Gタンパク質共役型受容体 (GPCR) は人間では800種類以上あると言われており、タンパク質をコードしている遺伝子が20000だとすると、なんと4%にも達する。重要な生理機能を保つ分子が多く特定されており、これらの作用を調節するために開発された薬剤も数限りない。新しいところでは糖尿病や肥満の特効薬として注目を浴びているGLP-1アゴニストもその一つだ。
GPCRは細胞内に存在するGタンパク質と結合することでシグナルを発生し、これが最も重要なステップだが、この時どのGタンパク質と結合するかは細胞によって異なるというぐらいの知識しかなかった。実際、70%以上のGPCRが複数のGタンパク質と共役することが知られており、結局入り口ではシグナルの種類は選べず、GPCRから発生するシグナルは細胞の持っているGタンパクの種類に依存することになる。
今日紹介するミネソタ大学からの論文は、様々なGタンパク質と共役することが知られているニュロテンシン受容体NTSR1にGタンパク質特異性を付与できる薬剤の開発を目指した面白い研究で、10月22日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Designing allosteric modulators to change GPCR G protein subtype selectivity(GPCRと共役するGタンパク質のサブタイプ選択性を変化させるアロステリックモデュレーターをデザインする)」だ。
Gタンパク質はヘテロ三量体だが、GPCRのシグナルを直接感知するのはGαタンパク質で4ファミリー16種類存在している。NTSR1 はこのうちGsファミリーを除く残りのGタンパク質と結合できる。この研究では NTSR1 の細胞外、細胞内阻害剤について共役するGタンパク質の種類を調べ、細胞外の阻害剤は全てのGタンパク質の結合を抑制する一方、細胞内阻害剤 SBI-553 と NTSR1 が結合すると、共役するGタンパク質の選択性が発生することを発見する。
これまで SBI-553 の作用機序は NTSR1 にβアレスチンをリクルートして機能を抑えるとされてきたが、βアレスティンノックアウト細胞でも SBI-553 は一部のGタンパク質と NTSR1 の結合を直接阻害することがわかる。即ち、NTSR1 とGタンパク質の結合を直接アロステリック効果で抑制することがわかる。
この選択性の構造的基盤をクライオ電顕やコンピュータシミュレーションを用いて詳しく調べ、SBI-553 が結合することで浅い溝が形成されることで、一部のGタンパク質のC末端が選択的に結合したり、排除されたりすることを明らかにしている。
とすると、SBI-553 をベースに様々な化合物を設計することで、NTSR1 のGタンパク質選択性を変化させる可能性が出てくる。そこで、29種類の様々な修飾を加えた化合物を作成し、作用を調べると、SBI-553 と比べて SBI-342 がアレスチンとG12以外のGタンパク質との結合が低下すること、また SBI-593 では新しくGqとの結合性が発生すること、そしてその構造的基盤を明らかにしている。
最後に、この差を体内機能の差として比べられるかを調べるため、即座核の NTSR1 を刺激したときに起こる体温低下に対する SBI-553 と SBI-559 の作用として調べている。結果だが、期待通り SBI-553 ではGqを中心に抑えられる事から体温低下をある程度防げる。しかし SBI-559 ではGqの結合が抑えられないので体温は下がったままであることがわかる。
以上が結果で、デザインと言うにはまだまだだが、GPCRのGタンパク質選択性を調節するリガンドが設計可能であることを示せたことは重要だ。またGタンパク質以外のタンパク質とも共役するGPCRも存在することから、細胞内のシグナルをスイッチさせることで、新しい創薬が可能になると期待する。
