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5月1日 食べ物を見ただけで肝臓のミトコンドリアが変化する(4月26日号 Science 掲載論文)

2024年5月1日
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脳と身体のつながりは、食事を見るだけでつばが出るといった反応で知られるように、生命維持に最も大事な摂食時の変化がよく研究されている。なかでも視床下部弓状核から分泌される AgRP と POMC は摂食行動だけでなく、肝臓での糖や脂肪代謝の調節に関わるとして知られている。

今日紹介するドイツ・ケルンにあるマックスプランク代謝研究所からの論文は、特に POMC を発現する神経の興奮により起こる肝臓の変化を、特にミトコンドリアに焦点を当て詳しく調べた研究で、4月25日 Science に掲載された。タイトルは「Food perception promotes phosphorylation of MFFS131 and mitochondrial fragmentation in liver(食物の存在を感じると肝臓で MFFS131 がリン酸化されミトコンドリアの断片化が起こる)」だ。

この研究ではマウスを16時間飢餓状態に置いた後、食べ物を見つけても食べられないという状況で、肝臓のミトコンドリア分子のリン酸化パターンの変化を網羅的に追求し、ミトコンドリアの分裂を誘導する MFF 分子の131番目のセリンがリン酸化されることを発見する。

この肝臓での変化が POMC 発現神経の興奮で誘導されることを、この細胞特異的に刺激する光遺伝学で確かめている。驚くことにこのリン酸化反応は食事を見つけたときから5分で始まり、10分でピークになるが、食べられないとわかると低下する。一方、食べ物を与えたグループではそのままのレベルが維持される。すなわち、一種の満足反応が肝臓細胞レベルの、しかもかなり早い反応を引き起こしている。

このときのミトコンドリアの状態を見ると、やはり5分で分裂が始まり、10分ぐらいでピークに達し、これが MFF 分子のリン酸化で調節されていることがわかる。さらに、POMC 神経を光遺伝学的に刺激しても、同じように分裂を誘導できる。

では食べ物を見た時に起こる PMC 神経興奮が、MFF 分子のリン酸化、続くミトコンドリア分裂を誘導するメアニズムは何か?MFF 分子のリン酸化パターンを解析し、インシュリンの下流で働く AKT ではないかと考え、生化学実験、遺伝学的実験によりこれを確かめ、食物を感じる刺激が、AKT のリン酸化を通して、MFF 分子のリン酸化を誘導していることを明らかにする。そして、AKT を活性化するのはインシュリン分泌自体であると結論している。すなわち、POMC 刺激はインシュリン分泌を促し、肝臓細胞を刺激、AKT 依存的ミトコンドリア変化が誘導されることになる。

この論文では POMC 神経反応とインシュリンの関係には踏み込んでいないが、視床下部から直接膵臓への神経支配が存在することが2016年シカゴ大学によって明らかにされており、この経路が動いたと想像する。

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