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5月31日 CRISPR/Cas 遺伝子編集システムの改良が不断に続けられている(5月22日 Cell オンライン掲載論文

2024年5月31日
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CRISPR/Casの広がりは予想以上で、すでに臨床治験が進められている遺伝子編集も数え切れない。Clinical Trial Gov. で CRISPR とインプットすると、81治験がリストされる。当然治験前の前臨床段階だと驚くべき数になるはずだ。当然使用される CAS タンパク質など、遺伝子編集のために至適化されているのかと思うが、最も利用されている CAS9 ですら、理想からはほど遠いらしい。これまでも、標的以外の DNA に切断を入れる活性を除去して、特異性を上げる試みについては紹介してきたが、酵素活性としてみたときでも CAS9 は改良の余地が大きいようだ。

今日紹介するカリフォルニア大学バークレー校、Doudnaさんの研究室からの論文は、遺伝子編集に直接関わる酵素 CAS の改良を目指した研究で、5月22日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Rapid DNA unwinding accelerates genome editing by engineered CRISPR-Cas9(改変型CRISPR-Cas9により DNA をほどく速度を高めることで遺伝子編集効率を高めることができる)」だ。

標的以外の DNA を切断するオフターゲットの問題や、分子のサイズの問題を解決するための研究が進んでいるのは知っていたが、例えば Cas9 などこれほど多くの研究で利用され、場合によっては何十パーセントといった編集効率が報告されているので、この論文を読むまでターゲット特異的な切断活性はかなり至適な酵素だと思っていた。

ところが専門家から見ると最も利用されている Cas9 には凝集しやすく、また分解されやすいという問題があるようで、分解されにくい種類の Geobacillus 由来の Geo-Cas9 が注目され、いわゆる分子進化手法を用いて至適変異を誘導した iGeo-Cas9 が開発されていた。

この研究では、元の Geo-Cas9 と効率を高めた iGeo-Cas9 の構造解析や、標的との生化学的解析を行い、効率上昇に関わった分子構造を調べている。CRISPR/Cas9 の酵素学的過程を分析すると、Cas9 の DNA への結合が高まっており、その結果か標的側の認識配列 PAM の配列の制限が下がる。余談になるが、PAM 配列のレパートリーが増えることで、当然標的にできる配列の数も増える。

これらの変化は全て、Cas9 の WED ドメインで起こったアミノ酸変異によるもので、さらにこの変異により、DNA をほどいてガイド RNA と結合させ、残りの DNA の R-Loop 形成効率が大きく上昇することを示している。

切断活性を含むそれ以外の過程については、iGeo-Cas9 は元の Cas9 と活性の差はなく、従って iGeo-Cas9 の編集効率の上昇は全て WED ドメインの変異によりおこっていることを明らかにしている。その上で、なぜ iGeo-Cas9 が標的 DNA の熱力学的な不安定性を誘導するかなどについてお解析しているが、割愛する。要するに、DNA をほどく活性が高まることで、ガイドとの結合、DNA 切断に必要なR-Loop形成などが格段に高まる。

この分析過程で、iGeo-Cas9 のマグネシウム依存性が下がることも発見している。大腸菌や、試験管内の条件と比べると、我々の細胞内のマグネシウム濃度は低い。従って、iGeo-Cas9 はまさに我々の細胞内で働きやすく変化したことがわかる。

WEDドメインはこれまであまり注目を集めてこなかった。そこで、他のバクテリア由来の Cas9 の WED ドメインに同じような変異を導入したところ、アミノ酸の相同性は40%ぐらいしかないのに、同じように PAM 配列の制限が緩み、編集効率が格段に高まることを示している。

以上が結果で、WED ドメインの機能を理解することで、Cas9 の効率を高めるための分子デザインに大きく近づいた、さすが Doudnaさんと感心する研究だ。

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