った数を調べている。ちなみに、FDAは未だイベルメクチンを認可はしていない。
この調査から、米国ではCovid-19の治療は普通の保険診療の枠で行われているようだ。全体で5939のイベルメクチン処方に対する請求が出ており、支出額のうち、個人保険で61%、メディケアで74%が支払われている。著者らは、これが米国の無駄な医療費の例として糾弾しているのだが、イベルメクチンが世界中で議論の的になっていることはよく分かるレポートだ。
最後は、The New England Journal of Medicineに掲載された、Covid-19症状の多様性についての一つの考え方だ。
Covid-19の病状を決める大きなファクターは、ウイルスに対する抗体産生反応であることは間違いない。このとき、体内で誘導されてきた抗体がウイルスに結合して感染を予防するだけでなく、ADEと呼ばれる感染を助ける働きを持つ可能性についても、ワクチンへの懸念として議論されたことがあった。
この意見論文では、スパイクに対する抗体が誘導されるときもう一つの問題が起こる可能性、すなわち抗イディオタイプ抗体による、ACE2機能阻害、あるいは促進の可能性について意見を述べている。専門家でも、イディオタイプと聞いて覚えられている人は多くないと思うが、かくいう私も留学中はこの領域で研究を行っていた。
抗体はそれぞれ対応する抗原に結合する。このために抗体の抗原結合部分はそれぞれ異なるアミノ酸配列を持っており、自己分子(生まれついて持っている)とは言えなくなる。実際、抗体の抗原結合部分(これをイディオタイプと呼んでいるのだが)に対する抗体を実験的に誘導することが出来る。さらに個体の中に自然に誘導されることも観察されている。
ここで図を見てもらおう。Covid-19感染で重要なのはウイルスのスパイクと、ホストのACE2分子に対する反応だ。この反応を阻害しようと、感染やワクチンで両者の結合を阻害する抗体ができる。これが中和抗体だ。
さて、スパイクに対する抗体、特にスパイクとACE2の結合を阻害する中和抗体が誘導されると、この中和抗体に対して抗体が誘導されることもあり得る。このスパイク抗体に対する抗体、すなわち抗イディオタイプ抗体は、スパイクのACE2結合部位を阻害する抗体に対して誘導されたため、スパイクのACE2結合部位と構造的に似る可能性がある。すなわち、スパイク自身と似た結合活性を持つ可能性がある。これが起こると、ウイルスが除去されても、この抗イディオタイプ抗体がACE2に結合して、機能を促進したり、阻害したりする可能性が示されている。
ワクチンも、感染とは関係なく中和抗体を誘導することなので、これに対する抗イディオタイプ抗体を誘導し、これがACE2に結合してその本来の機能を変化させることも考えられる。ACE2はACEに拮抗し、血管保護に働いているので、感染後やワクチン接種後の血管障害の原因になる可能性があるというわけだ。
取り越し苦労ではないかと思うが、このようにあらゆる可能性を述べる自由な環境があることが、Covid-19との戦いを支えている。
2022年2月4日
免疫システムがガンを征圧できると実感を持ったのは、チェックポイント治療の成功と、CAR-Tによるリンパ性白血病(CLL)治療の成功を知ったときだった。このCAR-TをこのHPで紹介したのが2014年10月のことで(https://aasj.jp/news/watch/2309 )、末期のCLLの9割で完全寛解が見られたことを興奮して紹介した。
おそらくこの時の患者さんだと思うが、同じペンシルバニア大学からCAR-T治療を受けてすでに10年、CLLが完全に抑えられている2例の患者さんについての詳しい報告が2月2日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Decade-long leukaemia remissions with persistence of CD4 + CAR T cells(10年にわたる白血病寛解例ではCD4陽性CAR T細胞が持続している)」だ。
2人だけとはいえ、10年以上にわたって、全く再発無く過ごせた患者さんがいたことで、CAR-T治療改善に向けた様々なヒントが得られる期待が大きい。両者とも、白血病細胞だけでなく、CD19を発現する正常B細胞も完全に消失したまま経過している。
個人的に面白いと思ったのは、2人のうち1人は、10年目にして、CAR-Tは持続しているのにB細胞の数が少し上昇していることで、白血病も再発してきたのか、B細胞上昇は一過性の現象なのか、あるいは今後も回復が続くのか知りたいところだ。
