過去記事一覧
AASJホームページ > 2024年 > 5月 > 15日

5月15日 髄膜脊髄瘤の責任遺伝子の特定(5月3日号 Science 掲載論文)

2024年5月15日
SNSシェア

髄膜脊髄瘤は背骨の一部が欠損する二分脊椎の一型で、胎生期の神経管形成異常で、発生頻度は比較的高い。母体の葉酸摂取量と発症が関わっていることが知られており、葉酸摂取が勧められるようになりその頻度は低下してきた。しかし、ほとんどのケースで発生のメカニズムはわかっていない。

今日紹介するカリフォルニア大学サンディエゴ校を中心とする研究は、髄膜脊髄瘤のゲノム解析とマウス発生遺伝学を組み合わせて髄膜脊髄瘤発生のリスク遺伝子を特定した研究で、5月3日号 Science に掲載された。タイトルは「Risk of meningomyelocele mediated by the common 22q11.2 deletion(高い頻度で見られる22q11.2欠損により媒介される髄膜脊髄瘤の高リスク)」だ。

突然変異により発生する病気の多くは、子供だけに変異が見られる病気が多く存在する。この HP で何度も紹介した筋肉が骨に変わる病気FOPはその例で、精子か卵子の発生過程で起こった遺伝子変異が原因になる。この様な場合、両親と子供のゲノムを比較して原因遺伝子を特定することになるが、この研究でも髄膜脊髄瘤を発症した715ケースについて、本人と両親のゲノムを比較し、これまで報告がなかった22番染色体の q11.2 領域に小さな欠損が見られるケースを6例発見した。この領域欠損と髄膜脊髄瘤発生頻度を計算すると、正常の12-50倍のリスクになる。また、他のコホート集団も調べ、8例 22q11.2 欠損を認めている。

このうち2例では両親のいずれかに同じ変異が認められることから、この欠損により必ず髄膜脊髄瘤が発生するものではないことも明らかになった。さらに、このうち半数は、葉酸摂取が推奨されるようになってからの発症で、発症に様々な因子が関わる複雑な病態であることがわかる。

この領域には10種類の遺伝子が存在しており、発現パターンやノックアウト実験か、チロシンキナーゼと下流シグナルをリンクする機能を持ち、神経管発生時に強い発現が見られる、アダプター分子 CRKL を特定する。

後はこの遺伝子をノックアウトしたマウスを作成し、脊髄発生以上が起こるか調べることになるが、全く同じ脊髄瘤が発生するわけではなく、難しい実験だったようだ。まず、ノックアウトされた全てのマウスで異常がでるわけではなく、26%だけに尻尾がカールするという異常が認められた。

このように結果がばらつく場合、遺伝的バックグラウンドの影響もあるので、この研究ではB6マウス系統にそろえ、また低葉酸食を摂取させて発生率を調べると、脊髄瘤よりより強い異常、脳が頭蓋外に飛び出る外脳症が37%に見られるようになった。大事なことは、葉酸を摂取させたグループでは、このリスクが35分の1になることで、葉酸と CRKL が合わさって神経管発生異常が起こることを示すことができている。

最後に神経管での生化学的変化を調べると、CRKL が欠損すると ERK のリン酸化が強く抑制されることも示している。

結果は以上で、外脳症や脊髄瘤がどうしてできるのかという詳しいメカニズムはわからないままだが、モデル動物もでき、脊髄瘤という複雑な異常を解析するための入り口にようやく立てたという感じだ。

カテゴリ:論文ウォッチ
2024年5月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031