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5月8日 全ゲノム重複が起こるメカニズム(5月3日号 Science 掲載論文)

2024年5月8日
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昨年7月、2回にわたって細胞周期の調節メカニズムの見直しが進んでいることを紹介した(https://aasj.jp/news/watch/22329)、(https://aasj.jp/news/watch/22475)。ざっくりまとめると、増殖因子により活性化される CDK4/6 が、G1 期を超えて必要とされるという話で、異なるサイクリンがチェックポイントに応じて順々にリン酸化、分解を繰り返すことで、正確な DNA 複製と細胞分裂が進行する、美しいスキームで説明できないことが多くあることを示している。

今日紹介する米国ジョンズホプキンス大学からの論文も CDK4/6 の G1 期を超えた役割を明らかにした研究で、5月3日号の Science に掲載された。タイトルは「CDK4/6 activity is required during G2 arrest to prevent stress-induced endoreplication( CDK4/6 は G2 停止期にストレスデ誘導される核内倍加を阻止する)」だ。

ガン細胞の多くは分裂を経ずに DNA 複製が核内で起こる染色体倍加が起こっていルことが知られている。この研究は、各細胞周期特異的ドライバー(サイクリン A/CDK1 )の標的分子を蛍光分子と結合させて、それぞれのドライバーの活性をモニターしながら G2 期から細胞分裂に至る過程を追跡することで、G2 期から細胞分裂を経ずに DNA 複製が始まる分子過程を調べている。

細胞周期の研究を理解するには、各ドライバーについての知識が必要で、詳細に踏み込むとますますわかりにくくなるので、かなり省略して紹介すると次のようになる。

これまで核内倍加は p53 の変異が主原因であるとされていたが、正常細胞を用いた実験で p53 とは無関係に、リボゾーム機能阻害、DNA損傷、浸透圧などの様々なストレスで誘導できることを示している。

次に、G2 期から分裂期へのドライバー活性をモニターする系で、ストレスによりリン酸化活性化されるMAP3K を起点とするシグナルが、細胞後期のドライバー Anaphase promoting complex (APC) の活性化を誘導することで、核内倍加が起こることを示している。

そしてストレス存在下で、各ドライバーの活性を精緻にモニターして、このストレスによるシグナルがCDK4/6、CDK2 などを順々に抑制することで、分裂前のG2期停止から解放し、結果早期にDNA合成、そして核内倍加が起こることを示している。

もう少し細胞周期的に説明すると、ストレスによりまず CDK1/CyclinA が阻害されることで、G2 期停止が起こる。このとき分裂前の DNA 合成を抑えるためには CyclinA の標的分子 E2F のリン酸化を維持することが必要で、これができないと DNA 合成が分裂前に始まる。このとき、同じ E2F をリン酸化するCDK4/6/CyclinD の活性が維持されていると、G2 停止期は正常に続き、ストレスがなくなると正常分裂が始まる。すなわち、前回紹介した論文と同じで、G2 から分裂期への離脱時期でも、増殖因子により活性化される CDK4/6 は、細胞周期を維持するために働いていることになる。

以上が結果で、核内倍加が p53 とは無関係に起こりうること、そして CDK4/6 シグナルがこのようなストレスから細胞周期を守る働きをしていることがよくわかる。CDK4/6 は治療に使われており、この結果はストレスの多い条件でこの薬剤を使うともっと効果が高まることを示している。

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