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5月14日 幻覚剤を抗うつ剤に変える(5月8日Nature オンライン掲載論文)

2024年5月14日
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この HP でも何回か紹介したが、LSD やシロシビンのような幻覚剤がうつ病に効果があることがわかってきた。このような幻覚作用や抗うつ作用はセロトニン受容体を介して起こると考えられているが、2種類あるセロトニン受容体のうち、5-HT2A を介すると考えられてきた。しかし、LSD は HT2A だけでなく、もう一つの受容体 HT2A にも反応することができ、さらに同じ親和性で両方の受容体に反応する、ガマ由来の化合物 5-MeO-DMT の存在が明らかになり、それぞれの受容体の幻覚作用と抗うつ作用の関与をはっきりさせる必要が生まれてきた。

今日紹介するニューヨークのマウントサイナイ Ichan 医科大学からの論文は、5-MeO-DMT とセロトニン受容体の構造を変化させ、5-HT1A への特異性が高まった化合物を開発することで、5-HT1A が抗うつ作用により強く関わることを示し、幻覚作用のない抗うつ剤の可能性を示した研究で、5月8日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Structural pharmacology and therapeutic potential of 5-methoxytryptamines(5-メトキシトリプタミンの構造薬理学と治療可能性)」だ。

この研究ではガマ毒素 5-MeO-DMT と2種類のセロトニン受容体との結合や活性化を構造的に詳しく調べることで、最終的に 5-HT2A への反応性が低下し、5-HT1A への反応性が高められた薬剤を開発し、幻覚作用と抗うつ作用を分離することを目的にしている。

従来指摘されていたように 5-MeO-DMT は両方の受容体をほぼ同様に活性化する。一方、LSD は 5-HT2A への親和性が若干強い。それぞれの 5-HT1A との結合をクライオ電顕で構造学的に調べると、概ね同じように結合するが、結合部位にあるさらに小さなポケットとの組み合わせが異なることを明らかにする。

そこで、5-MeO-DMT のアミン基やインドール基を様々な構造に変化させて、それぞれの受容体への親和性を調べ、最終的にほぼ 5-HT1A 特異的とも言っていい化合物 4-F、5-MeO-PyrT を開発している。そして、4-F、5-MeO-PyrT と 5-HT1A との結合の立体構造解析と、受容体側の変異導入実験から、4-F、5-MeO-PyrT と受容体との結合様態をほぼ完全に解読している。

その上で、これまで 5-HT1A 特異的とされてきた化合物と比べると、小さなポケットも含めてぴったりと結合し、その結果どの化合物より高い親和性で 5-HT1A 受容体を刺激する化合物であることを明らかにしている。

最後に、この化合物をマウスに皮下注射すると、30分をピークに脳に移行し、ストレスによるうつ状態を改善できること、そして元の 5−Me-DMT と比べると幻覚状態を反映する反応がほぼ完全に消失していることを示している。

以上が結果で、少なくともガマ毒に関しては、幻覚作用と抗うつ作用を、それぞれ 5-HT2A 及び 5-HT1A の作用であることを示すとともに、幻覚作用にない強い抗うつ剤開発が可能であることを示した。薬理学の手本といえる研究で、期待できる。

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