この研究の最も重要な発見は、残存するCAR-Tが最終的にCD4陽性キラー細胞に収束するという発見で、おそらく誰も予想できなかったと思う。
CAR-Tを制作するとき、末梢血からCD3陽性細胞を生成し、そこにCAR遺伝子を導入するが、それ以上の細胞の精製は行わない。従って、用意したCAR-Tは、CD4とCD8陽性の細胞が含まれている。なのに時間がたつと、ほぼ100%がCD4陽性細胞になることは、このタイプのT細胞が体内での長期維持に向いていることを示している。
実際、正常のCD4細胞と比べても、CD4陽性CAR-T細胞は、末梢血に循環しているものでも、増殖マーカーを発現している。すなわち、持続的抗原刺激がある場合、CD4T 細胞が増殖しやすいことを示している。個人的考えだが、リンパ組織のどこかで、このようなメモリー細胞を選択的に増殖させているメカニズムがあるのだろう。
こうして選択されたCD4陽性CAR-Tの場合、最終的に選択されてくるのはキラー活性を持つCD4型T細胞で、かなり特殊な選択状況が生まれている可能性が高い。今後、CD4陽性、キラー型T細胞に注目して他の患者さんの経過を見ることで、このタイプの細胞が成功の鍵を握るのかが明らかになるだろう。もしそうなら、最初からこのタイプの細胞を準備することで、成功率を上げる可能性がある。
繰り返すが、ベクターに用いたレンチベクターウイルスはランダムにゲノムに挿入されることから、CD4陽性CAR-Tの中でも、さらにクローン性増殖が起こっているかを調べることが出来る。事実、時間の経過とともに、安定的に増殖するクローン数が減っていくことが観察される。ただ、時間とともにそれまで優勢で無かったクローンが急に現れたりもするので、クローンが選択される条件については、さらに検討が必要だろう。ただ、最も心配された特定の遺伝子(例えばガン遺伝子)がレンチウイルス挿入で活性化される心配は、この2例では見られていない。
他にも、経過に応じてみられるCAR-T側の変化が詳しく記載されているが、割愛していいだろう。CD4陽性型CAR-Tが、持続的ガン免疫の鍵として浮上してきた意味は大きいと思う。
2022年2月3日
約20年前、シンガポールでおそらく何らかのコロナウイルスに感染し、1日発熱した後、3ヶ月程度続く嗅覚障害に見舞われたことがある。幸い1年程度でかなり回復したのだが、食べ物やワインと言った良い匂いは完全に回復しているのに、悪臭と呼ばれている多くの刺激には反応できない。
つねに細胞の自己再生が起こる系で、どうして部分的な嗅覚障害が残るのか不思議なのだが、第5波までのCovid-19でも嗅覚障害がつよく、重大な後遺症になっている。障害の原因として、嗅覚神経細胞にウイルスが直接感染するという考えもあったが、現時点ではこの可能性は低いと考えられており、一番有力なのは鼻粘膜の支持細胞が感染することで、嗅覚神経細胞が間接的に傷害されるという考えだ。
嗅覚細胞は一種の幹細胞システムで、一定期間ごとに置き換わる。従って、細胞が傷害されると、次の細胞に置き換わるまで嗅覚は回復しない。これが、後遺症として症状が長く続く原因になる。ただ、これだと鼻粘膜に感染した場合、ほとんどの患者さんで嗅覚障害が起こって良さそうなものだが、δ株ですら35%程度にとどまっている。また、組織学的にも全ての嗅覚細胞が消失したという状況は見られておらず、支持細胞障害や炎症による、嗅覚細胞の二次的障害というシナリオでは、Covid-19の嗅覚障害を説明し切れていない。
今日紹介するコロンビア大学からの論文は、Covid-19による嗅覚障害を、高い説得力で説明してくれる研究でPre-proof版が1月26日Cellにオンライン掲載された。タイトルは「Non-cell autonomous disruption of nuclear architecture as a potential cause of COVID-19 induced anosmia(外部からの刺激により核内の染色体構築が崩壊することがCovid-19による嗅覚障害の原因)」だ。
この研究は、ハムスターを使った感染実験系を使って、これまで提案されていた仮説を除外するところから始めている。まず、嗅覚神経細胞にウイルスが直接感染して傷害されるという仮説については、 single cell RNAseqを用いてウイルス感染を細胞レベルで調べ、感染しているのはほとんどが支持細胞で、感染後急速に細胞数が低下するが、嗅覚神経では1割以下しか感染が見られないことを確認している。重要なのは、嗅覚神経細胞数はほとんど変化しない点で、細胞が死んでしまう可能性は低い。
