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5月26日 副作用のない骨髄移植は可能か(5月22日 Nature オンライン掲載論文)

2024年5月26日
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白血病の治療を始め様々な目的で骨髄移植が行われる。まだ不足しているとはいえ、骨髄バンクの整備と様々な臨床的努力の結果、今では100日生存率で見た非血縁者間の骨髄移植治療の成功率は90%を超えていると思う。とはいえ、骨髄移植のためにガン細胞は言うに及ばず、正常の造血幹細胞を除去して、移植幹細胞が増殖できる場所を空ける必要がある。このため、徹底的な化学療法や放射線照射が行われるため、その副作用は全ての幹細胞システムに及び、これが成功率を妨げる。

今日紹介するバーゼル大学からの論文は、骨髄移植をより安全に行うため、抗体に薬剤を結合させた細胞障害薬(ADC)を用いた方法の開発で、5月22日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Selective haematological cancer eradication with preserved haematopoiesis(造血を維持してガンだけを選択的に除去する)」だ。

この研究では、骨髄移植で骨髄性白血病を治療するシチュエーションを想定して、白血病細胞だけを除去する方法の開発を目指している。例えばこれまでの抗ガン剤療法だと、ガンも血液幹細胞も傷害される。そこで、骨髄幹細胞を治療後に移入して造血だけ復活させるのが骨髄移植治療だ。この研究では、この過程をまず血液系特異的な障害に限定し、他の臓器への影響がほぼ出ない方法として、ガンも含めて全ての血液細胞が発現している CD45 分子に対する抗体に DNA をクロスリンクして強力な細胞障害性化合物 Pyrrolobenzodiazepine(PBD) を結合させた ADC を開発している。

これにより、血液幹細胞からガン細胞まで、全ての血液系細胞は体内から除去されるが、他の細胞にはまず影響が及ばないため、より副作用のない骨髄移植に近づく。しかし、このままだと抗体の半減期から考えても、新しい骨髄を移植しても ADC の影響を受け、ガンは殺せても造血が戻らない。

この問題の解決として着想したのが、正常血液幹細胞の CD45 遺伝子を抗体が認識できないように遺伝子編集で変異させ、ADC の影響を受けない血液幹細胞として ADC 投与と同時に移植する方法だ。まさに Good Idea だが、これを実現するためには多くの実験の積み重ねが必要だった。

まず、CD45 機能を維持したまま、抗体が認識できないアミノ酸残基を決定する必要がある。構造解析をベースに、これを満たすアミノ酸残基の変異を複数決定することに成功している。次の課題は、このような変異を CRISPR 系を用いて正確に導入するための開発で、一塩基変異を誘導できる、デアミナーゼを CAS の代わりに用いる方法を選び、様々な実験を繰り返して、最終的に正常血液幹細胞の30−50%を ADC の影響を受けない幹細胞へと変異誘導する系を確立している。

簡単に紹介したが、このシステムの開発がこの研究の全てで、後は造血系を ADC の影響を受けない幹細胞でヒト化したマウスにヒト白血病細胞を注射し、このマウスを ADC 処理する実験で、造血系はそのままで、ほとんどの白血病株を完全除去できることを示している。

また、ガンの中には CD45 発現を低下させて ADC の影響を逃れるものも出てくるが、ADC を2回投与することで耐性の問題はかなり解決できることを示している。

結果は以上で、必要な前臨床実験は尽くせていると思えるので、あとは臨床試験に移っていいのではと思える。今後予想される臨床試験では ADC と同時に遺伝子編集後の血液幹細胞を移植することになると思うので、この方法で、どこまで造血系を回復させられるか調べる必要があるが、ガンの治療に限らず骨髄移植の方法としてはかなり有望ではないかと思っている。

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