過去記事一覧
AASJホームページ > 2023年 > 4月

4月2日 免疫サーベーランスのメカニズム(3月29日 Nature オンライン掲載論文)

2023年4月2日
SNSシェア

これほど免疫システムによるガンの抑制が当たり前になっていても、免疫サーべーランスという言葉は耳慣れない人も多いのではないだろうか。しかし我々の世代にとっては、ガンと免疫というと免疫サーベーランスがまず結びついていた。免疫サーべーランスの概念は、おそらくオーストラリアのバーネットが最初に提唱したのではと思うが、我々の身体で日々発生している突然変異によるガン細胞を、免疫システムが見つけ出して殺すことでガンの発生を抑えているという考えだ。

確かに最近の疫学では、免疫不全症の人ではガン発生率が1.4倍になるという結果は、これを示唆しているが、思っているほど効果が高いわけではなく、また免疫システムが完全に欠損したマウスでも発ガン頻度が高くなかったことから、免疫サーべーランスの概念はあまり注目されなくなった。

今日紹介するスローンケッタリング ガンセンターからの論文は、ガンの転移巣の活性化には免疫サーべーランスが関与する可能性を示唆する研究で、3月19日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「STING inhibits the reactivation of dormant metastasis in lung adenocarcinoma(STINGは休止期転移肺腺ガンの再活性化を抑制する)」だ。

このグループは、既に静脈注射して各組織に播種された後もほとんど増殖せず組織で静かにしている転移ガンモデルを完成させている。実際、例えば現在の乳ガン治療では、ステージ1でも、既に各組織に転移があると想定して治療を行うが、これは初期からガン細胞が転移しており、何らかのきっかけで再活性化が起こるのを何年も待っていることがあると考えられる様になったからだ。

このグループが完成させた休止期転移モデルでは、免疫系とNKが存在しないマウスでは休止期に維持できないことから、休止期を外れたガン細胞を殺して、休止期を維持しているのが免疫サーベーランスであると結論し、このモデルで免疫サーべーランスを逃れる要因を、転移巣から増殖した細胞と休止期細胞から外れたばかりのガン細胞の遺伝子発現を比べ、また発見された遺伝子を改めてCRISPR/Cas9でノックアウトする実験から、自然免疫に関わるDNA センサーであるSTING分子であることを突き止める。

そして、ガンが休止期から外れて増殖期に入るとSTINGが発現し、これがガン細胞中のDNA断片を認識して自然免疫のスウィッチを入れるとともに、NK細胞の標的分子や、クラス1MHCの発現を上昇させ、免疫系により除去されることを明らかにする。

このシナリオを確認するため、STINGをノックアウト、あるいは強発現させる実験を行い、STINGが発現しているガン細胞は、免疫サーべーランスに発見され除去されることを明らかにする。

一方、ガンの方はサーべーランスを逃れるため転移巣ではSTINGをエピジェネティックに抑制しているが、これにはTGFβも関与すること、また増殖が始まるとエピジェネティックな抑制が外れSTINGが発現すること、そして増殖が続くと今度はSTINGがDNAメチル化により抑制を受け、サーべーランスを受けなくなることを明らかにしている。

最後に、STING刺激を高める薬剤を投与することで、転移巣の再活性化をつよく抑えることも可能であることを示し、医療へのトランスレーションの可能性を示唆して論文を終えている。

さすがTGFβシグナルの大御所Masagueの研究室だけあり隙の無い研究だが、これが肺ガン特異的な現象なのか、あるいは乳ガンや前立腺ガンなどでも言えるのか、是非知りたいところだ。

カテゴリ:論文ウォッチ

4月1日 老化皮膚細胞を除去するCD4T細胞(3月30日号 Cell 掲載論文)

2023年4月1日
SNSシェア

老化が進む一つの原因が、老化した細胞が組織に長期間残ってしまうことで、新陳代謝を妨げ、慢性炎症状態が維持されるからだとする考えは広く受け入れられている。これを防ぐには、老化細胞を速やかに除去するsenolysisと呼ばれる過程を高めることが重要で、様々な方法が開発されてきたが、senolysisが生理的に行われているのかはよくわかっていない。

今日紹介するハーバード大学からの論文は、senolysisが人間の皮膚で起こっており、キラー活性を持つCD4T細胞が老化細胞が発現するサイトメガロウイルス抗原を見つけて除去しているという研究で、3月30日号の Cell に掲載された。タイトルは「Cytotoxic CD4 + T cells eliminate senescent cells by targeting cytomegalovirus antigen(細胞障害性CD4T細胞がサイトメガロウイルス抗原を標的にして老化細胞を除去する)」だ。

おそらく化粧品会社の最も重要なターゲットの一つは、皮膚の老化を遅らせることだと思う。この研究では、皮膚の中でも真皮に存在する線維芽細胞に焦点を当て、様々な年齢の皮膚バイオプシー標本から老化細胞の数を算定している。

結果はちょっと複雑で、若者と比べると確かに年齢とともに老化細胞の数は上昇するが、50歳を超すとほとんど年齢と比例しなくなる。おそらく単純に時間とともに起こる変化とは別の変化が、老化細胞の数に関わると考え、真皮に存在する血液細胞と老化細胞の相関を調べると、細胞障害性の機能分子を発現するCD4T細胞が多いほど老化細胞が少ないことに気づいている。

さらにCD4T細胞を分離した同じ人から、線維芽細胞を調製し、分裂抑制により老化させ、CD4T細胞と共培養すると、CD4T細胞は老化細胞のみを殺す活性があることを見いだしている。

次に、このCD4T細胞が老化細胞のどの抗原を認識しているのか探索し、老化した線維芽細胞ではクラスII-MHCとともに、サイトメガロウイルスグリコプロテインの発現が高まっていることを発見する。そして、CD4T細胞がウイルス抗原を発現している線維芽細胞を傷害する活性を持ち、抗原受容体もウイルスペプチドとクラスII-MHC複合体と結合していることを確認している。

結果は以上で、では本当にサイトメガロウイルス特異的CD4T細胞が皮膚の老化を防いでいるかどうかは、人間についての状況証拠だけでは結論できないだろう。おそらくシステムをマウスに完全に移して、皮膚の老化が防げるか、さらに他の臓器でも同じことが言えるかが結論できるのだと思う。

これで証明されると、あなたのCD4T細胞を活性化しますと言ったサービスも可能になるかも知れない。

カテゴリ:論文ウォッチ
2023年4月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930