次に、鼻粘膜が感染した後の遺伝子発現を調べ、確かに支持細胞では、炎症性反応も含め、ウイルス感染による反応が起こっているが、嗅覚神経数は感染性の変化はなく、2次的な変化と思われることを示している。
以上から、嗅覚障害は嗅覚細胞が感染により起こった外部の変化に反応して起こったこと、嗅覚神経細胞数の減少よりは、その機能的な障害によることがわかる。実際、嗅覚に関わる嗅覚受容体の発現を調べると、ほとんどの受容体の発現が感染後すぐから低下し、10日まで回復が見られない。また、嗅覚神経の投射をコントロールする遺伝子Adcy3の発現も低下している。
そしてこの研究のハイライトとなるデータだ。嗅覚受容体遺伝子の発現低下を調べるために、鼻粘膜上皮の核内の染色体トポロジーを調べるためのHiC実験を行っている。なぜこの実験が行われたのか、嗅覚受容体遺伝子の特殊な発現様式を理解する必要があるのだが、長くなるので割愛する。何百もある嗅覚受容体の発現が一律に低下するためには、核内染色体トポロジーの大きな再編が起こっていると考えるのは不思議ではない。
核内トポロジーについての説明は省くが(興味のある人はhttps://aasj.jp/news/watch/3533 を参照して欲しい)、染色体上に散在する嗅覚受容体遺伝子が接近してできるクラスターを支えるトポロジーが、感染後すぐから崩壊することが分かった。
この変化は、嗅覚細胞外部からの刺激によると考えられる。この誘導因子を特定するため、おそらく様々な因子を鼻粘膜に添加する実験を行ったのだと思うが、特定の分子を同定するには至っていない。結局Covid-19感染ハムスターの血清を添加したとき、同じようにトポロジーの崩壊が起こり、嗅覚受容体遺伝子のクラスターが消失することを発見している。
後は、ハムスターでの結果が、人間にも当てはまるか、感染後死亡した剖検例で調べているが、詳細は省く。
以上、結論としては、Covid-19感染により誘導される様々なサイトカインの作用により、嗅覚受容体遺伝子が核内にクラスターを作るためのTAD(Topology associating domain)が崩壊し、嗅覚受容体発現が低下することが嗅覚障害の原因であると特定している。
このシナリオの魅力は、Covid-19による嗅覚障害の多くを説明できる点だ。まず、嗅覚受容体遺伝子の核内クラスターが崩壊すると、それまで一つの嗅覚受容体遺伝子を発現していた嗅覚細胞が、同じ受容体を発現するための仕組みは完全に壊れる。細胞が生存しておれば、トポロジーは再構成されるが、新たに発現する嗅覚受容体遺伝子が、感染前と同じである確率は低い。一方で、この嗅覚神経は、最初発現していた受容体に応じて、嗅球の特定の領域に投射することで、臭いの脳内イメージを作っている。このため、最初発現していた受容体に応じた投射により形成された神経表象が、新しく発現した嗅覚受容体と矛盾すると、臭い感知と認識が矛盾して混乱をしてしまう可能性がある。すなわち感じても認識できない混乱状況に陥るというわけだ。
さらに、この変化は何らかの分泌サイトカインの作用であるため、この分泌の差が個人差を生み出していると考えられる。このように、大変よく出来たシナリオで、HiC実験でトポロジーを調べたことで、全く新しい可能性が示された。さらに、外部刺激でこれほど見事にトポロジーが崩壊するとしたら、その刺激を特定できると面白い。
2022年2月2日
Medical ganglionic eminenceと呼ばれる、脳室に突き出した領域から発生する介在神経分化を、組織学と脳の培養を組みあわせて研究した論文を、一昨日紹介した(https://aasj.jp/news/watch/18940 )。このとき驚いたのは、介在神経前駆細胞(INP)がこの場所で、あたかも腫瘍のような塊を作り増殖し、その後様々な場所へ移動することだ。また、同じ腫瘍性増殖を、ヒトのINPをマウスに移植することでも再現できる。
このような腫瘍のような塊を作って増殖した後、様々な箇所へ移動する例で最もよく知られているのが、神経堤細胞が集まる鰓弓で、いくつかの塊にまずまとまった後、決められた場所へ移動していく。
同じようにganglionic eminence(GE)も3種類に分けられ、一昨日紹介したMGEは新皮質へ移動するが、生後も増殖を続けて皮質の介在神経を供給するのがCaudal GE(CGE)で、新生時期の介在神経異常を考える上で重要な集団になる。
今日紹介するオーストリア・分子生物工学研究所からの論文は、このCGEが、結節性硬化症のオリジンであることを示した、介在神経発生を考える上で重要な貢献で、1月28日号のScienceに掲載された。タイトルは「Amplification of human interneuron progenitors promotes brain tumors and neurological defects(人間の介在神経前駆細胞の増殖が脳腫瘍の形成と神経異常を誘導する)」だ。
タイトルにある結節性硬化症(TSC)は、てんかんや自閉症を伴う発生異常とともに、中枢神経に良性腫瘍が形成される多様な病気で、mTOR活性を抑える一種のガン抑制遺伝子TSC1、TSC2遺伝子が欠損によることが特定されている。
この研究ではTSC2が片方の染色体で欠損している患者さんから樹立したiPSを用いて試験管内でTSC異常を再現することを目指しているが、このときのコントロールとして、患者さんのiPSのTSC2遺伝子をクリスパーで正常化した細胞を作成し、遺伝子欠損株と比較している。
神経を誘導する培養を用いると100日ぐらいで両者に差が生まれ、遺伝子欠損株だけで腫瘍性の増殖が見られる。腫瘍の細胞由来を調べると、期待通り介在神経前駆細胞(ING)であることが分かるが、その中でもCGE由来で有ることが分かる。すなわち、介在神経前駆細胞は、いくつかの場所で増殖するが、そのうちcaudal ganglionic eminenceで増殖する介在神経だけが、TSC2欠損の影響を受け、腫瘍性の増殖を起こす。
次に腫瘍性の増殖のメカニズムを探り、腫瘍でよく起こるLOH(増殖中にもう片方の遺伝子も欠損すること)は腫瘍性増殖に必要ないこと、そしてCGEのINGが特にmTOR発現が亢進しやすいため、TSC2欠損で増殖しやすいことを示している。その結果、CGEのINGだけがTSCの原因細胞になることを示している。
そして、実際の患者さんの脳組織を、この結論から眺め直し、極めて複雑に見えた様々な異常も、CGE-ING異常増殖がTSCの原因であるという考えで全て説明がつくことを示している。
一昨日の論文とともに、介在神経の発生を考える上で極めて重要な貢献だと思う。合わせて自閉症の科学として紹介するとともに、ジャーナルクラブでも詳しく紹介したいと思っている。
2022年2月1日
今でこそ、美味しいものを食べたり飲んだりしたいという欲望が、自分の食生活を動かしていると思うが、本当の欲望は、生きていく、すなわち自分の定常状態を維持するために進化したもので、飢えや渇きを満たすために存在する。この基本的感覚が私たちの精神や理性と相互作用して、感情、衝動、喜びや苦しみ、そして善悪の判断にまで及んでいくことを喝破したのが、少し前に紹介したスピノザのエチカだ(https://aasj.jp/news/philosophy/18885 )。
この感覚をたどっていくと、腸に存在する様々なセンサーがあり、中には蔗糖と人工甘味料まで区別するセンサーがあることも分かっており(https://aasj.jp/news/watch/18825 )、急速に研究が進む分野だ。
とはいえ、水の浸透圧を特異的に感じる仕組みがあるとは考えたことが無かった。今日紹介するカリフォルニア工科大学からの論文は浸透圧を特異的に感知するシステムが存在するか調べた研究で、1月26日号Natureにオンライン掲載されている。タイトルは「Sensory representation and detection mechanisms of gut osmolality change(腸が浸透圧の変化を感知し表象する仕組み)」だ。
おそらく研究で最も難しいのは、腸の伸張やpHなどとは違って、浸透圧が感知されていることを証明することだが、この研究では腸を様々な溶液で灌流しながら頸部の迷走神経の興奮を調べる方法で、生理食塩水から浸透圧が下がるとともに興奮する感覚システムの存在を発見している。30mM刻みで感知できるというのは、私にとっては驚きだ。
こうして、浸透圧の変化を感知するシステムがあることを確認した上で、浸透圧の低い水に反応する脳の迷走神経細胞が、例えば砂糖や食塩、あるいは腸の進展に反応する細胞とは異なっていることを確認している。このように、浸透圧が低いとことを感じる細胞が存在する。しかも、データを見ると他の感覚と比べて数が多いように見える。
次にこの腸での浸透圧変化の感覚を伝える神経について調べ、腸に分布する迷走神経では無く、なんと肝臓静脈に分布している迷走神経であることを発見する。また、この経路によって、渇きの感覚が抑えられることも、神経を切断する方法で確認している。この神経は水を飲むと急速に活性化し、レバーを押して水を飲む実験系で、欲望を変化させることが無いことが確認されたので、基本的には浸透圧変化を感じた渇き感覚を変化させることに特化していることが分かる。
では、腸のセンサーから肝臓静脈の迷走神経へ同シグナルが伝えられるかだが、消化管ホルモンの一つ血管作動性腸管ペプチド(VIP)によることを示している。すなわち、浸透圧の変化がVIPの分泌を促し、これが肝臓静脈の迷走神経に働くことを示している。
結果は以上で、腸の浸透圧を感じる仕組みが明らかになったと言えるが、個人的にはなぜわざわざ浸透圧といった状態を感知する必要があるのか、個人的には理解できない点も多い。おそらく、入り口の感覚細胞について詳細が分かれば、自ずと見えてくるのだろう。ただ、細胞の浸透圧を守るためには、むやみに浸透圧の低い飲料を飲むわけにはいかない。とすると、陸上動物と水生動物でこの仕組みを比べてみるのは面白いかもしれない。
2022年1月31日
最近紹介したように、自閉症スペクトラム(ASD)では、解剖学的には脳にほとんど異常が認められないものの、介在神経の機能異常が起こり、神経抑制のバランスが変化した結果、脳波検査でγ波が上昇することなどを紹介した(https://aasj.jp/news/autism-science/18807 )。 実際、興奮精神系と異なり、介在神経はいくつかの場所でまとまって作られた後、移動によって脳内に分布する。すなわち、発生を経て最終目的地に落ち着くためには複雑な過程を経る必要があり、異常が起こりやすいと考えられる。したがって、この過程を解明することは、そのままASDのみならず、てんかんや、統合失調症の理解にもつながる。
今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は、発生過程の人間の脳標本を用いて、介在神経発生過程の解明に迫った研究で、1月28日号のScienceに掲載された。タイトルは「Nests of dividing neuroblasts sustain interneuron production for the developing human brain(増殖する神経芽細胞の集まりが発生途上の人間の脳の介在神経産生を受け持つ)」だ。
この研究の前半は、精細な組織学で、大脳基底核源基と呼ばれる脳室内に突き出した領域の中で、内側の隆起にDCX分子を発現した介在神経が増殖する特別な場所が存在し(他の基底核部位には存在しない)、そこで胎生14週から23週まで、神経芽細胞が一種のガンのような増殖集団を形成して、増殖が続くことを明らかにしている。大事なのは、興奮神経と異なり、等分裂から不等分裂の様な転換があまり見られないことで、著者らは神経の細胞同士が接着因子で凝集することが増殖に必要ではないか、またプロトカドヘリンの一つが欠損すると介在神経発生異常が起こるのも、この凝集塊の形成の問題ではないかと議論している。いずれにせよ介在神経の前駆細胞の増殖調節についてさらに研究が必要であることが分かる。
23週を過ぎると、細胞増殖の速度は低下するが、生まれるほぼ前まで増殖が続き、介在神経が脳へ供給されることが分かる。実際、増殖が止まった細胞は、集団から離れ、分化し移動が始まる。
この研究のハイライトは、この神経芽細胞凝集塊を取り出してマウスに移植しても同じような塊が形成され、マウスの中で発生が続くことの発見で、なんと移植後1年間にわたって、増殖、分化を観察できることが示されている。しかも、最終的に機能的介在神経が分化するのに、この条件で200日必要で、こうして分化した介在神経はマウスの脳ネットワークに統合されることが示されている。
結果は以上で、介在神経前駆細胞が細胞塊を形成することで増殖すること、これをマウス脳内でほぼ同じ時間スケールで再現できることなど、少なくとも発生過程のほとんどの部分を研究する方法を示した、今後人間の介在神経発生を研究する上で、重要な貢献ではないかと思う。今後、iPSなどを組みあわせることで、様々な疾患での介在神経発生異常も分かるように思う。自閉症の科学としても紹介したい論文だ。